18 / 22

第18話 Side 佐伯 9

 ドアが閉まる音が佐伯の心臓を貫いた。思った以上に木田との最後は衝撃が強かった。  魂が抜けたように、ベッドにぺたりと座り込んだ佐伯は天井を見上げた。  “俺も佐伯さんが好きです”  “好きです…佐伯さん…俺…佐伯さんが…”  “泣かないでください…”  “佐伯さんに笑って欲しい”  “俺、佐伯さんを好きみたいなんです”  木田の淡い声が空から降ってくる。  キラキラ光りながら消えていく星の粉をかぶりながら、佐伯は膝を抱えた。ギュッと抱えて泣いた。  これでよかったんだ。星の粉は何度でも再生できる。それを浴びながら、少しずつ立ち直ればいい。  せっかくそう思って抱えていた膝を放したのに、再びやるせなさが胸を襲った。木田さんも好きだと言ってくれてるんだし。付き合えばよかった。そうすれば数年でも幸せでいられたのに。  いや、アラフォーになって捨てられたら、もう立ち直れない。その年じゃ体を売るどころか買うしかなくなる。買った男に抱いてもらうなんて絶対嫌だし…  いや、そうなってもいい。これまでの傷を木田さんは癒してくれた。それなら木田さんに与えられた幸せを食べて余生を送れる。いや…  佐伯が頭の中で論争を繰り広げていると、ドンドンとドアを叩く音がした。 「佐伯さん。開けてください」  木田さんだ…どうしよう。自分の迷いが伝わってしまったのか?今後の僕がどうこうより、木田さんの将来はどうなる?デビューしたと言っていた。陽の当たる大通りを歩く木田さんを暗い路地に連れ込むなんて、それこそ悪魔だ。  佐伯は、立ち上がってドアを開けそうになる自分を必死で抑えた。木田が好きだから。  ドアを叩く音が止まったと思ったらメッセージが来た。  “一人にして申し訳ありません。最後まで償わせてください。佐伯さんが好きです”  こんなことされたら決心が鈍るだろう。僕は人間でいたい。悪魔になりたくない。  これまで最初に好きになったのは相手の方だった。相手の男が先に佐伯に夢中になる。ノンケが自分に夢中になっている。それが佐伯の自尊心をくすぐり、嬉しくなって付き合い始める。そして何度も抱かれているうちに相手に夢中になってしまった。  でも今回は違う。出会った時から木田に惹かれていた。抱かれる前から夢中だった。だからこそ木田を間違った道へ引きずり込みたくなかったし、自分がこれまで以上に傷つくのも怖かった。  思い切り泣こう。また有給を消化しよう。戻ってくると木田さんは言ってくれたけど、僕の気持ちが落ち着くのなんてまだ何年も先の話だ。そう自分に言い聞かせ、佐伯は再び膝を抱えた。

ともだちにシェアしよう!