97 / 109
勇者が死んだ(後編)06 罪人への罰
あれほど人としてクズな生き方をしている勇者であっても、仲間の死はショックだったらしい。ボロボロと涙をこぼす勇者を支えて、僕とアレクは彼を最寄りの町へと連れて行った。
その地で始まったのは、想定できる限り、最悪の地獄だった。
「テメェ……この魔族がっ! 俺たちを裏切ったな!? テメェのせいで……!」
「っ、ぐぅ……ごめんな、さいっ……」
呪いでうまく動かない体で、勇者は僕に暴力を振るってきた。いつもなら性行為の最中に暴力を振るわれても、自分に治癒魔法をかければすぐに元通りにできた。だが勇者は今の僕にそれを許さなかった。
「俺の傷が癒えるまで、治癒魔法を他の奴に使うことを禁ずる! もちろんテメェ自身の傷も治すな! これは首輪の持ち主としての命令だ!」
「っ……、はい、勇者さま……」
「ああ、首輪の支配から逃れようとするんじゃねぇぞ? もし逃れようとしたら、その時は自害しろ!」
「は、い……」
精さえ補給できれば、命令に逆らうこともできたかもしれない。だがすっかり僕を信用しなくなった勇者は、直接性行為を僕と行うことを止めてしまった。
勇者は巨大な張り型を用意させ、その上に僕を跨がらせて腰を振るように命じた。
「ッ、あっ……ごめんなさい、ごめんなさいっ……あっ、アアッ……!」
「誠意が足りねぇんだよ! 一晩中そうやって腰振ってろ! これは命令だ!」
「あ、ア、ごめんなっ、さい……! ぅう、ああぁっ……!」
謝罪とはしたなく喘ぐことを強要され、時にはクローゼットに押し込められてそれを続けさせられた。その行為はもはや勇者の慰み者としての責め苦ではなく、仲間殺しの大罪人への罰だった。
いくら性的に喘がされても、精を受けるわけではないので体力も魔力も回復しない。普通の食事も喉を通らなくなっていき、僕は徐々に疲弊していった。
そこまでのありさまになっても、僕は罪悪感を抱いていなかった。僕が手を抜いたから死んでいった仲間達。彼らに申し訳ないと思う気持ちは、どれだけ罰を受けても浮かんでこない。
一晩中罰を受け、廊下に座り込みながら僕は考える。
どうしてあの時、自分は防御の手を緩めたんだろう。旅の終わりが来ると自覚してしまったから? 僕はそんなにこの旅を終わらせたくなかったのか?
首輪の支配が強まり、行動と引き剥がされていく意識の中、僕はようやく自分の行動の意味を理解する。
『――せめてこの旅が終わるまでは、お前の味方をさせてはくれないか』
神秘的な光に満ちたあの明け方。姫に誓いを立てる騎士のように彼が口にしたその言葉が、僕の行動を止めた全ての原因だった。
そうか。
小さく口を動かして、呟こうとする。だけど首輪はそんな体の自由を許してはくれなくて、僕の納得は胸の内だけで反響する。
僕は、彼にずっと味方でいてもらいたかったんだ。旅が終わって、あっさりと存在を忘れられ、彼が別の誰かの味方になるのが嫌だったんだ。
自分だけを守ってくれる騎士で居続けてほしかった。彼と離れたくなかった。ずっと今の旅が続けばいいと思っていた。それなのに、ずっと目をそらしてきた旅の終わりを急に突きつけられて、身が竦んでしまった。自分が止まることで旅の終わりが遠ざかるなら、そうしてしまえと反射的に判断してしまった。その結果がこれだ。
随分遅れてその結論に辿り着き、だけどその時にはもう体の支配権はほぼ完全に首輪に奪われていた。
アレクに懺悔したかった。自分の罪を告白して、赦しを請いたかった。何も分からぬまま、疲れ果てている彼に真実を告げたかった。
それをしたところで自分が断罪されて、反逆者として処刑されるだけだとしても。アレク自身に軽蔑されて嫌悪されるだけだとしても。それほどまでに自分がアレクのことを想っていたのだとせめて最後に伝えたかった。
見えない分厚い壁が、僕の意識を完全に閉じ込めてしまう前に、独りよがりなこの想いを彼に告げたかった。
そんな切なる願いを神は聞き届けたのか、いつのまにか目の前に歩み寄っていた彼が、僕にそっと声をかけてきた。
ともだちにシェアしよう!

