18 / 31

第18話

  「やっ!」  とっさに両腕を立て哲也くんから身体を離した俺は、焦るあまりに着いた手を滑らせて上体だけベッドのそとへと落ちてしまう。 「やっ、いやっ」  見られた!  見ないで!  哲也くんを拒絶した過去がこの瞬間に混在して、わけがわからなくなってしまう。 やさしく俺を見つめてくれる哲也くんの瞳なんてあるわけがない。じゃああの時、哲也くんの目は俺をどう映していた? わからない。わからない。わからない。  蔑まれた? 憐れまれた? 軽蔑された? 憎まれた?  「あっ、やっ、やめてっ、嫌だってば!」  もしいま彼が目を覚ましてしまったらと考えてぞっとした。こんなあられもない姿を見たら、哲也くんはきっと俺のことを嫌悪するに違いない。もうこれ以上彼には嫌われたくなかった。 「や、……っ、あっ……あん、やめてっ」 (やだ、いまは起きないで。こんな浅ましい俺のことなんて見ないでっ)  哲也くんの眠るベッドから逃げ出したくてしかたがないのに、それなのになにも知らないゆうくんは俺を離さず腰を振り続けている。俺はベッドのフレームを掴んで身体を引きずり、自ら冷たい床に転げおちた。するとベッドとの摩擦でズボンとパンツがズルッと足首までずれ落ちてしまい俺のお尻は丸出しだ。 「あっ……、あっ……、やめて、……こ、ここは、ヤだ!」  もし哲也がいま目覚めてしまったらと思うと気が気じゃなくて、俺は必死にもがいて床を這いずった。 「ゆうくんっ、……ちょっとじっとしてぇっ、お尻ズンズンしないでぇっ」 (だーかーらーっ、色情霊ってヤツは‼)  俺がこんなに本気でここから離れようとしているのに、ゆうくんは膝ずりで進む俺にまったくのお構いなしだ。ずっこずっこと俺のお尻を―、 「せ、攻めないでっ! ちょっと待ってっ! ゆうくんっ! 聞いてるのっ⁉」 (せめて、場所を換えてからにしてくれ!) 「やんっ」  それに俺、こんなに死に物狂いで逃げようとしているのに、めちゃくちゃ気持ちいいってどういうことだよ。 「あ、だめ、イきそう……、イくっ、……イくっ!」  腰砕けな四つん這いで進んでいた俺は仕切り用のカーテンをとっさに掴んでしまった。やばいって思ってももう遅い。 「―ああっ‼」  バチバチバチバチ。  膝立ちで身体をのけ反らせ射精した俺は、そのままカーテンを抱きしめるようにしてうつ伏せに床に沈んだ。カーテンレールからはずれたカーテンがふわりと被さってきて、お尻だけまるだしのみっともない姿を隠してくれる。おかげさまで俺の情けなさは半減したのかも? 「ふぇん……ぁんっ……」  イったというのにカーテンのなかに埋もれている俺のお尻は攻められつづける。(まと)わりつく布を掻き分けて「ぷはっ」と顔を出した俺は、なんとか立ち上がろうとしておじさんのベッドのフレームを掴んだ。 「いてっ、いてっ。ぃあんっ。ゆうくん、俺、膝痛いってばっ」 身体を持ち上げて、ベッドマットに両肘をついて身体を起こした。  首を捩じって後ろを見ると、必至に腰を振っているうっすら透けたゆうくん。なんかゆうくん、さらに存在が濃くなってきてないか?  カーテンは半分ほどレールから千切れていて宙ぶらりんに落ちていた。最悪だ、コレ、絶対に明日病院のひとに怒られる。 でもギリギリ哲也くんからは見えない位置まで来ることができたので、ほっとした。 「うわっ⁉」  膝が痛いって文句を云ったせいか、ふいに持ち上げられた右膝がおじさんのベッドの上に乗せられた。左の脚はまっすぐ床に伸びたままだ。このポーズ、なんかはずかしいんですけど! 「あん、あん、あん」 (でも気持ちいいよ~。あ、声おさえなきゃ) 「あんっ」  そのカッコウでふたたびお臍の下の大好きなスポットをズンズン攻められて、俺はお腹のなかをきゅんきゅんさせながらうっとりした。足の裏にじりじり快感がくすぶりはじめると、おじさんのベッドに体重を預けて左の足の指先で床を掻く。  いい。とってもいい。 だらしなく口をあけて、声を出さないように気をつけて喘いだ。零れた唾液で次第におじさんの布団がべとべとになっていく。  俺の股間はベッドマッドのへりに、胸は布団にぴったりくっついている。それでも体積のないゆうくんの手はその隙間に入り込んできて、どちらにも上手に愛撫を与えてくれるんだ。 「あ……、あぁ……、すごくいいよぉ」  なんかもうゆうくんがいてくれないと今後の性生活に支障をきたしそうだ。やばい。お尻、クセになる。ってか、もうなっている?   ベッドマットに押しつけられていたペニスはまた復活して、これ以上にないくらいに張りつめてきていた。圧迫される苦痛にすこし腰を浮かしたら、そのタイミングを狙っていたかのようにしてゆうくんに左脚までベッドの上に乗せあげられた。両膝をダブリューの形に曲げられた状態だ。さらにぐいっと腰を高く持ち上げられる。 「ああんっ!」  胸はぺったり布団につけている。だからめいいっぱい拡げた尻を高くつきあげるという、本当に変態じみた格好をとらされていて、頭のなかがどひゃーってなった。でも恥ずかしさにも引けをとらない快感とドキドキに、俺の身体はますます熱くなっていき―、っていうか、このお尻を思い切り開くという開放感と、相手にそんなところを曝しているという羞恥がますます身体を興奮させていってるのだ。 「あぁ~んっ、ゆうくん、いいっ、いいっ、そこっ、やぁん」  俺もちゃっかり腰を振り、ゆうくんのソレの当たり具合によっては前のめりに身体を逃がしたりもして。気づけば布団越しにおじさんのお腹にすがりついている状態だった。俺の屹立からしたたり落ちた体液で、おじさんの布団のシーツはところどころ濡れて冷たくなっている。これってヤバい。 「ぅうんっ、だめぇ、俺いっぱい零しちゃってるぅっ! ゆうくん、シーツ汚れてるっ……からぁ! あんっ、んんっ、いい~っ」  静かな夜の病室にはベッドの揺れるギシギシって音と、ベッドマッドの弾む音が響いていた。体液が零れないように鈴口を塞ごうと当てた俺の手が思惑とは反対に自分のそこを撫でさすりはじめると、ヌチャヌチャという水音がそれに加わった。竿の部分はずっとゆうくんが擦ってくれている。  もうどこもかしこもよすぎて、脳内が破裂しそうだった。いっぱいいっぱいになった俺は、だから病室のドアが開いた音も、だれかがあげた唸り声もまったく耳に入っていなくって―、 「ふっ、ふっ、ふじもりぃぃ⁉ おっ、おっ、お前、なにしてるんだっ!」  突然現れた美濃が慌てふためきながら俺に駆け寄ってきたことも、その瞬間彼が見えない力に跳ね返されて吹っ飛んだことも、はっきりと認識できなかった。 背中からしたたかに壁にぶつかって「いってーっ」と美濃が悲鳴をあげたのも、誰かが「ゲホッゲホッ」と痰が絡んだような咳をしているのも、霞の向こう側の出来事だ。 「もうイちゃう。もう出ちゃうっ」  クライマックスを迎える寸前に、布団を汚さないようにとなけなしの力を振り絞って気持ち腰を浮かせた俺は、そのままゆうくんにくるんとひっくり返されて仰向けになった。脚を抱えられて高くひっぱりあげられ、頭と肩甲骨くらいしか布団についていない体位になる。  目のまえには中腰で俺の姿を見つめながら腰を振るゆうくんがいる。彼も限界のようだった。いっそう激しく彼のモノを出し()れされると、俺のペニスもビュクビュク先走りを飛ばしはじめ……。 「ああっ、あああああああー」 「なっ、なっ」  俺が背中を反らしてまき散らした体液は、大きく弧を描いて俺の腹と胸とそしておじさんの坊主頭に飛び散った。つるりとした頭からおでこへと白濁がトロッと(したた)っていく。 「―っ! って、へっ?」 (おじさんの顔が逆さまに見える、なぜに?)  いつのまにかおじさんはベッドのうえで上体を起こしていた。 「なっ、なっ」 「は? あれ?」  当然消えたゆうくんのせいで脚がバタッとおじさんの上に落ちた。 「ぐぇっ⁉」  しばらく悶絶していたおじさんはつぎに顔をあげたときには、恐ろしい形相をしていた。 (ヒィィッ) 「なっ、なんだこれはーっ⁉ おっ、お前っ、俺の上でなんてことしてるんだっ! ハ、ハレンチなっ‼」 「お、おじさんっ⁉」 「おい、藤守っ! これはどうゆうことなんだっ!」  いきなり起き上がったうえに大声をあげたおじさんは、貧血を起こしたらしい。ふらっとベッドの外へと落ちそうになったので俺は慌て彼の寝巻の襟をひっぱって助けようとした。しかし美濃が俺の服の裾をひっぱったので失敗してしまい、おじさんはゴチンと頭から床に落ちてしまう。 「おっ、おじさーんっ!」 「おいこらっ、藤守、聞いているのかっ! こっちを向けっ!」 「ばかっ、美濃のばかっ! おじさん落ちちゃったじゃないかぁっ!」  聞いているのかじゃないっ! 状況が見えていないのはお前のほうだっ! 美濃のド阿呆!  俺はベッドヘッドにくくり付けられたナースコールのボタンを探し当てると、何度もそれを押した。 「おじさんっ、おじさんっ、しっかりしてっ! 看護師さーんっ、おじさん、起きたよ! はやく来てぇぇっ!」 「えっ? なんだ? 斉藤さん起きたのか⁉」  ベッドから半身を乗り出して懸命におじさんを引っ張り上げようとする俺の背後に美濃がまわりこむ。 「ぎゃっ! 先生、俺のお尻見ないで!」 「そうだ、お前、他人(ひと)のベッドでケツ丸出しでなんてことしてるんだっ!」 「それはゆうくんにっ、―じゃないっ。先生ぼさっとしてないで、はやくおじさんをベッドに持ち上げてあげてよっ」 「お、おお……、わかった」  おじさんは頭をぶつけて気絶していた。ふたりして彼をベッドに引っ張り上げて寝かせると、布団をきれいに整える。そしてつるっとした頭にぺちゃっとくっついていた自分の精液に気づいて、俺は「ひぃっ」と悲鳴をあげた。 「ばかっ、藤守! 服がカピカピになるぞ」  服の袖で彼の頭の汚れを拭こうとしたのを美濃に止められた。「これで拭け」と渡されたティッシュでおじさんの頭をゴシゴシやっているとスピーカーにノイズが入り、じきに「どうしました?」と看護師の声がした。 「斉藤さんが目を覚ましました!」 さっさと答えた美濃は、「はやく服を着ろ」といって俺の足にぐいっと下着とボトムを通してきた。いったいいつのまに拾い上げていたんだ? 大人の底力で、ぐいぐいとあっというまに服を着せられ終え、そのタイミングで部屋に看護師が駆け込んできた。ギリギリセーフだ。美濃がいなかったらとんでもない姿を看護師に見られていただろう。  俺は聴診器をおじさんの胸に当てながらバイタルのモニターを確認する看護師とそれを見守る美濃を後目に、そうっと哲也くんのベッドへと後退った。「先生ありがと」という感謝の言葉は心の中で唱えるだけにして、音を立てないように哲也くんの布団のなかに忍びこむと目を閉じる。  数人に増えた大人たちの声が聞こえるなか、俺は連日のエッチと精神的な疲れのせいでじきにうとうとしだした。意識が途切れる寸前には美濃はまた看護師に叱られていたようだ。ホント美濃って鈍くさいよな……。

ともだちにシェアしよう!