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第5話 見られたのが運の尽き…
かくして。
瑆 さんの涙にあっさり俺が負ける形で元サヤに収まった。
のは、表面だけ。
瑆さんは至って普通。
俺だけ、変に意識しまくって、微妙な距離を保とうとしてる。
瑆さんは以前と変わらず俺の部屋で、ベッドに寝そべってゲームをしたり、ベッドを背凭れにして俺の部屋の小さなテレビでDVDを見てたりする。そして俺は一緒にその横に座ったり、隣に寝そべったりしてるのだが、以前は瑆さんが横になっていればその隣に同じように寝転がって、肩も付かんばかりに並んでいたのが、今は瑆さんが横になっていれば俺はベッドに座り、逆に瑆さんが座っていれば俺は横になってる、という微妙な距離を取ってしまう。
意識しすぎているのはわかっている。
現に瑆さんなんて、気にも留めてない感じだ。
不意に近付いてきた瑆さんを反射的に避けてしまっても、俺を視線で追いながら話を続ける。
不意に伸びてきた瑆さんの手を反射的に払いのけても、「脅かした?ごめんごめん」と笑ってる。
そこは普通、なんで?どうして?とか聞くものだろうに。
懐が広いのか、鈍感、無神経…。
いやいや、ともかく避けて通れないのならば慣れるしかない。
慣れればきっとまた元踊り…。
リハビリのような期間が1ヶ月、2ヶ月、と過ぎていき。
ある日、瑆さんがまた爆弾を落とした。
スマホゲームに夢中になってる俺に、瑆さんがそっと近付いてきた。
リハビリのお陰で急激な接近でなければ平気になっていた俺は、完全に無警戒だった。
「良 くん、どこまで進んだ?」
肩口で声がする。
ベッドに横たわる瑆さんに背を向けて、ベッド端に腰掛けていたので、瑆さんが近付いてきたのがわかる。
まだ、大丈夫。
「あんま、進んでません。こいつに手間取って…」
アプリゲームの画面を見せるために少し体をずらして、スマホを傾けた。
「あー、僕もそいつ手間取ったよ」
そう言いながら視界に瑆さんの髪が入ってきて。
スマホを覗き込む瑆さんの横顔が、肩のすぐ横。
う、近い。
体を逸らそうとして出遅れた。
瑆さんの手が肩を掴む。
それから俺を振り向いて、じっと見つめる。
近い、やばい。
こんなに近くなってるとは気付いてなかった。
身を引こうとした俺に、瑆さんが目を覗き込んできた。
「最近良くん、してないよね」
なんのこと?
「どのアプリのことですか?」
「ん?オナニー」
な⁈
「してないよね?」
してなくはない。
風呂場とかでちゃんと、瑆さんの手をオカズに抜かせていただいてます。
とは、言えないよな。
驚いて逃げそこなった俺に、さらに追い討ちのような言葉。
「また僕がしてあげようか?」
とん、と瑆さんの手が太腿に置かれて、びくっと体が跳ねた。
「いいいいいえ、結構ですっ」
「恥ずかしい?」
「…当たり前じゃ、ないですか…」
恥ずかしいに決まってるでしょ?
俺はむしろ恥ずかしげもない瑆さんの方が不思議だ。
「みんなしてることだから、恥ずかしくなんかないよ」
確かにオナニーぐらい誰でもしてると思うよ。
でも、人に手伝って貰ったりは…。
ああ。
大人の恋人がいる人は違うのかもしれないけど。
ひ、瑆さんは俺の恋人ってわけじゃ、ないし…。
「して貰う、とか、おかしくないですか?」
俺たちの関係上。
でも瑆さんは怪しげに微笑みながら、俺の太腿を摩る。
「気持ちよかったでしょ?この間」
はい、気持ちよかったですよ。
その後ずーーっと俺のオカズになるぐらい。
でも、ですよ。
「また気持ちよくしてあげるね」
瑆さんはするりとベッドから滑り降りると、俺の足元にちょこんと座った。
「な」
何をする気で?
問いかけようとした俺に瑆さんの右手が伸びてきて、ベルトを外そうとし始めた。
「わ⁈」
俺がその手を止めると、左手がするするとベルトをバックルから抜いた。
「わわ⁉︎」
慌てて左手も捕まえる。
両手を抑えて、動きを封じた気になってる俺をあざ笑うかのようにふふふ、と瑆さんは笑いを漏らした。
それから頭が股間に落ちてくる。
「え?う、わ⁈」
舌先で器用にファスナーを探ると、そのまま噛んで引き下ろし始めた。
「わ⁈ちょ」
今度は頭を両手で掴んで持ち上げる。
薄っすら細められて、俺を見ているようで見ていない瞳を見つけた。
な、なんだ、この表情…。
瑆さんの豹変に戸惑う俺をよそに、自由になった瑆さんの手がズボンの中、下着の中から、俺のペニスを取り出してしまった。
もう隠しようがない。
先ほど前回の快感と興奮を思い出して、すっかり勃ち上がっている。
「良くんも待ってたね」
両手で包み込まれ、やわやわと揉むように扱かれた。
「うっ、く」
とっさに瑆さんの腕を掴んで剥がすと、今度はまた唇が近付いてくる。
先端に唇を押し当て、舌先が突くように触れる。
「うわ」
反射的に止めようとした手を、瑆さんが腕を返して逆に掴み返した。
「邪魔しちゃダメ」
掴まれた手がベッドに縫い付けられる。
俺を見上げながら見せつけるように出された舌が、茎を根元から舐め上げ、時々唇で挟むように噛まれる。
「くっ、ん」
瑆さんは俺の反応を楽しむように、口元に薄っすら笑みさえ浮かべて熱心に舐める。
「気持ち、いい?」
聞かなくてもわかるでしょ?
なんで聞くんですか?
答えるの恥ずかしいんですけど。
俺が答えるまで、瑆さんは「ね?」を繰り返す。
「気持ちいい、ですよ」
観念して俺が答えるとふわっと笑う。
それから先端に柔らかく唇を押し当てると、そのままゆっくりと口に含み始める。
「う、わ、ぁ」
初めての感触に思わず腰が揺れる。
湿った暖かい感触に包まれながら、ゆっくりと唇で扱かれる。
自然に上がってくる息。
瑆さんの息も上がってるみたいで、離した拍子に息がかかってぞくっとする。
慣れてる、よな。
俺は瑆さん以外にされたことはないからわからないけど。
痛い、とかはないし、気持ちいいから上手いんだと思う。
やっぱり、それだけ経験がある、ってことだよな。
胸の中が、局所の快感とは別にざわつく。
さすがに2回目、口でされたのは初めてだったが、前回ほどはパニックにならずに済んでる、かな。
「良くん、集中して?」
「え」
瑆さんと視線が合う。
ちょっと不機嫌そうな瞳が見てた。
さっきはあんなに溶けそうな目をしてたのに。
「気持ちよくない?」
「気持ち、いいですよ」
俺が答えると、しばらくじっと見つめられて、それから動きが速くなる。
その様子を沸騰しかけた頭で眺めて、俺はふと疑問を口にした。
「瑆さんは、恥ずかしくないんですか?」
何度も、誰にでもしてるんですか、とは聞けない。
瑆さんは、ふふふ、と笑う。
「うん?嬉しいよ」
は?
「良くんが僕で気持ちよくなってくれると、嬉しいよ」
そう言いながらペニスにキスをするように吸い付く。
「く」
瑆さんの俺の手を抑えていた手が外され自由になる。
今更、止められるわけもなく。
片手で根元を扱きながら、先端を口の中へ出し入れされる。
もう片方の手は玉を軽く揉まれ。
「ひ、瑆さん、出る、出ますっ」
離して下さいっ。
瑆さんの髪を掴んで訴える俺を、ちらりと見上げる。
「いいよ、出して」
いや、だから。
「はなし、て」
「や」
や、じゃなく。
こんな攻防俺の分が悪い。
瑆さんに咥えられたまま、俺は射精することとなった。
瑆さんの口端から白濁の液がとろりと溢れ、俺の頭にがつんと衝撃が走る。
出しちゃったよ、瑆さんの口に。
はあはあ、息を喘がせる俺の前で、瑆さんはごくん、と喉を鳴らした。
「わあ⁉︎な、何するんですか⁈」
ぺろりと口周りを舌で舐めながら瑆さんはにっこり笑う。
「そんな…。は、吐き出して下さいっ、早く!」
慌てる俺に瑆さんはにこりと笑うと、舌を出して口を開けてみせた。
「もう飲んじゃった」
飲ん、じゃった、って…。
瑆さんは、初心者に易しくない、と思う。
「…汚いですよ、そんなの。…よく飲めますね…」
頭を抱える俺の太腿に手をついて瑆さんが覗き込んでくる。
「汚くないよ?良くんのだもん」
「………」
「ねえ、良くん」
「…なんですか…」
「また、シていい?」
「…気持ちよかったでしょ?」
「よかったですよ」
「…いい?…」
じっと見つめられると、あの日泣かれてしまったことを思い出して。
俺は視線を逸らしつつ頷いた。
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