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勇者が死んだ(後編)16  ささやかな嘘

「……はい、アレクさま」  あなたがいいんです。あなたじゃなきゃいやなんです。  そんな本心は微笑みの裏に隠し、僕は彼を見上げながら両腕を広げる。 「来て、アレクさま」  促されるままにアレクは僕の上に覆い被さる。そしてじっとこちらを見下ろすと、躊躇いがちに僕の唇へと不器用なキスをひとつ落とした。 「その……こういうことは、初めてなんだ」 「はい」 「どうか下手くそだと、笑わないでくれると嬉しいんだが」 「笑いませんよ」  キスのお返しに、彼の顔に何度も触れるだけのキスをする。  これは同情だ。仲間が苦しんでいるから、義務的に性交に応じてくれているだけなんだ。  そう思ってしまいたいのに、彼の言動のひとつひとつから滲み出る優しさが、僕を勘違いさせようとする。  もしかしたら、愛されているんじゃないか。彼は僕を愛してくれているんじゃないか。  そんなことはありえない。思い上がるな。これは、最初で最後のただの情けなんだ。  彼のたどたどしいキスは何度も僕の顔に降ってきて、その目に男としての欲がちらつき始めるのをぼんやりと見上げる。 「ヒーラー、その、前戯というやつは……」 「要らないです。そんなことしなくても、簡単に入りますから」  そう言ってしまってから、今のは淫らすぎる発言ではなかったかと思い至り、口をつぐむ。アレクは一度、泣き出しそうなほどぎゅっと顔を歪めた後、僕の額に張り付いていた髪をそっと退け、触れるほどに近い距離で囁いた。 「できるだけ優しくする。……苦しかったら、すぐ言ってくれ」  彼の思いやりが声の振動となって肌にも伝わってきて、僕はまるで想い人との初夜を迎える乙女のように胸を高鳴らせる。  少しでも気を抜くと、興奮した獣のように浅ましく息をしてしまいそうになる。だけどそんな期待を込めた目を彼に見せたくはなくて、僕はただぎこちなく微笑んだ。  アレクはもう一度軽く口付けを落とした後、体を起こして僕の腰を引き寄せた。彼の性器はすでに硬さを取り戻しており、それを視界にとらえただけで準備の整った濡れそぼった穴がぱくぱくと動いてしまう。 「入れるぞ……」 「はい……、ん、あぁぁっ……♡♡」  ゆっくりと押し込まれたそれは、柔らかい穴を押し広げて奥へ奥へと進んでいく。ただ挿入されただけだというのに、僕の全身には多幸感が駆け抜け、じわじわと水位を上げていくかのように体を包み込んでいくその快楽に、なすすべもなく体を震わせる。  僕の得ている快楽につられるように、穴の内側は複雑に蠢き、アレクのものを歓迎する。彼は上から押し込むようにじわじわと性器を挿入していき、先端が行き止まりにぶつかったところでようやく動きを止めた。 「っ……、はっ……。ここが、一番奥みたいだな……」  今すぐにも激しく腰を打ちつけて、快楽を貪りたいと彼の目は雄弁に語っていた。だけどそれを押し殺し、誤魔化すように独言るアレクが愛しくて、僕はちょっとしたいたずら心を抱いてしまった。 「いいえ、そこはまだ途中ですよ」 「え?」 「もっと奥があるんです。そのまま、どんどん押し込んでください」  彼が無知であることに付け込んで、ささやかな嘘を吹き込む。どうせ最初で最後なのだ。最高に気持ちよくて幸せな思いをしてみたい。  そんな強欲な下心のままに、僕は彼の腰に足を絡めてぐっと引き寄せた。 「ほら、来てください。僕は、大丈夫ですから」  視線にわずかに魔力を込め、彼の判断力を鈍らせる。彼は困り果てたようにしばし躊躇った後、恐る恐る僕の腰に上から体重をかけてきた。

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