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🎼Lesson19《祭で食べるたこ焼きは妙に美味い》

「あのさぁ……俺ら、デートだって知ってるよな? 何で理央たちが居んだよ……嫌がらせか? あ?」 〝かたち〟と〝色〟、そして美味しそうな匂いで溢れ返る祭り会場で、仁は腕を組んで低く凄んだ。  目の前には申し訳なさと揶揄とが混ざった理央が、茶目っ気たっぷりに両手を合わせて首を竦めていた。 🎼Lesson19《祭で食べるたこ焼きは妙に美味い》  ──講義を終えてひと足先に家へ戻った奏を仁が迎えにきたのは、ちょうど十八時をまわるタイミングだった。  まだ薄明の頃、アスファルトに蓄積していた熱が風と混ざって頬を撫でる。そんな不快な生ぬるさの中でさえ、仁は爽やかに笑っていた。奏が浴衣ではないことを大袈裟なほど戯けて残念がって、奏の顰蹙を買う姿もいつも通りだ。  肩を並べて歩く奏の耳に、イヤホンが入っていない。それを横目に捉えた仁の心が、一瞬だけざらり、と撫でられるがすぐに唇を引き結ぶ。何かあれば自分が守ると伸びた背筋は、繋ごうとした手をぺち、と叩かれたことでしおしおと縮んだ。 「奏、なに食べたい?」 「お祭りって何があるの?」 「チョコバナナとかいちご飴。焼きそばもたこ焼きも何でもある。奏、ちっせえのに大食いだからなあ……良かったな?」 「小さくない! お前がデカいんだ!」  走り回る子供を嗜める両親の尖る声の〝かたち〟も興奮する若者たちの爆発する戯れの声の〝かたち〟も、隣に仁が居てくれるだけで奏の胸のうちは憂いの一欠片も生じなかった。耳鳴りのように刺さる周りの忙しない雑踏の音は、仁の揶揄する低く穏やかな笑い声で緩和される。  そうして人の流れに身を任せゆっくりと進んだ先に広がる世界は、またしても奏が初めて見る景色だった。  連なる提灯はまるで夜空に散る星のように煌々と宵を照らし、その下には果てしなく続いているかのように屋台が並んでいる。行き交う人々の活気と屋台の鉄板から立ち上る熱気が混ざり合って、音も色も匂いもすべてがチカチカと奏の五感を騒々しく刺激した。  呆気に取られている奏を心配した仁が顔を覗き込む。けれど、音に怯えて硬直しているのではと推測した仁の斜め上をいく奏の姿がそこにあった。  普段は澄ました顔がぴかぴかと星のように輝いていた。まんまるに見開かれた瞳は視界に映るすべてを把握しようとしている。白い頬は高揚してピンク色だ。それでも少しばかり物怖じしているのだろう、無意識に仁の黒いTシャツの裾を握り締めていた。 (あー……堪んねぇ……かわい……)  離れたくない、と言われているようだった。  込み上げる愛おしさが笑みとして漏れ出そうになる。  けれど、この瞬間が出来るだけ長く続くように仁は呼吸すら最小限にとどめて祭りに感動している奏を見つめていた。──と、いうのに。  仁の小さな幸福をぶち破るように、理央たちが現れたのだ。 「悪かったって! そんな怒んなよ……みんなで遊んだ方が楽しいと思って!」  理央の後ろに数人、顔見知りばかりだ。仁の眉間に深い皺が現れ、じろりとそちらへ鋭い眼光が向けば「俺は知らなかった!」「理央が!」と口々に身の安全を図ろうと必死になっている。 「ま、まぁまぁ……理央くんも悪気があったわけじゃ……」と奏がかばう。 「悪気しかねえだろ。デートなんだぞ、こっちは」納得いかないと顔を顰める仁。  その拗ねた横顔も、奏には可愛くて堪らなかった。思わずにまり、と緩む口元を仁が怪訝な表情で見下ろしている。  不機嫌さを隠そうともしない仁へ、奏が身を寄せる。宥めようと奏が発した密やかな声は、思いのほか甘く彼に届いたようだ。 「あとでこっそり抜け出そう? ……ね?」 「うッ」と濁点がついたような呻き声をひとつ、仁が天を仰ぐ。 「……どこで覚えてくんの、そういうのぉ……」  腹の底から湧き上がってくる衝動をいなすように止まっていた息を吐き出す。これがわざとではないというのだから末恐ろしい。仁はギュンと音を鳴らす胸を掌で摩った。  当の本人はキョトンとした顔で仁を見上げ、その柔らかい虹彩に仁の身悶える顔を映している。 「……なー……そろそろイチャイチャ終わった? 腹減ったんだけど」  人目を憚らないふたりの戯れを見守っていた理央の腹の虫が文句を呈した。それと同時に、理央の口からも同じ文句が発せられる。  イチャイチャなんてしてない!と奏は慌てて否定するものの、仁は黙して理央を睨め付けることで肯定している。  それでも諦念の溜息を、わざとかというほど大袈裟に祭りの空気に溶かしてから群衆の中へと足を進めた。

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