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第15話
「あれ? 先生? 帰ったんじゃなかったの?」
「下の売店に寄ってただけだ」
「いつからいたんだよ?」
「ずっといたわっ。お前がなんか布団のなかでブツブツブツブツ云ってるから、声がかけられなかったんだよ。いいからちょっとベッドから下りろ」
「いやだ」
(盗み聞きすんなよ、ヘンタイめっ)
俺がツンと顎を反らすと、美濃は力づくで俺をベッドから引きずり下ろそうとした。
「やめろよ!」
「いいからいったん下りろ。ケガを手当すんのに売店でいろいろ買ってきたんだよ。ほら、そこに座れっ」
俺を押しのけたシーツをぺんぺん叩いて、埃を払いながら美濃が云う。
「ほら見ろっ。こんなに汚して! ご迷惑だろうが。服、買ってきてるからそれに着替えろ」
俺は用意されていたシンプルなスウェットの上下に、眉をよせた。
「嫌だよ、こんなのかっこ悪い」
「それ着て手当が終わったら、またベッドに入ってもいいから。それにタクシーで家まで送ってやるからダサくても別にいいだろ?」
「えっ、俺、これ着て帰るの?」
「制服は先生がクリーニングに出しておく。場合によっては加害者たちに支払わせるつもりだよ」
まだそんなこと云ってるのかとムッとしつつ、俺はいざとなったらはやまってやるんだから、という思いを強くした。それでもはやく哲也くんのベッドに戻りたくて、俺はしぶしぶ彼の用意した服に手をのばした。
「藤守、その腹の傷はこのあいだ見せてくれたけども、いつやられたんだ?」
「これ? これは、ここにはじめてお見舞いにきた日の前の日?」
「ふぅん……、ほら、パンツも履き替えておけ。病院ってそうそうシーツとか換えていられないんだぞ? 親御さんの迷惑も考えろな? ほら、先生あっちむいておくから」
売店の袋のなかには、ちゃんと新品のパンツもはいっていた。
「センセー、これブカブカ」
「あぁ、悪い。それにしてもお前ほっそいな」
「あっ、こっち見んなっ ヘンタイ! 痴漢っ!」
「ほら、着替えたらここ座れ。傷に消毒するぞ」
美濃は顔や手足にある擦過傷に消毒をすると、血の滲むところには絆創膏を、打撲にはシップを貼ってくれた。
「なぁ、これもやられたんだろ? なにでやられたんだ?」
覚悟はしていたけど、やっぱり訊かれてしまった。
美濃は俺の背中にある切り傷をそっと撫でた。いまさらそこには消毒はいらないだろう。もう治りかけだ。それにそんなちいさな絆創膏じゃ傷を覆うことはできないしな。
「カッターナイフ? でももうそんなに痛くないよ?」
「いつ?」
「……はじめてここに来た日の三日前、かな」
正直に云ってもいいのかどうか俺はすこし迷った。なぜならその日は奇遇にも美濃の大事な生徒が事故にあった日だから。
(こいつはそれに気づくのかな。気づいたら俺のことと哲也くんの事故になにか関係があるとか思う?)
なぜ俺がそう考えるのかというと、俺自身が哲也くんの事故の報告を聞いたときに、そう思ってしまったからだった。
あの日の放課後、俺は教室で竹中たちに捕まっていた。そこに偶然哲也くんがやってきて教室の扉を開けたんだ。やっぱり教師やたくさんの生徒に一目置かれている人間って、なにかの力を持っているんだよな。そのとき哲也くんはなにを云ったわけでもなかったけど、竹中たちはさっさと俺のことをほっぽって逃げていった。
彼が事故にあったのは帰宅後のことだ。まさか竹中たちが哲也くんのあとをつけて背中を押したってことはないと思う。だから、あの日彼が事故に遭 うまえに俺と会ったってのは、本当にたまたまのこと。
それなのに翌日の朝のホームルームで哲也くんのこと知ったときは一瞬、俺のせい? って思っちゃったんだ。そんなわけないのにな。俺っておこがましい。
美濃はそれ以上はなにも訊いてこなかった。手当が終わると掛け布団を持ち上げて、俺がベッドのなかに入るのを促してくれた。俺が諦めもせずに哲也くんの身体を横向きにしようとしていると、「ほら、ギプスがひっかかってるんだよ」と云って、手伝ってくれた。
同情されるってのもいいもんだ。俺は希望通り哲也くんに抱きしめてもらう形で布団のなかに潜りこめたのだ。
(このさき自分にいつ恋人ができるかだなんてわかんないし、いまのうちに堪能させてもらわないと)
哲也くんの胸に顔をぐりぐりして、あったかいよなぁとうっとりする。彼からはちょっと消毒の匂いがした。俺は哲也くんに抱きついたまま目を閉じると、未来の彼氏に抱きしめられている自分を想像をしてみた。でもそれはうまくいかなくて、なんどやってみても想像の彼氏の姿は哲也くんになってしまう。
(哲也くん、ごめん。でもいまだけだから―)
哲也くんにぎゅっと抱きしめられて頭を撫でられてと、そこまで妄想を進めたところでふと気がついた。
(そういえば哲也くんの手の感触って、ゆうくんに触られた感じと似てるよなぁ)
いまさっき美濃に手当をしてもらっている最中、美濃の手が触れる感じは哲也くんの手とはぜんぜん違うなと思ったのだ。でもゆうくんが俺に触ってくる感じと、哲也くんの手の感じはとても似ている。
試しに哲也くんの指で自分の頬とつんつん突いてみた。
(うん、ゆうくんに触られたときもこんな感じだった)
つづいてその指で、自分の唇を突いてみる。ふわっとしたぬくもりが伝わり、俺の唇がぷにっと撓 んだ。とたんにズクンと下半身が甘く疼く。めちゃくちゃ気持ちがいい。
(うわぁ。これもゆうくんに触られたときと似ている)
やばい、心臓がドキドキしてきた。だって俺はゆうくんとはもう最後までぜんぶ経験している。なにがヤバいって、これ、ゆうくんとしたエッチのぜんぶを哲也くんに置き換えて想像できちゃうじゃないか。
しかしそれよりもさきに、俺はまずしておきたいことがあった。
すっかり調子に乗ってしまっている俺は、頭にすっぽり被っている掛け布団ごと彼の枕までずり上がってくると、ドキドキしながらそっと哲也くんの唇に自分の唇を押しつけてみた。
(あああああっ、なにこれ、なにこれ? 超気持ちいいんですけど?)
指よりも柔らかい肉同士がぶつかると、それらはふにゃんと溶けるようにして広がった。俺はいろいろ試してみたくなって、そのまま哲也くんの唇をハムッと齧ったり、上下片側だけの肉を自分の唇で挟んでひっぱったり、まるごとぜんぶ舐めちゃったりと、やりたい放題やってみた。
(はぁ、もう、キスって最高じゃない?)
カサカサしていた哲也くんの唇がしっとりと潤いはじめるころ、俺の下半身はすっかり元気になっていた。
「おい、藤守、なにをやっている?」
「…………」
美濃のことは無視だが、このままつづけていたらとんでもないことになってしまうと俺は自分を戒めた。
(ちょっと休憩……)
はやく股間を沈めなきゃ、と俺はまたズリズリと掛け布団ごともとの位置にもどっていった。
ふたたび哲也くんの胸のなかに顔をよせ、ふぅと息をつくと張りつめたお股を彼の太ももにスリスリと擦りつける。じわんじわんと痺れてとても心地いい。
「あん」
「おいっ」
おっといけない、声がでちゃった。反省はしたが、それでもお年頃の性衝動は治めることはできない。そのまま俺は彼にすりすり、すりすりと腰を擦 り付けつづけた。
「おい……、おいこらっ! お前っ、いい加減にしろっ! そりゃ犯罪だっ!」
「ぎゃぁっ、やめろよっ!」
美濃にガバッと布団を剥がれた。
「先生、もう帰れよっ」
「帰るなら、お前も連れて帰る。自分の生徒が性犯罪者になるのも、寝ているあいだに性犯罪に巻き込まれるのも見逃せるかっ」
結局俺は美濃によってベッドから引きずり下ろされ、彼の監視下のもと自分で作った夕食の弁当を食べ、面会時間が終わると彼に連行されるようにして家に送り届けられたのだ。
美濃とたくさんの幽霊を乗せて走り去っていくタクシーに、「いいもんね。今から哲也くんおかずにしていっぱいオナニーしてやるんだから」と毒づいた俺は、しかし部屋に入るなり、すぐにドスケベ色情霊に捕まった。そして学校のつづきだとばかりに、さんざんエッチなことをされてしまったのだ。それはもう頭のさきから足のさきまであますところなくエロエロと弄ばれて、これでもかってくらいにお尻のなかも気持ちよくされた。それはまるでかわいがられているって感じのエッチで―。
こんなによくしてくれるゆうくんには申し訳ないとは思ったけども、でも俺はずっとそれを哲也くんとしてるって想像しながら愉しんだんだ。だからもうホントにホントに気持ちよくなちゃって―、なんと俺はエッチの最中に気絶してしまったのだ。
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