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🎼Lesson6《名探偵・瑛二の考察》

🎼Lesson6《名探偵・瑛二の考察》  遮るもののない陽射しの中、テラス席で瑛二がカフェテリア名物──ギガントチョコレートデラックスパフェを攻略していた。その様子を、晃が半ば呆れた顔で見守っている。  仁と奏に気付いた瑛二がスプーンを振り回して場所を知らせた。 「お疲れーい! なになに、ふたり一緒だったの? まーたイチャイチャしてたんだろ! やらし~!」 「イチャイチャなんてしてない!」 「おー……こいつが離してくれなくて、な」 「!? ちょっと! 適当なこと言うな!」  瑛二の揶揄に即座に反応する奏が、向かい側に腰を下ろしながら慌てて否定する。けれど、その耳の先はほんのり赤い。  一方の仁は、わざとらしく満更でもなさそうな顔を作っていた。  いつもならカフェテリアで別れる仁が、奏の隣に腰を下ろした。白いTシャツの襟に引っ掛けていたサングラスを眩しそうにかける姿さえ様になっていて、無性にむかつく。 「でもさでもさ! かなぴ、最近なーんか楽しそうじゃね? いいことあったっしょ!」  仁との「セッション」を経て、奏はどこか弾むような空気を纏っていた。それは瑛二が訝しげに口を出してしまうほどに。  バニラシェイクのストローを咥えたままキョトンと目を丸くする奏は、一瞬の動揺を悟られないよう澄ました顔で幸せの味がするそれを啜る。 「……べ、別に?」 「うっそだあ! だってぴかぴかオーラにラメ増し増しって感じだもん! なあ晃!」 「それはよく分からんが……まぁ……元気そうで何よりだな。ここ最近は忙しなかったもんな。──早坂の件とか」  今まで黙して瑛二の常識外のパフェを引き攣った顔で眺めていた晃が、ちらり、と仁へ視線を送る。  仁は「心当たりなどありません」とばかり、とぼけた面持ちで肩を竦めて見せた。  今日は午前の一コマだけで、それ以降は空きの時間だった。ふたりに内緒にしているわけではないが、仁と練習室で落ち合っていたのだ。だからだろうか、晃の言葉に、奏はドキッとする。 「あーね。結局、早坂と課題のペア組むんでしょ? いじめられてない?」  鼻の頭に皺を作りながら大口を開け、凡そ一口とは言い難い量のアイスを頬張る瑛二の歯に衣着せぬ物言いも、その〝かたち〟でただ奏を心配しているだけだと分かる。  だから奏は困ったように笑うだけだった。 「大丈夫。それに……こいつも噂ほど悪いやつじゃないよ」 「え、やば。俺どんな噂されてんの」 「そなの? ……ふーん。じゃ、いじめられたら瑛二パパと晃ママに言うんだぞ!」 「誰がママだ……でも秋森、困ったことがあったら頼っていいんだからな」 「待って待って、俺そんな悪名高いん?」  思わぬ巻き添えを食う仁を余所に、「ありがとう」と奏は笑みを深める。  刺々しい〝かたち〟が奏を抉る世界の中で、ふたりはいつだって春の陽射しのような〝かたち〟で奏を包んでくれる。 「早坂も、秋森のこと……頼む。少し人見知りだけど、いいやつなんだ」  奏を案じる晃の言葉に「オッケー、ママ。任せといてよ」と仁は応じ、「だから、誰がママだ」と呆れる晃に、唇の片側だけを上げて茶化すように笑って見せる。  最初こそ警戒していた晃と瑛二も、今では随分と気安い。噂と実像の差か、奏の仁への態度の変化か──理由はともかく、「頼む」と言われる程度には打ち解けていた。 「しかし……早坂も良かったな。ただのナンパに終わらなくて」 「や、別にナンパなわけじゃ……まぁ反論はできねえけど」  晃はパフェに夢中な瑛二のチョコまみれの口元を拭くべきか迷いながら、仕返しとばかり意地悪く目を細める。  どう好意的に見積もっても、あれはナンパだろうと仁も自覚していた。けれど、あの時はあれが最適解だったのだ。 「いやぁ……ピアノ科と共同課題って聞いてさ、しかもペア見たらまさかの名前が書いてあるじゃん? もうテンション上がって居ても立っても居られなくってさあ」  去年の試験以降、仁は奏のことを密かにリサーチしていた。  友人は二人、交友関係は狭く、社交的でもない、真面目で優秀──おまけに、笑った顔が衝撃的に愛らしい。  どうにか接点を作りたくて必死だったのだ。 「だから……あー……ちょっとだせえこと言うけど。あの日……試験の発表があった日、実は朝から教務課の前で張ってた……ペアの決定通知、一番に知りたくて」  照れたようにはにかむ仁に、奏は反射的に「可愛い」と胸のうちで零すが、晃と瑛二はそうではなかったようだ。 「ストーカー……?」 「照れるところか……?」  チョコまみれの瑛二の呟きと、結局瑛二の口元を拭いてやっている晃の引き攣った顔。 「えっ……待って待って、何かドン引きしてない?」 「本当に……ただのナンパで終わらなくて良かったな……」  「あれえ!? 俺そんなヤバい奴!?」 「そ、そんなことないよ……たぶん……」  生温かい眼差し、というものを仁は初めて実感した。  宥める奏と自分の挙動を必死に思い返している仁を前に、じっと観察していた瑛二がおもむろに声を上げた。 「ていうかさぁ……早坂のそれって、恋じゃね?」  ぴし、とスプーンでふたりを指し示した。名探偵ばりのキリリとした表情もチョコまみれで台無しではあるが。 「……故意……?」と奏。 「鯉……?」と仁。 「いや、恋。ラブ。……えっ!? 逆に何でそんなポカーンってしてんの? 俺、能力云々のことは分かんないけどさ……好きでもないやつに、そこまで必死になるぅ?」  その言葉を認識した瞬間、ふたりの鼓動が一つ、空振りした。  花びらが舞う奏の幻視。  仁の視界では、桃色が光に弾ける。  けれど、それは瞬きの間で消えてしまい、後には困惑を浮かべたふたりだけが残った。 「い、……いやいや! 恋って! 俺はただ、理想の〝色〟をこいつとなら作れるかもって……!」 「そ、そうだよ……! 単位落としたくないだけっていうか……っ」  焦燥感に押されるまま必死に弁解するふたりを余所に、瑛二の興味は既にパフェの底に溜まったシリアルへと移行されていた。「ふーん」と適当に相槌を打つその態度が、余計にふたりを焦らせる。 「いや、ふーんて! マジでちげーから! そりゃ可愛いかどうかって言われたら可愛いと思うけどさ!」 「そ、そう! ……え、そうなの? いや! そうじゃなくて! ちょ、瑛二! 聞けって!」 「まあまあ……ふたりとも、落ち着け。瑛二も掻き回すだけ掻き回しといて呑気に食うな」  ヒートアップしていく仁と奏に待ったをかけたのは、他でもない、瑛二の手綱を幼い頃から取ってきた幼馴染の晃である。  実際、晃の目にも何かが芽吹きかけているようには見える。  けれど、それを外から決めつける必要はない。晃は、誰よりも冷静に穏やかな笑みを重ねた。 「そう見えるほど仲良くなって良かったなってことだよ。秋森も早坂も才能あるからな……ふたりがどんな音を聞かせてくれるのか、俺も楽しみだ」  多少強引かとも思ったが、ホッとしている仁と奏を前にそれ以上突っ込むのは不憫だと、代わりに瑛二の口の中にシリアルを突っ込んで黙らせる晃だった。

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