13 / 31

第13話

(……助かった) 遅れてバリンと砕けたガラスの音に、俺はびくっと肩をすくませた。ヒビの入っていたガラスが今ごろ割れたらしい。  遠のいていくアイツらの声に胸を撫でおろした俺は、ますます涙を溢れさせた。  手の甲で濡れた頬をゴシゴシしながら鼻水を(すす)る。誰もいない教室を見渡した俺は、ある個所に目を凝らした。なんとなく気配を感じる。きっとそこにいるんだろう、ガラスを割った幽霊(はんにん)が。 (見えてないってことは、悪い霊じゃない? もしかして俺のこと助けてくれた?)  じっと見ていると白い光が、なんとなくひとの形のように見えてきた。その影がすぅっと俺のそばに近づいてくる。 「? わっ⁉」  幽霊に頭を撫でられ、頬を(くすぐ)られた。俺はその感覚をよく知っていた。 「ねぇ、もしかしていつものヘンタイ幽霊?」  聞くとツンと髪を引っ張られた。肯定のつもりかな。バチンと音がして蛍光灯のひとつが消えてしまったけど、それはヘンタイって云われてこいつが怒ったからかもしれない。それとももしかして傷ついたりしたのかな? 「そっか。お前俺に憑いてきたんだ……」  ドスケベ幽霊はてっきり俺の家に居座っているんだと思ってた。頬を撫でてくる感触に、幽霊が涙を拭いてくれようとしているんだと気づいた俺は、ちょっとたのしくなってくる。  うっすらだけども自分の顔に触れる幽霊の手が見えていた。彼氏がいたらこんな感じなのかな? 俺がつらかったり泣いたりしたら、やさしく慰めてくれたりするのかな?  俺はいつかできるかもしれない恋人のことを想像してみた。はやくこんな最低な思い出ばかりの学校のこと忘れて、大学でたのしく過ごせたらたらいいな。 「ねぇ、くすぐったいって」 (当面は、コイツが俺の彼氏かもしれない。もうエッチもした仲だし、ちょっといいヤツだし)  だったら名まえでもつけるか? 幽霊だから、幽霊くん。いや、安直か。うーん。ゆうくん? ゆうくんでいっか? 呑気に考えながら、俺は足もとを見渡した。 「ゆうくんさぁ。もしかして俺のこと助けてくれた? ありがとうね。でもさ、あんまり怒るなよ? 腹立てたり欲に狂っちゃうとどんどん悪霊化しちゃって、成仏できなくなるからな」  ゆうくんの姿がうっすら見えだしたことを俺は心配した。 「あと、スケベなことばっかりやってると色情霊になるぞ? それもダメだからな」  そのうち、ちゃんと成仏できるといいんだけど。  云いながら落ちていたパンツを見つけて手にとろうとした俺は、いきなり押し倒されて床にゴロンと仰向けに転がった。 「へ?」  そして数日ぶりの金縛りに、ぎゃぁとなる。もしかして、もしかして、もしかして⁉ (バ、バカッ、このバカ幽霊っ!)  スケベはダメだって云ったさきからなんてことするんだ。べろんと股間を撫であげられお尻をもみもみされて、俺はジタバタと暴れた。暴れたといっても実際には身動きがとれないので、それは気持ちのうえでだけなのだが。 「ひゃぁんっ、やめっ、やめてぇっ」  昨日さんざん(もてあそ)ばれた乳首をまたもやクニクニ()ねられて、俺は気持ちよすぎてふにゃふにゃになってしまう。「やめてやめて」と叫んだつもりだが、これもたぶん声は出せていなかっただろう。  情けない。ついさっきまで竹中たちに犯(ヤ)られそうになってあんなにびびっていたくせに、それなのにもうすっかり俺は分身を元気にしていた。しかも丁寧な愛撫をほどこされて、さきっぽにはとろりと蜜まで滲ませている。 「あぁっ、ゆ、ゆうくんっ」  最悪だ。教室で下半身丸出しで床に貼りついて、ひとりでチ○コ勃たせているなんて。こんな状態で、もしここに誰かがやってきたらどうしよう。こんなところを見られたら、俺はきっとヘンタイの烙印を押されてしまう。 (でもすでにホモのヘンタイって云われてるんだっけ? いやいや、でも、コレはちょっとないだろう⁉) 「ゆ、ゆうくんっ、ここではダメっ……ダメ、だっ……てっ、ああん、やめろぉっ!」  そこやかしこをぐりぐりもみもみされて身悶えながら、俺はせめて家に帰ってからだと訴えた。 「っていうか、お前、いま俺を押し倒したなっ⁉」  さっきのはいつものような体感じゃなかった。物理的になにかをされたのははじめてだ。いや、でもそれもやっぱり俺の体感なのか? 押された感覚に反応して俺の身体が勝手に転がったというのだろうか。催眠術みたいな感じで。  ごちゃごちゃ考えているうちに、ひょいと両脚を抱え上げられた俺は、おおきく目を見開いた。 (うっそ~っ⁉)  赤ちゃんがオムツを換えるときのようなポーズを取らされて、全身がかぁっと熱くなる。 (俺のお股がゆうくんに丸見えだぁっ!)  それだけじゃない、ゆうくんのソレもうっすらだったけど丸見えだった。広げられた俺の脚のあいだにゆうくんのガッチガッチなのが()しあてられて、すぅっと俺の(なか)(はい)りこんでいく。 (エ、エロいぃぃ!)  その光景は俺には刺激が強すぎた。  ゆうくんのソレが俺のあのいいところに到達するまえに、俺はその視覚だけで感じてしまい、ぶるぶるぶるっと全身を震わせてイってしまったのだ。  ビュルルルルッっと制服の腹から胸にかけて放出された体液は、ぺちょっと額にも飛んできた。  そんなぁ、と唖然となりながらも、ゆうくんのモノがお臍の下のいいところに届くと「あんっ」と胸をそらす。 (気持ちいい~っ)  ところがだ。 さぁ、これからだ! というところで、ふっとゆうくんは消えてしまったのだ。抱えられていた俺の脚がパタンと床に落ち、「いてっ」と叫ぶ。金縛りも解けていた。 (え? なんで?) 「うっそっ。いいところだったのに⁉」  あれだけ学校ではダメだやめろと叫んでいたわりに、俺の口からでたのはそんなセリフだった。そしてゆうくんがいきなり消えた理由がすぐにわかる。廊下から誰かがパタパタと走ってくる足音が近づいてきた。 (誰かきたっ!) 「藤守っ⁉ 大丈夫かっ」  血相を変えて俺のところに駆けつけたのは美濃だった。慌ててズボンを掻きよせていた俺の全身から力が抜けた。 「……先生?」 (あせった~っ)  こんなところをクラスメイトにでも見られてしまったら、俺はおしまいだ。ほんとは美濃にだって見られたくはなかったけども、まぁ、俺もこいつの情けない姿はいっぱい見てきたもんな。おあいこだ。 「お前、これ誰にやられたんだ⁉ 竹中か? だってお前、昨日、六限終わったあとって―、」  下半身すっぽんぽんで顔には怪我して血をつけて、俺のまわりは倒された机や椅子が散乱していて、たくさんの窓ガラスが割れいて。  美濃は俺や俺のまわりをおろおろしながら見回し、俺に伸ばした手をどこへやったらいいのかとウロウロさせていた。 「辻本先生来なかったか? 先生、藤守を呼び出した奴らが来たら話をしようと思ってたんだ。念のため授業がなかった辻本先生にこまめに様子見に行ってくれってお願いしてたんだが……」  六限終わってからってのは俺がついた嘘だけど、それは俺にもいろいろ考えることがあったからだ。だから責めないでほしかった。 「やっぱり先生だったの? 余計なことしてくれんなよ。辻本うろついてるってアイツら見つけて、俺がチクったんだって、それでひどい目あわされたんだぞ!」  眉をぐっと寄せた美濃が、「悪かった」と云って頭をさげた。そしてポケットに手を突っ込んでハンカチを取り出すと、俺の顔に手を伸ばしてくる。 「いてっ、先生、やめてっ」 「お前、これ……、お前にこんなことした奴らの名まえを云え。こんなの、犯罪だからな。放っておくわけにはいかないんだ」  ハンカチが皮膚を(こす)ったときにしたにゅるっとした感覚に、俺は蒼くなった。彼が拭ったのは口の端についた血ではなく、額に飛んだ俺の精液(アレ)だったのだ。どうしよう、こんなの恥ずかしすぎる。ハンカチの汚れた部分を凝視した美濃の顔が歪んだ。 (バ、バレたよな? それがアレだって美濃気づいたよな? 呆れた?)  ドキドキしながら見ていた俺は、彼が痛ましそうな表情で俺に視線を戻したことでハッとした。 (ちょっと待て。こいつなにか勘違いしてるんじゃないか?)  続けて制服のジャケットを拭こうと手を伸ばしてきた美濃の腕を、俺は必死でさえぎった。 「先生っ、俺がするっ、俺がっ、自分でっ」 「いいから、先生にやらせろ。お前は被害者だ。悪くないんだから、堂々と世話されていろっ」 「いいからっ、いいからっ、ハンカチ貸して!」 「いいから、先生にまかせておけ」 「ぜんぜんよくないってばっ」  美濃はきっと俺に付着している体液を俺に乱暴した誰かのものだと勘違いしているからそう云ってるんだ。でも俺としては自分の粗相を他人(たにん)に始末されたくはない。そんなのみっともなさすぎる。 「とりあえず、服を着ろ。先生が家まで送ってやるから」  雑にゴシゴシと制服についた汚れを拭った美濃は、周囲に散らばっていたコートや上履きを俺のまえに揃えてくれた。 「いいよ、俺、これから病院に戻るから。ひとりで大丈夫」  おそらく竹中たちはもう学校にいないと思うし、待ち伏せまではしていないだろう。あれだけ幽霊のイタズラに怯えていたんだから、家にすっとんで帰ったと思う。アイツらめちゃくちゃビビってここを飛び出していったもんな。  今夜は怖くってひとりで寝れなかったりして、とか、学校が怖くなって明日から登校できなくなったりして、とか妄想して、俺はざまぁみろと心のなかで舌をだした。 (ゆうくんウロウロできるんなら、ちょっとアイツらのこと()らしめてきてくれたらいいのに)  

ともだちにシェアしよう!