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勇者が死んだ(後編)03 なびかない人

「ハハッ、今度の剣士は童貞だったみたいだなぁ! いっそ、テメェの体で籠絡して、セックス狂いにするのも楽しいかもな?」  勇者の提案は僕にとって都合のいいもののはずだった。自分は彼が欲しいと思っているはずだ。なのに勇者の提案通り彼を誘惑することに抵抗を感じる。  今さっき彼に体を拒絶された。これから先ずっと拒絶され続ける。強引に堕としたところで僕は満たされるのか。その光景を想像し、僕はひどく泣き出したい気分になった。生まれてこの方、情動からの涙なんて流したこともないのに。 「はい、勇者さま」  自分の中の感情にうまく名前をつけられないまま、僕は勇者に返事をするしかなかった。  勇者はこちらの変化にも気付かず、ゲラゲラと下品に笑って酒を呷る。恨めしいという感情を、僕ははっきりと自覚した。  それからというもの、勇者は僕を唆して、何度もアレクに性的に迫らせた。 「アレクさま」 「なっ……!?」  あられもない格好でアレクの寝ている部屋を訪れ、慈悲を請うように潤んだ目で見上げた。  しかしその度にアレクは僕に上着を羽織らせて諭してきた。 「ヒーラー、こんなことをしなくていい。勇者に命令されたんだろうが、俺はアイツらと違ってお前を慰み者にするつもりはない」 「アレクさま」 「……部屋を追い出されたのなら、ベッドを使っていいから。俺はソファで寝るよ」  いくら誘惑してもなびく様子のないアレクに、勇者の興味はいつしか冷めてしまった。戯れに僕への陵辱に誘うことすらなくなり、僕とアレクの接点は失われた。  アレクに抱かれたい。僕が一人前の夜魔で、首輪なんてついていなければ、幻惑の魔法で無理矢理彼を籠絡することもできるのに。  でも、本当にそれでいいのか?  己が夜魔としての能力を十全に発揮してアレクを手に入れる想像は、何百回もした。その度に体が熱くなって、己の中で性欲が荒れ狂ったが、同時にそれを実現するのは嫌だと思う自分もいた。  本当に意味で彼を手に入れたい。彼と体を重ねて、心を通わせたい。首輪つきとしても、夜魔としてもあるべきではないその感情が『恋』であると自覚したのは、その頃だった。 「この淫乱! 獣以下の肉袋が! 俺たちを誘惑しやがってッ!」 「アッ、あ、ひっ♡ ん、ンアッ、ああぁっ♡♡」  すぐ近くにいるというのに、手に入れるための行動も取れないというフラストレーションは性欲となり、僕は無意識のうちにパーティメンバーで性欲を発散させた。  メンバーは僕が妙に色っぽくなっていることや、僕による性処理の頻度が増していることには気付いていただろうが、それが僕自身の欲望によるものだとは、きっと最後まで気付いていなかったはずだ。  もし気付いていたのなら、僕による反逆を警戒するようになって、あんな終わり方を迎えることはなかっただろうから。  旅の終わりが近付くきっかけとなったのは、とある平和な森の中で野営した翌朝のことだった。  前日の夜に散々陵辱を受けて気絶し、そのまま放置されていた僕は、早朝に目を覚ますと、近くにある水場に身を清めに行った。  精を多量に受けたおかげで頭はハッキリと覚めていたが、その分、嫌なことも考えてしまって、目的地へと向かう足取りは重かった。  フラフラと水場に辿り着くと、そこには冷水で顔を洗っていたアレクの姿があった。

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