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🎼Extra Lesson《君を見つけた日2》

「? 何か作ってた?」  相変わらず生活感のないリビングとは相反して、珍しくキッチンには調理器具が出ている。不思議そうに荷物を下ろす奏を手招いてキッチンへ消える仁を追って向かう。そこには塩、胡椒、オリーブオイル、ワインビネガー、レモンが並んでいた。 「初めてのおうちデートだからな。晩メシの下拵えしてた」 「バンメシ……晩ごはん!? 仁、料理できるの!? すごい!」  数秒遅れて仁の言葉を理解した奏の顔がパァッと輝く。  音大生などと言っても所詮は若い男の一人暮らしだ。例外を除いて食事なんてカップ麺やコンビニで済ませがちだろう。もちろん奏だって、ろくに料理なんて出来ない。  尊敬と好感度が増していく奏に、一瞬だけ仁の視線が泳ぐ。奏のその小さな唇に見合う小さなスプーンでドレッシングを掬って放り込めば、奏の口内にまろやかな甘酸っぱさが広がっていった。 「ン、美味しい!」 「だろ? ……親父に習った甲斐があった」 「お父さん?」 「あー……そう。ごめん、カッコつけた。俺も料理なんてしねえよ。でも奏が泊まりに来るって言ったら親父が教えてくれた」 「お父さん、料理できるんだ」  ひとまずドレッシング は成功したとホッと胸を撫で下ろす仁が白状する。あとの準備は夜でいいだろうと使ったボウルを洗い始める隣で、奏は仁の父親の姿を思い出していた。精悍で穏やかな大人の男性──何十年後かの仁の姿。思わずじわりと頬に熱が集まる。 「……俺の恋敵(ライバル)は親父か」 「!? ち、違う違う! 誤解!」  見逃さなかった仁が皮肉混じりにポツリと呟いた。それに慌てた奏が焦りながら声を上げ、懸命に弁解を始める。十五センチ上にある仁の横顔を見つめ必死になっていけばいくほど、いかに仁が好きなのか熱弁する羽目になっていることには気付いていない。 「だ、だって! 仁にそっくりなんだもん! もっと大人になったら仁もああなるのかな、とか……でも仁の方が笑い方かわいいな、とか……っ! 仁の方がっ……」 「ふ……ッくくく、冗談だよ。悪かった、ただのヤキモチだ」  仁の周りで囀る奏の愛らしさに堪え切れなくなった仁が吹き出して肩を震わせながら笑っている。一瞬呆気に取られた奏は、揶揄われたのだと気付くや否やぷく、と頬を膨らませた。睨め付ける顔でさえも仁にとっては可愛らしく、手が泡だらけでなければ振り返って抱き締めていたところだ。  そんな仁の胸中を知ってか知らずか、奏は拗ねたような面持ちのまま不服そうに零す。 「ほんとだもん……仁の方がすきだもん」 「ちゃんと分かっているのか」とばかり、計量カップを洗う仁の背中におずおずと抱きついた。  言い切ったあとで、奏は自分でも気恥ずかしくなったのか仁の背中に額を押し付ける。 「あー……奏くん? 俺は今日、紳士にいこうと決意してんですけど? だから煽んのやめてぇ……俺の理性なんて紙クズと一緒なんだからぁ……」  そりゃあ情けない声も出るだろう。仕方ない。仁は今、物理的にも心情的にも奏に手を出せないのだから。 「仁だっていつも好き勝手するんだから、俺だって好きなようにするもん」 「いいけど……ンな可愛いことしてると、その十倍は好き勝手されるって覚悟しておいた方がいいぞ」 「…………さ、さーてと。アイス、冷凍庫に入れとくねー?」  ひやり。奏の背中に汗が伝う。  仁の声は優しいままだし乱暴な動きも見られない──けれど、奏は本能的な危機感を覚えてぎこちない動きで仁の背中を離れたのだった。 ◇  奏はレタスをちぎってくれ、と必死な形相の仁に頼まれてから早数刻。仁の手料理でお腹いっぱいになった奏は、次のおうちデートまでに料理をマスターしてやると内心ひそかに燃えていた。 (トマト切るくらいは出来ると思ったんだけどな……でもあんなに丸いのが悪いよ。転がるに決まってる)  トマトを切るのが先か、指を切るのが先か──奏から包丁を遠ざけた仁の判断は正しかった。それでもふたりでキッチンに立つこと自体は楽しかったのだろう、仁が鼻歌混じりに皿を洗い終えてリビングへと戻ってくる。 「片付けまで任せちゃってごめん……ごちそうさま。美味しかった!」 「そりゃ何より。いま風呂沸かしてるから……って何見てんの!?」  自分の部屋で恋人が寛いでいるという事実だけで仁はスキップでもしそうな勢いだった。が、その勢いが急速に衰えたのは奏の手に乗る分厚い本が目に入ったからだ。 「仁のアルバム」 「いや何で!?」 「何でって……ソファーの横に隠してあったよ。奏くんへ、ママより♡ってメモと一緒に」 「あンのババア……!!」  思わず口をついて出る母親への抗議も、仁にとっては真っ当な感情だった。なにしろ、奏が開いているアルバムのページの幼き日の自分は、頭にとんぼが留まって泣いているのだから。 「あー! やめろ、そこはだめ! うわああああ! 見るな見るな見るな!」 「うるっさいなぁ……こんなに可愛いんだからいいでしょ。見てよ、くまちゃんの着ぐるみ着てて可愛い……こっちはスーツ着てるし七五三かな? ふふ、泣いてるけど。欲しかったら焼き増ししてくれるって」 「ふざっけんな! 没収!」 「あー!」  発狂した仁が奏に飛びかかり、どこにそんな反射神経を隠していたのか奏が回避する。けれどリーチの差は歴然だ。ソファーに奏を押し倒すようにして腕を伸ばされては、十五センチの身長差もあいまってアルバムは回収されてしまったのだった。

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