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🎼Lesson32《重なる体・前編》◆

 気付いたときには、昂ぶる感情を持て余したまま楽屋になだれ込んでいた。  どちらともなく顔を寄せ、唇を重ねる。  奏は縋るように仁の首へ腕を回し、仁はその腰と後頭部を静かに支えた。乱れた髪も気にしている余裕はなかった。  長い口付けのあと、ついに耐え切れなくなって力が抜ける奏を、仁はそのまま抱き留めた。目尻を赤らめる奏が、濡れた唇の隙間から必死に酸素を取り込んでいる。 「ごめ……っ……はぁ……ン、っ……は、ふ……な、慣れて、なくてっ……俺……」  また笑いながら揶揄われるのだろうか。  そんな予感とともに奏は仁を見上げた。 「奏……ッはぁ……可愛い、好きだ、っ、俺の、俺だけの奏……ッああくそ……悪い、俺すげえ舞い上がってる……っ」  けれど予想に反して仁の表情に笑みはなく、切羽詰まった色を帯びていた。  火傷しそうなほどの劣情を秘めた仁の瞳から、奏は目を逸らせなかった。痛いほどに心臓が早鐘を打っている。  不意に、奏は下腹に熱を孕んだものが触れている事に気付く。同じ男である以上、それが意味するところは分かってはいる。それでも確認せずにはいられなかった。  恐る恐る視線を下に向ける奏。  思わず「ひぇ……」と喉から声が漏れた。  内心慌てふためく奏に、仁は熱い吐息を彼の耳へ押し付けながら掠れた声で囁く。 「……抱きたい」  ぞくり──期待と不安でうなじが粟立つ。  仁が強く抱き締める腕の中で、奏は小さく頷いた。 🎼Lesson32《重なる体・前編》◆  ──まるで、海の底にいるようだった。  青く沈む部屋の中、月明かりが揺れるシーツの上で、泳ぐように二人は熱を交わし合う。  聞こえるのは互いの心音だけだ。 「奏……怖い?」  以前、仁の部屋でキスをしたときとは比べ物にならない緊張感が、奏を包んでいる。  会場から仁の部屋へと移動する間も言葉はなく、ただただ仁は優しく奏の手を握ってくれていた。 「ん、っ……ぁ、ンん……! だ、いじょ、ぶ……ッこわく、ない……」  仁の大きな掌が、奏の全身を撫でる。  首筋を辿りながらネクタイを解き、薄い胸を撫でながらシャツのボタンを外していく。  仁の瞳は、暴走しないよう必死だ。 「怖くなったら思い切り殴れよ? じゃないと俺からは止めてやれないし……」 「そんな……ふぁっ……!」  今だってこんなにふにゃふにゃなのに、自分に何が出来るというのか。奏の非難がましい声は、甘い吐息混じりの嬌声に変わる。  慎ましやかな胸の突起に仁の指が乗り、くに、と粒を控えめに押し潰される。それだけで大袈裟なほど奏の腰が跳ねた。 「かわい……ちゃんと気持ち良くなれるように頑張るから」 「っ……お、お手柔らかに……ン、ぅ……!」  確かめるように突起の輪郭を撫でたかと思えば、揃えられた爪の先で掻かれる。  奏はぴったりと唇を合わせて声を殺し、仁の唇へ視線を落とした。その愉快そうな唇が首筋へ滑る。 「ぁ、ンッ……! お、俺っ……俺、男だし、そんなとこ……ッひぁ!?」  何度となく薄く柔らかな皮膚へ唇を押し付け、口付けを散らしながら鎖骨へと降りていく。早鐘を打つ胸元に辿り着き、突起へ触れる仁の下唇に奏の声が跳ねた。 「ふーん? 『そんなとこ』でこんな可愛い声出してんの? 心配だなあ……」 「う、ぐ……意地悪、すんなぁ……ッぁ!? や、やだやだ、待っ……ひンんっ!」  先程までより緊張感の薄れた悪戯っぽい笑みで、上目に奏の顔を見上げる仁。見せつけるように開いた唇の間に突起を挟む。舌をまとわりつかせ、ぬるぬると唾液を絡められる刺激は、奏にとって腰が浮くほどの快感だった。 「ここ、好き? 気持ち良い? 教えて、奏。腰、動いてるけど」 「あ、ぁ、っ、んひ、わ、分かんない……ッこんなの、初めてで……ッぅあ……!」  舌先で尖りを執拗に愛でる一方で、仁の手は舐めるようにするすると体の線に沿って滑っていく。  落ち着きなく揺れては弾む奏の腰をなぞって、薄いけれど他の部位と比べれば随分と柔らかな双丘へと五指を広げた。そのまま指を沈み込ませ、やんわりと腰ごと引き寄せる。 「ん……良かった、勃ってる」  合わさった下半身で、互いに昂っていることを悟った仁は、どこかホッとして体を起こした。ベッドに沈む奏を見下ろしながら布越しに屹立を擦り付け、焦らすようにシャツを脱いでいく。 「うぅ……も、もうひと思いに挿れてよ……」  月明かりに濡れる仁の引き締まった体に、奏の羞恥が一気に募る。 「ふは、……ばかだな。ンなこと出来るかよ。それに……ここからが楽しいとこだろ?」  首筋まで赤らめながら顔を背ける奏に、仁は喉奥で低く笑った。 ◇  あれよあれよという間に一糸纏わぬ姿に剥かれ、気付いた時には奏は仁の膝の上に招かれていた。  あらぬ場所に潜り込んだ仁の指が生き物のように奏の体の内側を辿る。  最初こそ、拭えない違和感が全身を支配していた。けれど、時間をかけて拓かれるうちに、何とも言いがたい淡いむず痒さがじわり、じわり、と広がっていったのだ。 「じ、んっ……! 仁、待ってぇ……ッ何か、ぁ、あッ、ンひ、何か変だから……っ!」  奏は喉から引っ切りなしに漏れる甘やかな声が、自分のものだと信じられなかった。その執拗とも言える愛撫の丁寧さに、奏の体も心も限界だ。 「痛いわけじゃないんだよな? ……だったら、やめない」 「っ……頭、おかしくなる……!」  素肌同士の触れ合いが熱くて、重なる下腹部の焦れったさがもどかしい。  仁の長い指が奏の体内を優しく掻き回す度に、視界の端で爪先が跳ねる。  まだ足りない、と仁が後孔を慣らし始めてどれくらいが経っただろうか。調律しているときと同じ真剣な眼差しに、奏が笑いそうになっていたことが遠い記憶のようだった。  戯れに胸の飾りを吸われ、思い出したようにとろとろの屹立を扱かれる快感で腹の底が変に重い。 「ぁ、あ、っ、ひ、ぁッ……んぅ……っ! 両方したらだめっ……! じ、仁っ……も、俺……ッ俺ぇ……!」 「ん、イきそ? ……いいよ、一回出しとくか」  顔を上げた仁の瞳は、蠢く指先の優しさや声の穏やかさとは相反して、確かに獣のような熱を孕んでいた。 「ッあ……!? ぁ、っ、も……ッイ、くぅ……っ!」  その眼差しだけで、奏の脳天まで甘い電流が一気に駆け上がった。 「っ……イキ顔も可愛いなんて反則だろ。ッあーもう……勃ちすぎてイテェ……」  びく、びく、と余韻で勝手に弾む腰を仁が宥めるように撫でるが、それさえ逆効果だ。  猛る仁自身に、奏が放ったものが纏わり付いて垂れる。  仁は昂ぶる欲を霧散させようと深呼吸を繰り返す。このあとの期待を仄めかすかのように仁の指を咥え込んだ窄まりがひくり、と震えていた。 (俺の頑丈な理性に感謝しろよな……)  それでも内心とは裏腹に無理に事に及ぼうとしない仁は、くったりと力の抜けた奏を優しくベッドへ押し戻す。 「はぁ……ッは、ぁ……仁っ……は、ふ……まだ、だめなの……?」 「もう少しだけ、頑張れるか?」 「んん……」  ぐずるような声だけれど、奏は小さく頷いた。

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