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勇者が死んだ(後編)11 呪いの発現
アレクの真っ直ぐで真摯すぎる眼差しに見据えられ、僕は狼狽してしまう。
許された。それだけではなく、彼は僕を解放しようとしている。心の底で望んでいた思い上がった光景よりも、さらに都合の良い言葉を向けられ、僕は怖くなってしまった。
「どうして……」
見知らぬ地で置き去りにされた幼子のような、心細い声が出る。アレクは苦笑した。
「どうしてだろうな。勇者パーティの一員が魔族に肩入れなんかしちゃいけないのに……」
その通りだ。僕を解放したことが公になれば、彼はきっと縛り首だ。勇者の死体を損壊するという罪はまだ、国のメンツのためだったと言い訳ができる。
だけど僕の解放はそうではない。ただでさえ危険で規制されている呪具を、ただの情で解放して、危険な魔族を野に解き放つ。法も国も民も、決して彼を許さないだろう。
それなのに彼は困ったように笑いながら、僕に短剣を差し出すのだ。
「どうか、これ以上は聞かないでくれ。俺もどうして自分がこんなことをしているのか、説明ができないんだ。……俺からもお前にこれ以上、『どうして』とは聞かないから」
夢を見ているのかと思った。そう感じるほど彼が向けてくる感情は、僕が欲しくて堪らないと夢見ていたものだった。
受け取るべきだ。今こそ温存していた魔力を使って、首輪の呪いを打ち破り、力を取り戻して彼を手に入れるべきだ。
受け取るべきじゃない。僕の我欲のために彼を破滅させちゃいけない。彼が望むような穏やかな解決を、僕は与えることができない。人の道を外させてはいけない。こんな綺麗で、純粋で、高潔な人に。
僕はどちらを選ぶべきかひたすらに迷った末、結局、合理的な己に従ってしまった。
手を伸ばし、呪具の片割れである短剣を受け取る。魔力に満ちたその道具は、やけに重く感じた。
これを使って、首輪から己を解き放つ。そう意識した瞬間――今まで意識の外側に置いていたとある呪いが、閃光と破裂音とともに発動した。
「っ……!?」
手が勝手に動き、短剣を鞘から抜き放つ。ギラギラと輝くその切っ先が己の首元へと向き、勝手に近付いてくる。
『首輪の支配から逃れようとするんじゃねぇぞ? もし逃れようとしたら、その時は自害しろ!』
怒り狂った勇者が感情のままに言い放った言葉。それが逆らいようのない命令として僕の体を支配し、自由になりかけていた精神が支配の壁の向こう側へと押し込められていく。
慌てた様子でアレクが駆け寄ってくる。必死で手を伸ばしてくる。
たすけて。
今まさに破滅させようとしていた相手に、恥知らずにもそう懇願する。顔が、恐怖と絶望の形へと醜く歪む。
「ダメだ、やめろっ……!!」
アレクの手がギリギリのところで僕の手を捕まえる。首輪に支配された僕の体は、反射的に彼の手を振り払おうと、短剣を握ったまま腕を乱暴に動かす。
刃の切っ先が肉に食い込む感触。続いて指が緩んで、短剣が放物線を描いて遠くへと飛んでいく。
「う、ぐぅっ……」
穴を掘るために軽装となっていたアレクの胸は、短剣に切り裂かれて深い傷を負っていた。
「ああ、ああぁ……」
フラフラとよろめき、その場に崩れ落ちたアレクに、僕は慌てて駆け寄る。
早く治癒魔法をかけないと。アレクが死んでしまう。でも、治癒魔法さえ使えばこの程度の傷――
「え、な、なんで……?」
いくら呪文を思い浮かべても、魔力を指先に集めても、治癒魔法は発動しなかった。泣き出しそうになりながら、僕はアレクの命を繋ぎ止めようと必死に治癒を試み続ける。
『俺の傷が癒えるまで、治癒魔法を他の奴に使うことを禁ずる!』
「っ……!」
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