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第3話 クラスメイトから借りた物

(ひかる)さんがいつ頃から節操なしになったのかはわからない。 ただ俺がセクハラ?を受けるようになったのは高校に入学後しばらくしてからだ。 クラスメイトとそう言う話で盛り上がって、親切のつもりか、エロ本を貸してくれた。 もちろん、親に隠れてWeb動画を見たことはある。 自分で抜いたことだって、当然ある。 ただ兄弟がいないので、提供元がなく、買おうにもかなり勇気がいる。 親が隠しているのを偶然発見、なんてこともない。 ましてやこれだけお隣の兄弟の出入りが激しくちゃ、迂闊に置いておけない。 男同士でありながら、乃木兄弟とはそういう下半身系の話をしたことがない。 天くんは子供だし、ていうと怒るけど、まだ早いって気がして、見せちゃいけない気がするし。 瑆さんは…。 瑆さんとはなぜか、そういう話をしてはいけない気がしてた。 瑆さんの下半身事情に気付く前も後も。 以上の理由から、俺はエロ本を所持していないし、見たことがない。 中学の時に学校に持ってくるような友達もいなかった。 それを知ったクラスメイトが、なぜだか非常に哀れんで。 俺の秘蔵。 絶対抜ける。 動画とはまた違った楽しみがあるから。 と、押し付けるように貸してくれた。 どんなものかと興味も湧き、受け取ってきてしまった。 ドキドキと後ろめたさと一緒にエロ本の入ったバックを抱えて、まっすぐに自室に入った。 それからあまりかけたことのない部屋の鍵をかけて。 クラスメイトに言われた通りにティッシュの箱も用意して。 机の上に本を広げて。 ドキドキしながらページをめくった。 あられもない女性の姿に、興奮し。 気がつけばベルトを緩めたズボンの中に手を入れていた。 夢中で扱いて、本に夢中で。 「へえ、(りょう)くんも抜くんだあ」 そんな声を突っ伏していた頭の上からかけられてギョッとした。 声も出せずに振り向くと、瑆さんの視線が股間に注がれていた。 俺と目が合うとにっこり笑う。 俺は固まったまま、動けない。 親に見つからないように、とそのことばかりが頭にあって、ベランダの窓の鍵もカーテンも忘れていた。 あ、いやカーテンは閉めた気がする。 でも鍵は…かけてない! 言葉が出て来ない俺の股間をさらに身を乗り出して、瑆さんは微笑む。 「大きくなったね、良くんのちんちん」 …その呼び方、やめてほしい… 言葉もない俺ににっこり笑いかけてくる。 「僕のことは気にせずに、続けて続けて」 …いや、続けられるわけないでしょ… 瑆さんはどこか楽しそうで。 でも俺はすっかり萎えてしまって。 興奮とは違う汗が額を伝う。 もぞもぞとズボンからはみ出した部分を隠そうとすると、腕を掴まれた。 「隠しちゃダメ。続けて」 「…もう、萎えました…」 やっとそう言うと、瑆さんがぷうっと頬を膨らませた。 「えー、勃ててよ」 そう言いながら、まだ顔を出したまんまの先端をちょんと突いた。 「わっ⁈」 急いで隠そうとすると、瑆さんがそれを止めようとして。 俺はそれを止めようと足掻いて。 結局。 どたーっ!と盛大な音を立てて椅子から転げ落ちた。 俺に体重をかけて身を乗り出していた瑆さんも巻き込んで。 尻を派手に打ち付けた痛みと、腹の上に瑆さんが落ちてきた圧迫で俺は呻いた。 その耳に部屋のドアをノックする音が入ってきた。 「良市?」 母の声にさらに冷や汗が噴き出す。 やばいっ!エロ本開いたまんまだ! 「どうしたの?すごい音がしたけど」 ドアノブが回され、俺は慌てて返事をした。 「な、なんでもない!ひ、瑆さんとふざけてて、椅子から落ちただけだからっ」 再びドアノブが回され、焦る。 なぜ鍵をかけているのか、突っ込まれたら、なんて答えよう…。 「怪我はないの?」 「大丈夫です」 俺が答えるより先に瑆さんが答えた。 瑆さんの声に母が安堵したような声を出した。 「そう、良かった」 瑆さんの助け舟にホッとして振り向く俺に、にっこり笑いかけてくる。 すぐに俺は青ざめることとなった。 にっこり笑う瑆さんは俺の太ももの上に座り込んでる。 そして手には俺のペニス。 母に気を取られて、気付かなかった。 瑆さんの手を外そうと伸ばしかけた手の平に、瑆さんの膝が乗る。 「気をつけてね」 「はーい」 言葉も出せずに硬直する俺の代わりに瑆さんが返事をした。 とんとん、と母が階段を降りていく音に俺の鼓動が呼応する。 耳鳴りのように自分の心臓の音が響き出した。 な、何する気ですか。 声が出せずに、それでも必死に目で問いかけると、瑆さんはうっすら頬を染めて。 「勃ててあげるね」 にっこり笑った。 「や、やめ」 慌てる俺に全く気を止めず、瑆さんの手が動き出す。 「うわっ」 未知の快感、だった。 他人に触られることの恥ずかしさとか、瑆さんの手が意外に柔らかく温かく、ツボを押さえてるかのように俺の弱点を容赦なく抉る感じとか。 自分の手ではないと言うだけでも、興奮するものだと初めて知った。 それが他人、てだけでなく、瑆さん、だったからかもしれないが。 そんなことを考える余裕なんかあるわけがない。 「ほら、もうこんなだよ?おっきいね」 自分でするのならコントロールできる快感の波は、次にどうくるのか予測もつかず翻弄されるばかり。 瑆さんの白い手が俺のを掴んで、扱いて、溢れて来たカウパー液を伸ばすように、塗りつけるように動く。 「ひ、瑆さん、やめっ」 「まだおっきくなる?どうしてほしい?良くん」 言葉責めにさらに加速して。 瑆さんは俺の反応が楽しいのか、薄っすら口元に笑みを浮かべている。 右手で陰茎を揉むように扱きながら、もう片方の手が周辺を撫で、深く入り込み、二つの袋を下から持ち上げるように揉み始めた。 「う、わ、やめ、て、くださいっ」 「気持ちいい?良くん」 少し赤みを帯びた頬と唇。 なぜだか少し潤んだ瞳。 じっと見上げて。 見ないでください、お願いだから。 「ね?良くん」 手を休めることなく俺を追い立てて。 「気持ちいい?」 聞かなくてもわかるでしょ⁉︎ こんなに勃起してカウパー液も垂れ流してるのに? わざわざ聞く意味があるんですか⁉︎ などと言えるわけもなく。 代わりに俺の口から出た言葉は。 「で、出るっ」 俺の最速記録更新だった。 一気に駆け上がって来た快感が頭のてっぺんで破裂して、チカチカ光りながら飛散していく。 瑆さんは放心中の俺を眺めながら、手にべっとり着いた白い液体を弄ぶように指先で弄っている。 白い掌に白い液体。 ぼーっと眺めている俺の目の前で、瑆さんは手を自分の顔に近づけた。 赤い舌がちろりと覗き。 舌先が白い液体を拾った途端、頭を殴られた気がした。 一気に射精後の自失状態から引き戻された。 俺は。 俺は。 俺は机の上のティッシュ箱から何枚も紙を取り出して、瑆さんの手を拭いた。 「良くん?」 何度も何枚もティッシュを取り出して。 それから。 瑆さんを引き摺るようにして一階まで降りると、母親の声かけも無視して洗面台に直行。 ハンドソープを大量に付けて、これでもか、と瑆さんの両手を洗い続けた。 「良くん?」 汚した。 瑆さんの手を。 必死にソープを泡立てては洗い流してを繰り返した。 「良くんっ!」 俺は、どっちかって言うと被害者かもしれないが、その時の俺は完全に性犯罪の加害者の心境で。 罪悪感ばかりが頭を支配していた。 「良くん!」 瑆さんに足を踏みつけられて、我に返った。 ざあざあ流れる水の中で、俺に擦られ続けた瑆さんの手は若干赤くなってる。 その事実にまたも頭を殴られた気がして。 今度はタオルをその手にかぶせて、軽く押さえるように拭いた。 「良くん、大丈夫だよ?もう、取れたよ?」 瑆さんの労わるような優しい声に釣られて顔を上げて、またがつん、とくる。 そうだ、口。 舐めた、んだった。 けれど。 さすがに口に洗剤突っ込んで洗うわけにもいかず。 俺は降りて来た時と同じ勢いで二階に駆け上がると、ベランダのサッシを開けた。 瑆さんを押し出す。 「すぐに口を洗ってください」 それだけ言うと、サッシを閉め、鍵をかけ、カーテンをひいた。 「え、良くん?良くんっ!」 後ろ手にカーテンを握りしめて、俺は再び放心していた。

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