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🎼Extra Lesson《君を見つけた日1》
トマトとバジルの冷製パスタ。
ニース風サラダときのこのアヒージョ。
少し良いワインと、可愛い君と。
さあ──ボナペティ。
🎼Extra Lesson《君を見つけた日1》
前期試験を終えた音大生たちの夏休みが遂に始まった。
地方から来ている学生は帰省しはじめ、そうじゃないひとは旅行の計画を立てたり、長期休暇でも開放されている練習棟に足を運ぶ。
今年、奏は実家に帰るつもりはなかった。
晃と瑛二も──もっとも、彼らは地元学生だが──残ると言っていたし、自己を確立しはじめた今の奏は、母親の不安定な〝棘〟を黙って堪えるつもりはない。
そして何より──。
「奏。夏休み、泊まりに来ないか?」
「泊まり……おうちデートだ!」
「ぐ……っ! 可愛い……っ!」
「ばかにしてる?」
「してねえよ! はー……そう、おうちデート。一緒にメシ作って映画でもみて夜更かししよう」
恋人になりたての仁から嬉しいお誘いがあったのだ。帰省している場合ではない。
そんなわけで今、奏はジリジリと照り付ける太陽の下を浮き足立って仁の家へと向かっていた。
「何もいらないって言ってたけど…お菓子くらいはあった方がいいよね。アイスも買ったし着替えも持ったし歯ブラシも持った……」
幼少期から母親の管理と監視の中で生きてきた奏に友人は少ない。お泊まり会なんてしたこともない。せいぜい修学旅行程度だ。
粗相があってはいけないと「おうちデート」か決まってからすぐに友人に相談した。
◇
「ねえ……その、ぉ、おうちデートって何持っていけばいいの?」
照れたようにはにかむ顔を見せる奏に、晃が微笑ましそうに双眸を緩めて無難な回答を返そうと口を開きかけた──が、瑛二と貴央がそれを許さなかった。
「えっちなパンツだろ!」と瑛二。
「ちょっとぉ……人がパンケーキ食べてる時にやめてよね。でもまあ正解、いいお店教えようか?」と貴央。
ぴ、と固まってしまった奏にふたりは楽しそうに続ける。
「奏くんなら白じゃない?」
「分かる! でもかなぴ、色白だし黒とか!」
「あーそれもいい。リボンはマストだよね、紐で結ぶやつ。絶対可愛い!」
「引っ張ったら解けるやつな!」
「お前ら、いい加減にしろ。秋森がショートしかけてるぞ」
それは晃が止めに入るまで続いた。
固まる奏の手に握られたスプーンからぼた、とバニラアイスが落ちていった。渋い顔をしてふたりを叱っている晃でさえ、動揺が見られない。
(…………えっ? うそ……ぇ、えっちな……パンツって常識なの? みんな持ってるものなの?)
狼狽える奏に気付いた晃が安心させるように柔らかに瞳を細める。そして微動だにしない奏の頭をポンポンと撫でてくれた。
「秋森、変なこと考えなくていい。普通に着替えと歯ブラシくらいで大丈夫。瑛二だってそんな下着持ってないんだから」
「待って、なんで晃くんが瑛二くんのパンツ事情知ってるの!?」
「何でだと思うー? 正解はぁ……晃が俺のパンツ洗ってるからでしたー!」
「お母さんなの……?」
さらさらと黒髪を揺らして晃に撫でられるがまま、未だに奏はショックで固まっていた。自分が世間に疎いことは知っていたつもりだが、こと恋人同士に関しては全くの知見がない。付き合って日は浅いが、完全におんぶに抱っこ状態で仁に委ねたままだった。
「きっと仁は何人も付き合ったことあるよね……だってあんなに格好良いしモテる人だもん。え、ぇ、えっちな、ぱんつ……持ってるのかな……」
ぐるぐると渦巻く思考が口に出ていたらしい。驚いて僅かに目を見開く晃と、同時に吹き出す瑛二と貴央──その瞬間、奏の頭に乗ったままだった晃の手がぺいっと振り落とされた。
「はいはい、浮気ー。よその男に頭撫でられて大人しくしてんじゃねえよ」
真夏の太陽を背負って煌めく光──仁だ。
「う!? 浮気なんかしてない!」
「大丈夫、ちゅーで許してやるからな」
「へ、変なこと言うな!」
教授のところへ行っていた仁が奏の隣に腰を下ろした。いつも通りの軽口を返しながら奏のアイスティーを当然のように奪うと汗ばむ体に吸収させていく。
晃の手が乗っていた奏の頭を撫でて上書きすることも忘れていないようだ。
「で? うちの奏くんに何吹き込んでたの」
「……早坂って付き合うとデロデロに甘やかして溺愛するタイプなんだぁ」
瑛二が吐く真似をしながら揶揄う。
当たり前だろと得意げに返す仁。
そのあとは晃が上手く話を逸らし舵を切ってくれたおかげで、仁に話の内容が筒抜けになることを防げた。
◇
(結局えっちなパンツは用意してないけど今日は俺からキスくらいする!……で、出来るだけ!…………がんばる……)
仁に甘えっぱなしでは飽きられてしまうと斜め上の方向へ突き進む意欲を新たに、奏は仁のマンションへと足を早めた。
ここに来るのは三度目だった。
一度目は親睦会の後。
二度目は本選考の後。
そのどちらもが、まだ生々しい体験とともに奏の記憶を占めている。
「いらっしゃい。暑かっただろ……やっぱ迎えに行けば良かった。迷わなかったか?」
インターフォンが鳴ってすぐ、玄関を開けてくれた仁が柔く笑みを崩す。ふわりと部屋から溢れ出るシトラスの香りに奏の胸はドキッと鼓動を一つ飛ばした。
「大丈夫。来るの初めてじゃないし」
「でも前に来た時はどっちとも、あー……切羽詰まってた、だろ?」
「……? ……っ!? こ、これ! アイス! お土産! バニラは俺のだから!」
にやり、と口角を上げる仁。彼の言わんとすることを察した奏の目元に朱が走る。話を遮るようにコンビニの袋を突き出しながら、仁の傍をすり抜けてリビングへと向かった。
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