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第11話 童貞喪失
何かきっと瑆 さんの癪に触る事を俺がしたんだろう。
性的マイノリティーである事が俺の想像以上に瑆さんのコンプレックスになっていて、俺が女の子と出かけたり付き合うかもしれないという出来事がそれを刺激してしまったのかもしれない。
だから。
だから、こんな。
こんな展開に。
そうでもなければ、こんな、こんな展開には…。
意外なことにそこは温かく湿っていて、すんなりと飲み込まれていった。
先端がゆっくりと中を拓いて行き、内壁の襞が絡みついてくる。
「っつ…」
思わず息を詰めた。
まだ半分ほど埋め込まれただけなのに、すでに達してしまいそうなほど気持ちいい。
唇を噛み締めて、ぎゅっと目を閉じて耐える。
ゆっくりとぬるぬるした中へ飲み込まれていって、ついに瑆さんの柔らかい尻肉が太腿にあたる感触がして目を開けた。
その瞬間、音がしそうなほど瑆さんの瞳とかち合った。
淡いピンク色に上気した肌に薄っすら滲む汗。
若干焦点のぼやけたような瞳でじっと俺を伺ってる。
頭をがつんと叩かれたような衝撃を受けた。
匂い立つような色香をシャツからはみ出した肌が放っている。
俺を見下ろして、微かに微笑んだ。
「…動くね…」
声にまで艶があるように感じる。
瑆さんは俺の腹辺りに両手を付くと、ゆっくりと腰をグラインドさせ始めた。
「うっ、くぅ」
先端が内壁に擦り付けられ、俺は呻いた。
「あつぅ…」
他人の内部がこんなに熱いとは思わなかった。
瑆さんの体内を俺のペニスがかき回し蹂躙している。
変な征服欲に駆られ、更に奥を目指したくなるのをぐっと堪えた。
俺の腰に跨った瑆さんは淫らに腰を振り、髪もその度さらさら流れる。
目を閉じ、少し眉を寄せ、小さく開いた口元から瑆さんの熱い吐息が溢れている。
「あ、は、良 くんの、きもちい」
時々ぎゅっと眉を寄せながら瞳も堅く閉じる瑆さんを見つめ、俺はどんどん高みに押し上げられる。
時々湧き上がる悔しさとか、やるせなさとか、もやもやしたものはなんとか飲み込んだ。
グラインドさせていた腰をゆっくりと持ち上げ俺のペニスを引き出すと、またゆっくりと飲み込んで、瑆さんは俺を見下ろす。
瑆さんの口内は温かく、いつも適度に吸い上げられる感覚がして、堪らなく気持ちいいと思っていた。だがこれはそれよりももっと気持ちいい。
内部が吸い付くように蠢きながら、適度な力加減で扱かれているような。
それでいて不意にきゅうっと締め付けられる。
ぬるぬるとした摩擦が簡単に追い上げて来る。
「ね?良くん。女の子が相手じゃなくても気持ちよくなれるでしょ?」
腰の上で尻をゆっくりと規則的にバウンドさせて、瞳を潤ませている。
「あん、良くんの気持ちい、おっきくて、熱い」
言葉通りなら、瑆さんの瞳が潤んでいるのも、弾む吐息も、高揚した肌も快感からくるものと言える。
ただ。
掴み所のない瑆さんの言葉を鵜呑みには出来なくて。
それに…。
ゆっくりとした律動で今まで手で扱かれていたように、瑆さんの肉に包まれて擦られる。
擦りあげられるたびに熱を帯びて、さらに絡みつき吸い付いてくるような気がする。
「ねぇ、良くん、気持ちいい?」
俺を見つめながら聞いてくる。
気持ちいい、けれど。
通常挿れる所ではない場所に簡単に俺を受け入れて、さらに快感すら覚えてしまう瑆さんに、俺は複雑な想いを抱いていた。
何も。
何も考えたくないくらいには気持ちいいのに。
淫らな瑆さんの姿に、今まで瑆さんの体の上を通り過ぎてきただろう男達の姿を想像させられて。
雑念を払うように本能のまま腰を振ってさらなる快感を求めた。
「あん」
瑆さんは高い声をあげてびくりと体を震わせる。
それから俺を見下ろしながらぺろりと上唇を舐めた。
ゆっくりとした抽送が不意に早くなる。
「わ、あ」
搾り取るような内壁の圧力に思わず声を漏らすと、瑆さんが妖艶に笑う。
「…これ、気持ちい?」
腰をくねらせながら律動を繰り返す瑆さんから汗が滴り落ちてくる。
多分、俺も同じ。
身体の中も外も熱い。
「ねぇ、良くん…」
泣きそうに歪められた瞳で何度も聞かれ、俺は堪らなくなって。
「そうですね、気持ちいいです」
そう、答えてた。
俺の返事を聞いた瑆さんが見たこともないくらいに綺麗に微笑んで、腰を更に激しく上下させた。
早くなった動きに始終脳裏をかすめていた雑念も振り払われて、まっすぐに頂点に駆け上がり、瑆さんの中で弾けた。
自分で吐き出した精液が内部で広がり、先端に触れるのを感じた。
途端に思い出したようなショックを受ける。
中出し、してしまった。
女の人じゃないからいいのか?
いや、でも。
あんまり、良くなさそう…。
そして。
祝、童貞喪失。
と言うには俺に気持ちは落ち込みすぎている。
瑆さんとセックスした。
自慰の延長だったはずなのに。
いつの間にこんなに入り込んでしまったのだろう。
一人で困惑する俺に、俺の射精を体内で受け止めた、瑆さんは微笑む。
「ねえ、良くん。気持ちよかったでしょ、またしよう、ね?」
射精後、急激に襲ってきた冷静な脳で瑆さんの言葉を聞く。
「でも、それは…」
ちょっと眉を寄せた瑆さんがTシャツの裾から入り込み、俺のへそ辺りの素肌をするすると撫でる。
その手つきがなんともエロくて。
まだ入ったままのペニスがぴくっと反応してしまった。
「あん。ほら、気持ちいいでしょ、ねえ、良くん?」
「気持ち、いいです」
素直に返事をした俺ににっこり微笑みかけた瑆さんの腰を掴んで持ち上げると、ずるっとペニスが抜けた。
「あ、ん、んっ」
ぷるぷると身体を震わせる瑆さんをそっと遠ざける。
瑆さんの下から体を引きずり出した。
「でも、これは、良くない、ことです」
絞り出すようにそう言うと、瑆さんが瞳を潤ませた。
「なぜ?」
「なぜ、って…」
今回は仕方なかったとして、これ以上は瑆さんとセックスしたくない。
でもその事を瑆さんに伝えるにはなんて言葉にしたらいいんだろう。
「…僕が男だから?…」
それならきっと、今回、俺のペニスは役立たずで、こんな結果にはなってない。
「違います」
「気持ち、悪かった?」
今まで、自分でも瑆さんにも抜かれてきたけれど、そのどれよりも気持ちよかった。
また当分の間俺のオカズになることは間違いない。
「いいえ」
「…じゃあ…」
瑆さんは一旦、息を吸い込むように言葉を切った。
「…じゃあ、僕が嫌い?…」
顎を引いて、潤んだ瞳で見上げてくる。
「いいえ」
俺は瑆さんの質問をことごとく否定する。
ずるい、瑆さん。
なんで俺が肯定できない質問ばかりするんですか。
「じゃあ、なぜ?」
「………」
その理由を簡単に説明できないから困ってるのに。
「ただ…ただ、僕としたくない?」
ついには瞳すらも伏せてしまった瑆さんから、泣きそうにも聞こえる声がした。
「…いいえ…」
だから、困ってる。
したくない、なら理由は簡単で。
俺は悩む必要もなく、瑆さんを拒絶すればいいだけのこと。
でもそれが出来ない。
だって俺は瑆さんとまたセックスしたい。
実際気持ちいのもあるけれど、瑆さんの中に俺の一部を埋め込んでいる快感もあった。
それは誰でもいいわけではなくて、きっと瑆さんだったからだ。
勝手におもちゃのように扱かれて抜かれるのも、ほんとはそんなに嫌じゃなかった。
怪しい色香で惑わせてくる瑆さんに困ってはいるけれど、嫌がってはいない。
だから。
だから瑆さんも強引になれたんでしょ?
でも、それとこれとは別なんだ。
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