20 / 22
第20話 その後 1.宣言の影響
木田のお友達宣言の後、二人はこれまでどおりに接していた。
ただ、木田は思わず佐伯を抱きしめてしまいそうになる自分を、抱きしめて体中にキスしたくなる自分を必死で抑えていた。
一方、佐伯も思わず木田に抱きついてしましそうな自分を、抱きついて“抱いて”と言ってしまいそうな自分を必死で抑えていた。
それでも表面上はお友達。不自然極まりない状況に二人は気づかず、以前のように付かず離れずな関係が続いていた。
◇ ◇ ◇
木田の所属するバンドが無事にデビューを果たし、各地でライブ公演をした。
木田は東京公演に佐伯を招待した。ドラムを叩いている自分が格好いいことを、木田は自覚していなかった。ただ舞台に立って頑張っている姿を見て欲しいと思ったから。
関係者席とはいえ舞台と客席の間には距離がある。しかもドラマーの木田は舞台の一番後ろにいた。それでも佐伯には木田しか見えていなかった。スポットライトを浴び、爽やかな汗を散らしながら雄雄しくドラムを叩く木田。格好良すぎた。自分が海の魔物なら、木田は海の王者ポセイドンだと佐伯は思った。そしてその姿に熱狂しながらも、来なければよかったと後悔した。
だって、それでなくても好きだったのに、もっと好きになってしまったから。そして木田が陽の当たる世界で悠々と暮らしていける人間だということを実感させられたから。
あれだけ格好よければ女性にもモテるだろう。やっぱり自分は木田から身を引くべきだ。魔物にすぎない自分と王者の木田。つり合わない。諦めよう。諦めよう…諦めよう……
そう思った佐伯は、ツアーが終わり時間に余裕の出来た木田に意地悪をした。意地悪されて露骨に試されれば、木田だって佐伯が嫌になるだろう。だからドタキャンしてみたり、無理なお願いをしたりしてみた。それでも木田は以前と変わらなかった。優しく佐伯を許してくれた。時には“申し訳ありません”と、自分は悪くないのに謝ってくれたりした。
ますます木田に夢中になっていく佐伯。これじゃ逆効果だ。と思いながら、自分を癒してくれる木田からどうしても離れられずにいた。
一方木田は、自分を試そうとしている佐伯に気がついていた。そして佐伯が不安になっていることにも。それでもお友達宣言をしてしまった以上、抱きしめるわけにもいかず、ただただ佐伯を見守るしかなかった。
◇ ◇ ◇
木田の母親は相変わらず野菜を送ってきてくれた。だから今日は木田が手料理を振舞うことにした。手料理と言ってもカレー。簡単だし、何より佐伯も好きだから。
佐伯は複雑な気持ちで木田のひき肉入りカレーを食べた。これは早く別れろという暗示なのか?そんなこと暗示されなくてもわかってるんだ。わかってるけど、どうしようもないことだってあるだろう。そう思いながら、カレーに入った信州の野菜を口に運ぶ。
カレーを食べ終え、野菜のお裾分けをもらい、アイスティを飲みながら佐伯は少し意地悪な質問をしてみることにした。よりによってカレーをごちそうしてくれた木田へのお礼兼、仕返しの意味を込めて。
「木田さんて…自分でヌク時、何を想像してるんですか?」
「へ?」
唐突に夜の話をされ、木田は何を聞かれているのか理解できなかった。
「木田さんだって男だから、自分で処理するでしょ?」
「な、何をですか?」
「だから!オナニーする時、何を想像してるのかって聞いてるんです」
いくら木田が純粋だからって、そこまで純粋じゃないだろう。そう思いながら佐伯は少し声を荒げた。
「え…ああ…はい…」
木田の顔がリンゴのように真っ赤になる。話題自体も恥ずかしかったけど、佐伯の美しい口からそういう単語が出てきてつい興奮してしまった。
「それが…」
いいよどむ木田を佐伯はじっと見つめた。誘うような目つきではなく、試すような目つきで。
木田は佐伯の目が尋問している警察官のもののように思えた。なぜなら…
「…さ、佐伯さん…です…」
お友達宣言をしておいて、佐伯を想像してヌいているなんて…普通、友達をオカズにはしないだろうに。
それを聞いた佐伯は表情を保とうと頑張る。頑張って冷たく木田を見下すように睨んだ。それが成功していたのかはわからない。だって心の中では嬉しくて、舞い踊っていたから。
「僕の何を?」
佐伯は冷淡な声を出そうと頑張った。木田は真っ赤だった顔を青くしてモジモジしていた。
「僕の何を想像してるんですか?」
「さ、佐伯さんの…色っぽい声とか…綺麗な肌とか…長い指とか…温かい、その…あの…中…とか…」
木田は容疑者になって自白している気分だった。
こんなこと言ってしまって、佐伯さんの気持ちは離れてしまわないだろうか。今だって仮釈放中なのに…完全に死刑判決を下されたら…どうしよう…
「それだけ?僕意外には?」
それが佐伯にとって一番気になるところ。佐伯としてある程度気持ちよかったんだろう。だからオカズにしてるんだろう。だけど木田は、その前に何度も女性としているはず。AV見ながらとか、女性の胸を想像してとか、ノンケの木田ならそれもありだから。ありなのはわかっているけど、嫌だっだ。
「それが…その…オカズにするのは佐伯さんだけです。すみません。俺、友達って言ったのに、勝手に佐伯さんを借りてしまって。これじゃ肖像権の侵害ですよね。これからはAVとかエロ本見ます。すみません」
佐伯は泣きそうになった。木田さんは僕だけオカズにしてる…嬉しい。どうしよう。肖像権なんていくらでも侵害して欲しい。毎日勝手に使って欲しい。そう思いながらも、熱くなってきた自分に気づき、佐伯は平静を装い木田を見ずに言った。
「別に構いませんよ。だって木田さんは僕に片想いしてるんでしょ。片想いの相手をオカズしてる人、多いんじゃないですか?」
「そう言っていただけると…」
罪人のように大きな体を小さくしている木田の姿に、佐伯の胸が痛んだ。
嬉しいですって言いたい。毎日使って下さいって言いたい!いや、想像じゃなくて実物を使って下さいって言ってしまいたい!!
衝動が限界を超えないうちにと、佐伯は野菜の入ったビニール袋を手にして立ち上がった。
「変なこと聞いてすみませんでした。ただちょっと気になったから」
「いえ…」
木田は恥ずかしさと申し訳なさで佐伯の顔を見れずにいた。
「すみません、もう無断使用しません」
「いいえ。勝手に自由に使って下さい。じゃあ、僕、明日仕事なので」
これ以上いたら何を言い出すか、自分が信じられない佐伯は急いで玄関に向かい靴を履く。
「野菜、ありがとうございました。美味しくいただきます。お母さんにもお礼を言っておいてください」
そう言って佐伯は振り向かずに木田の部屋を出た。
佐伯が帰った後、木田は片づけをしながら、佐伯との会話を思い出していた。佐伯が口にした卑猥な言葉も。
ヤバイ…無断使用しないって宣言したのに…勝手に使っていいって言ってくれたけど…本当にいいんだろうか…そう思いながらもバスルームに向かい、佐伯の声と肌と指と中を思い出して自分を慰めてしまった。
一方佐伯もバスルームで自分を慰めていた。意地悪で言ったつもりが逆に自分を攻撃してしまった。自分の欲望を煽ってしまった。あんなこと訊かなきゃよかったと思いながら、木田が佐伯をオカズにしているところを想像しながら、自分の熱くなったものを擦り続けた。
ともだちにシェアしよう!

