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変わらない二人
「――って感じで、こいつほんと呆れるから!」
少しずつアルコールが回ってきた同窓会は今、怜央の話で盛り上がっていた。
「それで? なんて言ったん? こいつ」
「『お姉さんって、みそ汁の具は赤だし派? その答えによって俺の好き度が変わる』って言ってた」
「まじこいつやばー」
怜央は高校時代、タイプの女性に声を掛けるのは日常茶飯事だった。それを大人になった今も尚、続けているらしい。ついこの間も、そんなことがあったらしく、泉の暴露によってテーブルは大きな笑いに包まれた。
「赤だし派かどうかで好き度変わるってなに?」
「だって俺、赤だし派だし」
「お前の味噌汁の好みなんて、どうでもいいだろ」
テーブルがどっと笑いに包まれた。思いついたことをそのまま口にする。本人は至って真面目なのだろうが、周囲からすれば理解不能でしかない。
それでも、怜央の周りにはいつも人がいた。ただ、思ったことを口にしているだけなのに、気付けば誰かが笑っていて、その輪の中心にはいつも怜央がいる。それは昔も今も変わらない。
「でもお前、お姉さんより凪だろ」
誰かの何気ない一言に、さっきまでの笑い声が少しだけ静まる。
怜央は否定するどころか、面白そうに笑った。
「そうそう、いつ振り向いてくれんのかな〜。ね? 凪くん」
「また言ってるわ〜」
テーブルは再び笑いに包まれた。あちこちからは茶化す声が飛んでくる。
凪は呆れたようにため息をつき、グラスを口元へ運んだ。
本人にその気はない。思ったことを口にしているだけだ。だから誰も本気になどしないし、凪も本気で受け取ったことは一度もなかった。
その後も思い出話は尽きなかった。高校時代の失敗談に腹を抱えて笑い、恩師の授業を懐かしみ、当時は言えなかった感謝を口にする者もいた。
「先生だいすき!」
誰かの言葉をきっかけに、自然と拍手が広がる。
「俺もだぞー!」
照れくさそうに笑う恩師の目は、どこか潤んで見えた。
「今日は来てよかったよ。ありがとな」
その穏やかな一言に、さっきまで騒いでいた教え子たちも照れくさそうに笑う。
気付けば時計の針は、予定していた終了時間をとうに過ぎていた。幹事が「お開きにするか」と声を掛けると、それぞれが名残惜しそうに席を立ち始める。
凪も荷物を手に取り、静かに席を立つ。
「凪くんはまだ俺と遊ぶ時間があるんじゃない?」
不意に背後から聞こえた声に、足を止めた。
振り返った先には、悪びれもなく笑っている怜央が、凪をじっと見つめていた。
「昔から俺のこと振り回すの、やめてくれない?」
「凪くんも俺といたいんじゃないの? まあほら、遠慮すんなって」
相変わらずだった。根拠なんて何一つないのに、自分の都合のいいように解釈する。それを冗談で言っているわけでも、からかっているわけでもない。本人は至って真面目だ。
そう思いながら、凪は小さくため息をついた。
「遠慮してない、帰る」
踵を返そうとした、その瞬間だった。
「そっか。じゃあ、仕方ないね。分かったよ」
あまりにもあっさり引き下がるものだから、思わず怜央へ視線を向けた。気付けば手は、怜央の腕を掴んでいた。
「……分かったって」
「うん、知ってた〜」
満足そうに笑う怜央を見て、凪は小さく息をつく。
――そうだった。
昔からこういう手を使って、よく騙されていたのを思い出した。そしてその度に、凪は同じように引っ掛かってきた。
「五分」
観念したように告げると、怜央はパッと表情を明るくした。
「さすが俺のハニー」
「違う。五分経ったら帰る」
念を押したはずなのに、怜央は返事もせず機嫌よく歩き出していく。
凪はその背中を見つめ、小さくため息をついた。その背中を追うようにゆっくり歩き出す。
――五分だけ。
そう思いながら足を進めたのは、この日も同じだった。
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