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思い出す夜
コンビニを出ると、夜風が火照った身体をゆっくりと冷ましていく。
怜央は袋からアイスを取り出すなり、待ちきれなかったように袋を開けた。
「冷たっ」
一口目から大袈裟に肩を震わせる姿に、凪は小さく息をつく。
「凪くんいらないの? 俺が食べちゃうよ」
「やめろ。バカ」
「いただきまーす」
言うが早いか、怜央は凪の手元へアイスごと顔を寄せてきた。凪は慌てて手を引く。
「ケチ」
「ケチとかじゃなくて、俺の」
口を尖らせる怜央からアイスを守るように持ち替え、凪は一口かじる。
「あっ、」
「もう遅い」
悔しそうに見つめてくる怜央を横目に、凪は少しだけ勝ち誇った気分になった。
(昔から、人の物ばっか狙うんだよな)
怜央の昔からの悪い癖だ。能天気というべきか。自由人とかいうべきか。欲しいと思ったら、深く考えずに手を伸ばす。もっとも、そんな怜央だからこそ、周りは放っておけないのだろう。
――凪もそのうちの一人だった。
「そんな事より、お前、明日仕事は」
「んー? あるよ」
「俺も」
高校卒業後、怜央は営業職に就いた。人と話すことが好きな怜央には、驚くほど向いている仕事だ。一方の凪は、高校教師になった。昔から頭が良く、人に教えるのがうまい凪にとっても、向いている仕事だった。
凪はアイスを食べ終えると、包装を近くのゴミ箱へ捨てた。
「そろそろ帰ろう」
「えー」
怜央も名残惜しそうに立ち上がると、食べ終わったアイスの棒をゴミ箱へ向かって投げた。
「さすが俺」
アイスの棒は的を外すことなく、ゴミ箱へ吸い込まれた。得意げに胸を張ったかと思えば、そのままこちらへ歩み寄ってくる。
「なに」
「んー」
返事をする代わりに、怜央は凪の肩へ顎をちょこんと乗せた。
「今日はありがとう。おかげで、すげえ充電できた」
不意に耳元で落とされた声に、凪は思わず肩を揺らす。
「重い」
「我慢して」
「重い」
怜央は鼻で小さく笑うと、ようやく顎を離した。
(……こういうところ)
照れも遠慮もなく距離を詰めてくる。本人に下心なんて欠片もないから、余計に質が悪かった。
「帰るよ」
軽く怜央の肩をぽんと叩く。
「へーい」
素直に返事をした怜央は、いつものように凪の隣へ並んだ。
二人分の足音だけが、静かな夜道にゆっくりと響いていく。気付けば、肩が触れそうな距離を歩いていた。
――昔から、それが二人の当たり前だった。
自宅へ着く頃には、日付が変わろうとしていた。玄関の鍵を開けると、誰もいない部屋が静かに迎える。
凪が暮らしているのは、一人暮らしには十分すぎる1LDKのマンションだった。玄関を上がれば、すぐにリビングダイニング。その奥には寝室が一部屋あるだけの、ごくありふれた間取りだ。
白を基調とした室内には余計な物は少なく、ソファとローテーブル、本棚が並ぶだけの落ち着いた空間。
「……ただいま」
返事が返ってくるはずもない。習慣のように漏れた一言に、苦笑いしながら靴を脱ぎ、ジャケットをソファへ放った。
「そういえば、よく家に遊びに来てたな」
幼なじみだということもあり、実家で過ごす時間は学校より長かったかもしれない。放課後になれば、どちらかともなく家へ向かい、宿題をしたり、ゲームをしたり、気付けば日が暮れていた。
あの頃の怜央は、今より少し背が低いだけで、中身はほとんど変わっていなかった。冷蔵庫を勝手に開けては母に怒られ、それでも懲りずにお菓子を探し回る。
そんな怜央の変わらない図々しさを思い出し、自然と口元が緩んだ。
「……変わらないな」
小さく呟くと、凪はネクタイを外し、そのままベッドへ身体を預ける。眠気に身を委ねるように目を閉じると、その夜は久しぶりに昔の夢を見た。
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