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勇者が死んだ(後編)15 真実は胸の中だけに
アレクの胸に縋り付いて、何度もしゃくりあげる。今更どんな言い訳を重ねても無駄だと分かっていたが、それでも彼に弁明するのは止められなかった。
彼は、自分の上にのしかかる形で泣きじゃくる僕をじっと見つめた後、不意に優しい手つきで僕を抱きしめてきた。
「大丈夫、分かっているから」
「アレク、さま……?」
「魔族の本能に流されただけなんだろう? お前がこんなことしたくないってことは、ちゃんと分かってる。大丈夫」
そっと抱き寄せられ、幼子にするかのように頭を撫でられる。いつもは力強さに満ちているその手のひらが、今は僕を宥めるためだけに慎重に動かされていて、僕は自分がどんな感情を抱くべきなのか分からなくなってしまった。
アレクは、僕が彼と性交を行ったのが不本意なものだと思っている。それは本当のことで、でも正確な真実じゃない。
僕は彼とセックスをしたいとずっと思っていた。本能の暴発でそれが為されてしまったことに絶望していただけで、彼とつながること自体は心の底から嬉しいと思っていた。
だが、それは口にするべきではないことだ。勘違いしてくれているのなら、それでいい。失望され、嫌悪されるよりは、本当の想いを隠してしまう方がずっといい。
「アレクさま、僕は……」
「もう何も言わなくていい。その……お前は夜魔の血を引いていたんだな。これまで、勇者たちとの性交で、実は力を取り戻していたんだろう?」
「……はい」
「それなのに、変わらずパーティーの一員として戦ってくれて、今だって深傷を負った俺を知恵を絞って治してくれたんだ。少しくらい暴走したって、俺がお前を仲間だと思う気持ちは変わらないよ」
闇夜のように黒く湿った僕の髪が、彼の指先で弄ばれる。
嬉しかった。何もかも都合が良すぎた。アレクが何かの誤魔化しではなく、本心からそう言ってくれているのは間違いない。彼は、あんなことをしたはしたない僕を、それでも仲間だと思ってくれている。
でも、『仲間』なのだ。彼にとっての僕はただの旅の仲間でしかない。
こうして事故のような形で肌を重ねることになったけれど、こんな機会はきっとこの先二度と訪れない。もし次があるとしたら、その時は、今度こそ彼に軽蔑される時だ。
「あ、のっ……」
緊張で震える喉を動かし、僕は彼に話しかける。彼は優しく穏やかな顔で、体の上にいる僕を見守っていた。
「僕を、抱いてくれませんか……?」
未練をここで断ち切るように、ぎゅっと手を握りしめて僕は言う。彼はわずかに目を見開き、僕の髪を撫でていた手を止めた。
こんなこと言うべきじゃない。せっかく存在を許されたのに、それを投げ捨ててまで浅ましく願うだなんて、狂っている。
でも、今ならきっと彼は僕を抱いてくれる。これが最後の機会なら、全て本能のせいにして、慈悲を請うたっていいじゃないか。
「体が、熱いんです……。このままじゃまた、アレクさまを襲ってしまいます。だから、その前にいっそ……」
「ヒーラー……、だが……」
迷いで表情を曇らせる彼に顔を寄せ、優しく口付けをする。
先ほどとは真逆の、快楽を得るためではなく、想いを受け渡すための静かなキス。
ほんの数秒の触れ合いの後、僕は彼の手を持ち上げ、懇願するように軽く頬擦りをした。
「お願いします、アレクさまになら、僕っ……」
精一杯、哀れに見えるように言葉を連ねる。涙交じりになったのは本心だ。拒絶されることへの恐怖で涙が込み上げ、頬に触れさせたアレクの手にポタポタと雫が落ちる。
アレクはしばらく黙り込んだ後、体を起こして、そっと僕を地面に押し倒した。
「本当に、俺でいいんだな?」
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