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第17話 Side 佐伯 8
佐伯はシャワーを浴びながら、ガラにもなくドキドキしていた。何度も男に抱かれているのに。木田は初めてだろうから、しかも予備知識もないだろうから、手取り足取り教えてあげなくちゃ。そう思うと心臓の動きはさらに早くなった。
準備を終えて裸のままベッドルームに入る。脱がせるのが好きな男もいるけど、木田にはまず、僕が男だということを目で見て実感して欲しかったから。そして無理そうなら快く家に帰そうと思った。つらいけど、男は抱けないと木田がはっきり言ってくれれば、それはそれで諦めがつくから。
ところが、ベッドに座って固まっていた木田は全裸の佐伯を見た途端、顔を上気させて抱きついてきた。その勢いと感情が激しくて、佐伯はされるがままになっていた。
木田が熱くなった自分のものを舐めている。それだけでも十分幸せだったけど、じらされているようでつらくなってきた。だからつい咥えて欲しいとねだってしまった。すると、すでに狂ったようだった木田は狂気が加速したように佐伯のものを咥え、達するまで扱き続けた。
自分の放ったものを満足そうに飲み込み、さらに求められるように先を吸われ、佐伯の正気と理性はどこかへ飛んでいってしまった。
だから挿れて欲しくて、そのままを木田に伝えた。最初は戸惑っているようだった木田も佐伯が四つん這いになって腰を突き出すと、取り憑かれたように双丘の間を舐め始めた。
「き、木田さん…あっ…」
まさか舐められると思っていなかった佐伯は焦った。焦ったけど、嬉しくて気持ちよくて全てを投げ出した。舌で中を刺激され、固くなったものを手で扱かれ、過剰に快感を与えられた佐伯は再びイってしまった。
「指…入れて…解して…」
二度もイってしまったけど、まだ足りない。木田の熱いもので思い切り貫いて欲しい。自分の中を木田の熱でいっぱいにして欲しい。挿れて欲しい…もう限界。理性を手放した佐伯は喘ぎながら、ひたすら木田を求めた。
「挿れて、大丈夫ですか?」
「早く…欲しい…」
しっかり解された入り口に木田の熱いものが触る。それだけでイってしまいそうだった。だけど久しぶりだからか、木田のものが大きいからか、男と寝て間もない頃のような痛みが佐伯を襲った。
「あっ…」
佐伯が声をあげると木田が腰を引いた。
「大丈夫です。もっとローションを塗って。両方に」
痛いけど欲しかった佐伯は初心者の木田に手ほどきをする。そんなことにさえ興奮してまい、木田が奥まで入った時、佐伯は快感に身を投げ出していた。
このまま木田さんの熱で溶けてしまいたい…そう思った時、佐伯の中に熱いものが広がった。
熱を放った後、腰を引いた木田は呆然として固まっていた。佐伯は自分を満たしていたものを引き抜かれ喪失感で不安なってきた。
「木田さん…抱いて…」
体の向きを変え両腕を木田に向けて伸ばす。木田は乱暴に佐伯を抱きしめた。
「好きです…佐伯さん…俺…佐伯さんが…」
その言葉が胸にしみる。これなら大丈夫。好きだと言ってくれる木田を突き放せる。そして木田に抱かれた思い出にひたってこれからも癒されよう。だけど、欲張りな体はまだ木田を求めていた。
「じゃあ…もう一度だけ…」
「佐伯さん…」
佐伯はいつの間にか泣いていた。大丈夫だと自分に言い聞かせても、大丈夫ではなかったらしい。自分に魂を奪われた木田をこのまま縛り付けたかった。魔性の魔物になってもいい。木田を放したくない。木田が好きで…好きで…好きで…どうしようもないから。
「泣かないでください…俺…どうしたらいいですか?佐伯さんに笑って欲しい」
そう言いながら、なぜか木田も泣いていた。
木田の優しい言葉。この声を録音して毎日聞けたらいいのに。佐伯はそう思いながら木田の優しい涙を拭う。この涙は自分のために流された涙。この涙を瓶にためて、毎日一滴ずつ心に刷り込みたい。そうすれば命が尽きるまで前を向いて歩ける。
これまで自分のために泣いてくれた男はいなかった。優しい木田。彼を間違った道に引きずり込みたくない。
「じゃあ、もう一度だけ…抱いて…」
別れを決心した佐伯がやっとのことでそう言うと、木田はボトルを手に取ってすっかり反り返った自分のものにローションを垂らした。そしてゆっくりと中に入った後、佐伯の様子を見ながら腰を動かす。
「木田さん…僕…木田さんが…」
自分を思いやりながら抱いてくれる木田。この行為が最後だと思うと、たまらなくなって自分の気持ちを伝えたくなる。伝えて引き止めたくなる。
切ない佐伯の気持ちに感づいたのか、木田が佐伯を抱き起こして抱きしめ、はっきりした口調で言った。
「俺も佐伯さんが好きです」
そして抱きしめ合ったまま木田は激しく何度も腰を突き上げた。佐伯は木田にしっかりしがみつきながら、最後の快感を忘れないように必死で体に刻んだ。
佐伯が木田の腹を汚し木田が佐伯の中でイった後、佐伯はゆっくりと体を離して横になった。
さあ…つらいのはこれから。でも自分は悪魔だ。悪魔になりきって木田を突き放す。そうしなければ、木田の人生を汚してしまうから。
「佐伯さん…」
木田が佐伯を抱きしめようと近寄る。
「服着てください」
「え?」
「服を着てください」
佐伯は挫けそうな自分を奮い立たせようと、木田から目を離さないようにじっと睨んだ。木田は戸惑った様子を見せながらも、ゆっくりと服を身につける。
「帰ってください」
木田がジーンズのジッパーを上げたのを確認し、佐伯は厳しい口調でそう言った。
「ええ?」
「帰ってください」
「え、でも…」
「そして、もう来ないでください」
「ええ?!」
一緒にいて欲しいと言ってしまいそうになる自分に鞭打って、できるだけ強い口調で木田を突き放す。責めるような、罵るような口調で。そうしないと、口が勝手に“好き”と言ってしまいそうだから。
「ちょっと待ってください」
「近寄るな!」
手を伸ばしかけられ、佐伯が怒鳴る。木田は戸惑っているけど自分から離れようとはしない。それなら…自分の正体を知れば嫌でもここを出て行くだろう。そして二度と会うまいと思うだろう。
「あ…あの…」
「僕はゲイだ。そして、木田さんが僕に惹かれているのを知ってた。知ってて誘ったんだ」
ただのゲイじゃない。魔物だ。だから近寄るな。お願いだからこのまま帰って欲しい。
「初めて会った時から知ってた。木田さんが僕に気があること。でも様子を見てたんだ」
違う。木田さんに惹かれていたのは自分。様子を見てたんじゃない。自分の気持ちに戸惑っていただけ。
「僕はいつもそうなんだ。ノンケの…ノーマルな男に好かれる。僕が好きになるのもノーマルな男ばっかりだから…付き合って夢中になった頃、必ず捨てられるんだ」
木田はノンケという言葉すら知らないだろう。タチとかネコとかそんな言葉すら知らない木田をこっちに引きずり込むわけにはいかない。
「木田さんも他の男と同じ。そのうち僕が嫌になる。変な道に引きずりこまれる前に、正しい道に戻った方がいいですよ」
わかってる。木田は違う。佐伯に飽きても、まともな人生に戻りたいと思っても、良心が痛んで佐伯を捨てられないはず。捨てられず、でも愛されず…それもつらい。木田が苦しむのもつらい。だから帰って欲しい。
佐伯は木田の顔を見れなかった。見たらすがり付いてしまいそうだったから。
「しつこいな!帰れって言ってんだろう!」
顔を触れられそうになり思わず怒鳴った。もっと口汚く罵ってやりたい。でもなんて?木田のどこを罵れるというんだろう。木田はいつだって自分を思いやってくれた。
優しくて誠実な木田さん…そう思っていると木田がベッドから離れた。そしてこう言って佐伯の部屋を出て行った。
「また来ます。佐伯さんの気持ちが落ち着いた頃に」
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