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予定外の三人②
結局、怜央は当然のように席へ腰を下ろした。
店員が水を一つ追加しても、本人は礼を言って笑うだけだ。まるで最初からここにいる予定だったかのような振る舞いに、凪は小さく息をつく。
昔から変わらない。遠慮という言葉を知らず、人との距離を詰めることにも一切躊躇がない。
そのくせ、不思議と嫌われないのが怜央だった。
「じゃあ改めて。西園怜央です」
人懐っこい笑みを浮かべながら差し出された手を、一之瀬も笑顔で握り返す。
「一之瀬斗真です。改めてよろしくお願いします」
二人はすぐに打ち解け始めた。その様子を眺めながら、凪は静かにグラスへ手を伸ばす。
(毎回、なんでこうなるんだ)
昔から、行く先々でなぜか怜央と鉢合わせることが多々あった。そして気づけば、こうして隣にいる。偶然なのか、運が悪いだけなのか。凪には、もう分からなかった。
「そういえば、お二人って幼なじみでしたっけ?」
一之瀬が興味深そうに二人を見比べる。
「幼なじみ……? そんな可愛いもんじゃないですよ。俺のハニーです」
満面の笑みで言い切る怜央に、一之瀬は吹き出しそうになるのを堪えていた。凪は静かに箸を置く。
「違います。〝ただの〟幼なじみです」
「すみません。うちのハニー照れ屋なもんで」
一之瀬は小さく笑い、凪へ視線を向けた。凪は何も返さず、静かに水へ口をつける。
訂正する気力も、もう残っていなかった。
話題は次々と移り変わり、食事も半分ほど進んだ頃だった。
「そういえば、凪くんってどんな先生?」
怜央が一之瀬へ視線を向ける。突然話を振られた一之瀬は、一瞬きょとんとした後、小さく笑った。
「大人気ですね。生徒からも教師からも」
「やっぱそうなの? 困るんだけど」
怜央はどこか不満そうに眉を下げる。
「何が」
「俺のって意味を込めてキスマークでもつけとく?」
凪は返事をすることなく、目の前の料理を一口運んだ。聞こえなかったことにするのが、一番平和だった。
「あ、無視された」
そんな様子を見た一之瀬は、苦笑いを浮かべる。
「……水瀬先生、愛されてますね」
「こいつに愛されてもね」
「じゃあ、誰に愛されたら満足すんの?」
「お前以外」
即答だった。
「むしろ特別で興奮する」
そう言うと、怜央は満足そうに笑った。
本当に意味が分からない。凪は呆れるように小さく息をつくと、黙ってグラスを口元へ運んだ。
そのやり取りを眺めていた一之瀬は、思わず肩を震わせて笑っていた。
気付けば皿の上の料理も残りわずかになり、三人の会話も自然と落ち着きを見せ始める。賑やかだった食卓は、食事の終わりを告げるように緩やかな空気へと変わっていった。
「そろそろ帰りましょうか」
一之瀬の一言に、凪は小さく頷く。三人はそれぞれのグラスの残りを飲み干し、席を立った。
伝票を手に取った凪は、そのままレジへ向かう。
「今日はご馳走する約束でしたから」
「ありがとうございます。ごちそうさまです」
一之瀬が素直に頭を下げる。
「え、俺は?」
当然のように後ろから聞こえてきた声に、凪は足を止めることなく歩き続けると、何も答えないままレジで会計を済ませた。
「あれ、俺の分も払ってくれた?」
店を出たところでレシートを覗き込んだ怜央が目を丸くする。
「契約失敗、おめでとう」
「慰めてくれてるってわけね」
凪は何も答えず、そのまま歩き出す。怜央は嬉しそうに笑うと、当然のように凪の隣へ並んだ。
一之瀬はそんな二人を見比べ、小さく笑みを零す。
駅までの道のりは、最後まで騒がしいままだった。
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