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唐揚げ弁当
街灯に照らされた夜道を、二人並んで歩く。隣では、弁当の入った袋をぶら下げた怜央が、どこか満足そうな顔をしていた。
「そういえば、凪くん家行くの初めてだわ」
「確かに」
一人暮らしを初めてからは、誰かを家に招くことなんてほとんどなかった。職場の同僚はもちろん、学生時代の友人ですら来たことはない。だから、怜央が初めての客になる。別に深い意味はない。ただ、気付けばそうなっていただけだ。
「まあそもそも高校卒業してから、こうして二人きりになるのも久しぶりか」
「うん」
それ以上、会話は続かなかった。沈黙が気まずいわけではない。
街灯の下を並んで歩きながら、ときおり車が通り過ぎていく音だけが夜の静けさを揺らしていた。そんなことを考えているうちに、見慣れたマンションが視界に入った。
「着いた」
足を止めると、怜央がマンションを見上げる。
「さすが俺のハニー。いい所、住んでんじゃん」
「うるさい」
呆れながらエントランスの自動ドアを抜け、エレベーターへ向かうと、怜央は物珍しそうに辺りを見回しながら、後ろをついてくる。
エレベーターは静かに七階で止まった。
「ここ」
部屋の前で鍵を取り出し、ドアを開ける。
「お邪魔しまーす」
遠慮という言葉を知らないように、怜央はするりと部屋へ入っていく。靴を脱ぎながら室内を見回すと「おお」と、小さく声を漏らした。
「思ったより広い」
「一人で住むには十分だから。あと、靴揃えろ」
「凪くんの前だとつい、ね」
「〝つい〟とかない」
苦笑いしながら靴を揃える怜央を横目に、部屋へ上がる。鍵を閉める音が、静かな室内に小さく響いた。
部屋へ入ると、怜央はテーブルの上へコンビニ袋を置き、まるで自分の家かのようにソファへとくつろいだ。
少しして、袋から弁当を取り出すと、テーブルへ並べ始める。初めて来たとは思えない手際の良さに思わず苦笑いが漏れた。
「しっかりお食べ」
「はい、どーも」
弁当を受け取り、隣へ腰を下ろす。
「いただきます」
「いただきまーす」
重なる声と同時に、静かな部屋に弁当の蓋を開ける音が響く。
唐揚げを一口、口に運んだ瞬間。
「唐揚げ弁当にして正解っしょ」
口元を少し緩めながら、得意げにこちらを見てくる。適当に選んだように見えて、こういうところだけは、なぜか外さない。
「美味いよ」
「うん、かわいいね」
相変わらず、返事になっていない。そんな怜央に呆れながら、もう一口唐揚げを頬張った。
一方的に喋る怜央を横に、凪は黙々と箸を進める。この光景も慣れたものだ。基本、怜央が黙れる時間はほんの数秒だった。
「で、本題なんだけど」
「今まで本題じゃなかったんだ」
「学園祭いつあんの? 俺行く」
「は?」
思わず間の抜けた声が漏れた。どうせ女子高生目当てだろう。教師としては、できれば来て欲しくない類の人間だった。
「捕まる」
「ちょっと待て! もしかしてだけど、俺が女子高生目当てで行くとか思ってる?」
「その通り」
即答すると、怜央は心外だと言わんばかりに肩を落とした。
「凪くん目当てかもよ」
「俺目当てなら学園祭に来る必要ない」
「……だめか」
あっさり諦めた怜央は、肩を竦めながら唐揚げを口へ放り込む。
(いや、こいつがあっさり引き下がるわけない)
嫌な予感だけが、静かな部屋に残った。
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