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勇者が死んだ(後編)10 だとしても

 勇者を埋めるための段取りは思いの外、順調に進んでいった。一番大きな要因は、宿屋の店主が協力してくれたことだ。  店主が僕の首輪のことを知らないというのは好都合だった。首輪と僕が魔族であることを知っている人間が冷静に考えれば、この偽装に僕を関与させるのは危険だと判断することだろう。連日、性的に虐げられていた上に、首輪という動機のある僕は真犯人の最有力候補だ。  事情を知っているはずのアレクはその可能性に一切触れてこないが、それは彼が善良すぎるだけの話だ。  実際、知っている限りの情報で推理をしたのか、店主は僕だけがいる場で僕を牽制してきた。 「私は真相がどうであっても、何もする気はありませんよ。必要であれば、神にだって誓います」 「……分かりました」  店主の言葉を、僕は信じることにした。彼が真相に気付いていて、王国にそれを報告したとしても、死体損壊に協力した彼は何かしらの罪に問われる。下手をすれば縛り首だ。  そんなリスクを負ってまで、真実を告発するつもりはない。  僕は、彼の言葉をそう解釈した。アレクはこういった言葉での駆け引きは苦手な性分だ。こうして僕が勝手に対処していても、気付くことすらないだろう。  勇者の死体をネクロマンスで動かし、女の死体を荷物の中に隠して、僕たちは町を出発した。  途中で町の人間に声をかけられた時は冷や汗をかいたが、何とか誤魔化せたように思う。  僕たちは穴を掘る場所を選定し、掘削具で順調に穴を掘り、勇者と女の死体をそこに隠した。そしてそのまま立ち去ろうとしたその時――アレクは思い詰めた表情で問いかけてきた。 「なぁ、ヒーラー。……勇者を殺したのは、お前なのか?」  不意打ちで問われたその内容に、全身が総毛立つような感覚に襲われる。  どうしてその発想に思い至ったのか。自分が何かボロを出したのか。誤魔化すべきか。否定するべきか。でも、どうやって? 「いや、今のは何でもない。忘れて――」 「だとしたら?」  荒れ狂う感情と思考の末、口から出たのは、アレクを試すような一言だった。  こんなことを聞くべきじゃない。否定するべきだった。暗に自分が犯人であると示して、その上でどうしたいのかだなんて尋ねるべきじゃなかった。  だけど己の中の臆病な部分が、その可能性に思い至った彼が何を思っているのか知りたいと叫んでいる。僕の味方をしてくれると行ってくれた彼。旅が終わるまでは、僕を守ってくれると誓った彼。そんなアレクを、僕は――  そこで、僕は唐突に理解する。  自分は、彼と旅を続けるために勇者を殺したんだ。  勇者を殺せば、魔王討伐への道は閉ざされるが、すぐに新しい勇者が手配される。生き残った自分たちはきっと、新しい勇者の旅に同行することだろう。そうすれば、僕と彼の旅は続く。だから僕は、勇者を殺したのだ。  全てが台無しになる瀬戸際になってようやくそれに思い至り、僕は泣き笑いのような表情を浮かべたまま、アレクによる処断を待ち続ける。  だが、アレクが口にしたのは、すぐには理解できない言葉だった。 「どうもしないよ」 「え……」 「そんなことより、渡したいものがあるんだ」  何故か吹っ切れたような表情で彼が取り出したのは、禍々しい紋様が刻まれた短剣だった。それを一目見ただけで、僕はその短剣が首輪の鍵だと理解する。 「これを、お前に渡そうと思う」  耳を疑う言葉を、アレクは唇から紡ぎ続ける。 「お前はもう十分に頑張ったと思う。今がきっと逃げ出すための最後のチャンスだ。首輪を外した後、もし俺を生かしておいてくれるなら――お前は、魔物との戦いで食い尽くされたと証言しよう」

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