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勇者が死んだ(前編)03 ヒーラーの尊厳
下劣な言葉で評されたヒーラーの青年を思わず見る。極めて整った顔立ちの彼は、何の表情も浮かべていなかった。
服従の首輪は、許可なく所有しているだけで極刑が科される凶悪な呪具だ。その邪悪さは、対象の尊厳を無視した命令を聞かせることができるという効果だけではなく、それ以上に自我を完全に消し去るわけではないという部分に現れている。
つまり服従の首輪は、自我を残したまま表面上の言動のみを操るというあまりにも非人道的なアイテムなのだ。
言うことを聞かない獣につけるために生み出されたそれは、効果がなくなったときに反逆される可能性を大いに含んでいる。無論それは、ヒトに使用した場合も同じだ。
「俺の魔力は一級品だからな。首輪の鍵もしっかり管理してるし問題はねぇだろ?」
「だが……あまりに人道に反している! 彼がどんな思いで同族殺しを――」
「はいはい、股間を膨らませて言っても説得力ねぇって」
意識の外からの指摘に、俺は慌てて自分の下半身を見る。動きやすさを重視した無骨なズボンの中心は、勇者の言葉通りに勃ち上がっていた。
「これは、そのっ……」
言い訳の言葉を探しながら、ちらりとヒーラーの青年を見る。さっき、勇者の発言のせいで一瞬だけ彼の痴態を思い浮かべてしまったのは事実だ。いくら魔族とはいえ、これから旅を共にする相手を劣情を込めて見てしまった。
激しい自己嫌悪で俯き、何も言えずに拳を握りしめる。勇者はそんな俺を嘲笑うようにゲラゲラと笑った。
「分かった分かった、そんなに欲しいならたまに貸してやるよ。それなりに性技は仕込んであるから、男相手でも楽しめるぜ?」
「っ……、失礼する!」
これ以上、勇者の発言を聞いていたくなかった。自分の下劣さを直視させられたような気分だった。俺は踵を返すと、足音荒くその場を後にすることしかできなかった。
こうして始まった俺の旅路は過酷なものだった。他のパーティメンバーも含めて、敵と命を取っては取られの繰り返しだ。あれほど忌み嫌っていた勇者の素行の悪さを黙認してもいいと思えるほどには、酷い旅だった。
だけど、いくら時が過ぎてもヒーラーが受けている扱いを俺は受け入れることができなかった。
町と町の間の何も無い森で、勇者はヒーラーを使って性欲を発散させた。草むらの陰から漏れ聞こえてくる声は、愛も労りもない一方的なものだった。
「オラッ、喘げ! 男に媚びるぐらいしかできねぇバケモンがッ!」
「あっ……ァ、あっ、あ……」
「泣いて許しを請え! 魔族が迷惑をかけてごめんなさいってなぁ!?」
「うぁ、アッ、ごめんな、さいっ……ごめんなさいっ……」
自我を封じられたヒーラーは、命令されるままに屈辱的な言葉を吐き出し続けた。パーティメンバーたちはそれを疎ましく見ていることもあれば、勇者と一緒に彼を犯すこともあった。
俺自身、何度か参加しないか誘われたが、頑なに断っているうちに誘われることもなくなっていた。
旅はさらに進み、魔王の住むという城へと着実に俺たちは近付いていった。
ある日の早朝、目が覚めてしまった俺が水場で顔を洗っていると、ヒーラーがふらふらと姿を現した。
その体には首輪以外のものは身につけられておらず、散々貶められ、傷つけられてもなお美しいと感じてしまう肢体を惜しげなく朝の光に晒している。
「アレクさま?」
幼さすら感じる声で呼びかけられ、俺はハッと正気に戻る。そして、あれほど嫌悪している勇者達と同様に、彼にいかがわしい目を向けてしまっていたことを自覚した。
「す、すまない!」
「え……」
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