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勇者が死んだ(前編)07 だとしたら?
勇者と女の死体を乗せた荷車は、隣町へと続く深い森の奥へと進んでいった。
魔物が出る程度には危険で、だけど死体を軽く埋める時間が確保できる程度には安全な場所を選ばなければならない。
俺は長年の勘を総動員して、狼型の魔物の足跡を頼りに場所を選定した。
埋めた場所の目印をするために選んだ大きな岩の近く。そこに荷車を止めると、俺たちは二人がかりで人間が二人入るだけの浅い穴を掘り始めた。
一応穴掘り用の道具は二人分持ってきていたが、俺一人で掘る覚悟は決まっていた。ヒーラーの体はそういった肉体労働をするには細く、折れてしまいそうなほどか弱く見えたからだ。
だが、隣で穴を掘り始めたヒーラーを見て、俺は考えを改めた。彼が掘削具を振るうスピードは俺よりも速く、その手つきも力強いものだったのだ。
「……そうか、いくらか弱く見えても魔族だからな」
若干の敗北感を滲ませて呟くと、ヒーラーは手を止めて小首をかしげた。
「いや、何でもないよ。作業を続けよう」
己の中の彼へのイメージと現実との差に、多少の違和感を覚えつつ、黙々と穴を掘り続ける。
その違和感はやがて思いもしない方向へと育ち、彼に対する疑念となって胸の中心に居座り始めた。
彼は弱く、守られなければいけない存在ではない。俺や勇者を害することができる立場にいた、理解の及ばない強い異種族だ。
そして彼はこの旅路でずっと勇者に虐げられてきた。勇者を恨み、憎んでいることだろう。それこそ、隙を見せた瞬間に殺してしまおうと考えるぐらいには。
「……アレクさま?」
「ッ……、な、なんだ?」
不意に声をかけられ、慌てて返事をする。その時になってようやく俺は、穴を掘る手を止めてしまっていたことに気がついた。
「いや……何でもない。ちょっと考え事をな。疲れてるだけだ、きっと」
自分に言い聞かせるようにそう呟き、掘削具を振るう手を再び動かし始める。ヒーラーがいつも通り、それ以上の会話を求めてこなかったのが救いのように感じた。
大陽が少し傾いた頃、勇者と名も知らぬ女のための、仮初めの墓穴が完成した。
大人が二人、並んで横たわることができるだけの浅くて広い穴。俺たちはそこに勇者と女を寝かせると、彼らの体の上を枝や葉で軽く覆い隠した。
「……よし、あとは少し離れた場所に野営して、一晩待とう」
「はい、アレクさま」
いつもと同じようにヒーラーは答える。だけどその瞳にはまるで無邪気な子どものような楽しげな色が混じっているように見えて、俺は見て見ぬふりをしてきた恐怖が一気に込み上げるのを感じた。
「……なぁ、ヒーラー」
苦いものを噛んでいるかのようなしかめっ面で、俺は彼へと問いかける。
「勇者を殺したのは、お前なのか?」
妄想に近い疑いだ。こんなことを聞いても彼が答えてくれるはずもない。自分の問いがどれだけ無意味なものかということをすぐに悟り、俺は発言を取り消そうとする。
「いや、今のは何でもない。忘れて――」
「だとしたら?」
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