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第6話 そういうお年頃

結局俺はその日から、(ひかる)さんの襲撃を受けることとなり。 泣かれたくないので締め出すこともできず。 瑆さんがなんの意図があって、俺のペニスを舐めたがるのかわからず。 けど、聞けず。 …いや、ただ好きなだけという可能性大だが。 受け入れるしか出来ないだけの日々を過ごし、瑆さんは件の大学へ進学し、俺は高2になった。 瑆さんの襲撃は毎日ではなかったが、三日と置かず行われた。 部屋へやってくるのはほぼ毎日。 大学に入ってからは勉強に忙しいらしく時々現れない時もあった。 課題を持ち込む時もあったし。 ……………。 本当は。 瑆さんが俺の部屋に現れない時、何をしてるのか、俺には知る由もない。 問い詰める、理由も…ない。 中学からの友人の1人に吉山というのがいる。 仲が良かった数人のうちの1人で、特に行きたい高校がなかった彼は俺と同じ高校へ来た。だが高校では同じクラスにはならず、休みの日にわざわざ呼び出して遊ぶ程でもなく、廊下で偶然会ったら立ち話、ぐらい疎遠になっていた。 その吉山がわざわざ教室までやって来て、廊下に呼び出された。 「どうしたんだ?」 当然の疑問に吉山は何やらにやにやしている。 「気味悪いな」 俺が茶化すと、肩をぐっと引き寄せられ組まれた。2人して窓の方に体を向けて、吉山は少し声を潜める。 「実はさ、俺、去年から彼女が出来てさ」 「へえ、良かったじゃないか」 にやにや笑いはそれか? 俺が冷やかそうと笑うと、その胸をぽん、と叩かれた。 「まあな!で、その彼女の友達がさ」 「なんだ、彼女自慢にわざわざ来たんじゃないのか?」 「それもある。がこっちが本題でさ」 「なんだよ」 「その彼女の友達が、お前を気に入ってるらしくてさ」 「え」 「津田良市(りょういち)、って知らない?って聞くからつい中学からのダチだって言ったら、ぜひ紹介してやってくれって頼まれちゃってさ」 「………」 「お前、あんまそういうの興味なさそうだからわかんない、っては言ったんだけど、さ」 背中に聞こえる休み時間の喧騒が、なぜだか俺の心まで騒がせる。 「…興味、ない、こともないけども…」 背中を笑いながら通り過ぎていく同級生の声に紛れるほど小さく呟いてみた。 「ほんとか⁈」 途端に嬉しそうに吉山が表情を明るくした。 「…まあ…」 嘘、ではない。 が、微妙にズレがある気もする。 誰かと付き合う、ということに興味がないわけじゃない。 女の子も可愛いと思う時がある。 ただ。 …………。 ……。 「俺の知ってる子か?」 知ってるかどうか、は重要なようでいて重要ではない。 気、もする。 「どうだろ?確か、三上、って名前だったと思う」 視線を上向きに彷徨わせた吉山が答えた。 「曖昧だな」 笑いながら記憶を辿っても、心当たりはない。 「知らないな」 「でも、向こうは知ってるみたいだしさ」 「うーん」 「一度、俺たちとダブルデートしてみようぜ」 「うーん」 渋る俺の肩を組んだまま揺らしてくる。 まるで俺の心ごと揺らしてるみたいに。 「知らないならなおのこと、会ってみないとどんな子かわかんないだろ?会ってみたらいい子で気にいるかもしれないしさ」 「………」 俺って、もしかして押しに弱い? 結局、ダブルデートというやつをすることになってしまった。 吉山がやけに熱心に俺を押してくると思ったら、どうやら彼女の方にベタぼれらしく。 彼女にいいとこ見せたい、って理由らしい。 俺がその三上って子と上手くいけば吉山の株も上がる、って寸法。 と、少なくとも吉山は思ってる。 俺は。 押し切られた、といえばそうなんだが。 迷い、というか悩み、があって。 それを断ち切ろうという、微かな望みにかけていたのかもしれない。 言わずと知れた瑆さんの事だ。 瑆さんに抜かれるのも慣れて来た。 瑆さんにボディタッチされながら、いい?、と聞かれると、簡単に先を期待して股間が膨らむ。 それを瑆さんは嬉しそうに、弄ぶ。 俺はそれを見ながら、胸の中に膨らんでくるもやもや、というか黒ーい霧のような物が少しづつ蓄積されているような気分になってた。 このもやもやが、時々、いらいらに変わり。 股間に蹲る瑆さんの頭を鷲掴みにして、喉奥まで突いてやりたい衝動を起こすようになって来ていた。 もちろん、そんな事出来るわけがない。 それもこれも性欲が瑆さんに直結されてるせいだと、結論づけて、さらにその対象が別の人物に移ればもしかしたらもやもやな黒い霧が晴れていくのかも、という期待だ。 「中学からの友達と出掛けるから」 土曜日。 お隣の兄弟にそれぞれお誘いを受けたが、全く同じ返事をした。 吉山は中学からの友達だし、嘘は言ってない。 うん。 オシャレしてこい、と吉山に言われたが、そもそもそんなオシャレな服は持ってない。 ので。 あまり着ないような服を選んだ。 とりあえず身なりも整えた。 あくまで、俺的に、だが。 うきうき、と言う気持ちはなく、不安とちょっと煩わしさを感じつつ、家を出た。 待ち合わせはまず吉山と。 駅で待ち合わせて、目的の遊園地(ベタすぎる…と文句を言ったが逆に怒られた)へ向かう。 吉山は人に紹介するくせに、その「三上」さんに会ったことがない、とこの時白状された。 いや、遅いだろ、お前。 「悪い印象受けなかったらさ、そのまま付き合っちゃえよ」 「…勝手な事言うなよ…」 2人で降りる方の扉前に陣取って、吉山が先輩風を吹かせて助言らしいことを言う。 「だってさ、向こうはお前のことが好きなんだぜ?」 「………」 「付き合ってみないと、相手のことわかんないと思うんだよ、俺は」 「わかった風なこと言うなぁ」 「俺、このことに関してはお前より先輩だからな!」 「はいはい」 「付き合ってみて、どうしても合わない、ってなったら別れればいいんだよ」 わはは、と笑う吉山を曖昧な笑いで流した。 「吉山くーん」 目的地の小さな遊園地の入口で、俺たちが近付くなり手を振る女の子がいた。 「お待たせ」 吉山がふやけた笑顔で手を振り返す。 そのあまりのふやけ具合に俺が驚いていると、背中を叩かれた。 「おい、結構可愛いじゃん」 言われて見ると、吉山の彼女の隣に肩ぐらいのストレート女の子が頬を染めて立っていた。 まあ、中くらいの上? あくまで俺の基準で。 他のやつからみたらどれくらいなのかわからない。 何しろ俺の基準がお隣の美形兄弟だからなあ。 良くも悪くも、基準が高い自覚はある。 「初めまして」 吉山の彼女がおざなりのお辞儀をした。 「俺の彼女。…手ぇ出すなよ…」 後半は小さく囁かれたが、心配無用、とはさすがに返せなかった。 ちょっと長めの色の薄い髪。 片方だけ耳が出されていて、そこには大きなピアス。 …なんだか、軽そう… 俺の、あくまで俺の、第一印象だ。 瑆さんに似てるわけじゃないんだが、なんだか瑆さんを思い出す。 これは、吉山、大丈夫か? 心配になる程。 吉山はいい意味で単純で明るい、扱いやすい奴だから。 人の心配してる場合じゃないと思うぞ。 「 美花が言う通りかっこいいね」 「ちょ、絵里~」 吉山の彼女が言うと隣の子が真っ赤になって袖を引いた。 それから俺を見ると、深々と頭を下げる。 「三上です、よろしくお願いします」 「あ、津田です。こちらこそよろしく」 同い年だと聞いてたので、変に敬語とか使わないほうがいいかとそんな挨拶をした。 顔を上げた彼女は真っ赤で、少し顔を隠す仕草をした。 俺の三上さんの第一印象は良。 友達とは正反対のようだ。 良くあるよな。 俺と吉山もタイプ違うし。 「早速、行こ!」 彼女が吉山の腕を引いて歩き出し、俺も吉山の目配せを受けて歩き出した。 「行こうか」 三上さんを振り向いて言うと、彼女はこくりと頷いた。 吉山との段取りでは、彼らの後を俺たちはついていけばいいらしい。 行き先を決めなくていいのは助かる。 デートなんてしたことないから、何をどうすればいいのかさっぱりわからない。 やけにテンションの高い彼女に引っ張られてる吉山。 その後ろを会話もなく付いていく俺と三上さん。 やけにアンバランスなダブルデートが始まった。

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