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第15話 任務以上のことをしてしまいそうになる【SIDE ギルバート・ルフトシュタット】
「ギルバート、長かったな」
風呂から上がると、エルマが俺を待っていた。
テーブルにはスープやサラダ、肉料理が並んでいる。エルマが作ってくれた。
やや冷めてしまったようで、長風呂したことを後悔した。
けど理由を言えるわけもなく「遅くなった」とだけ告げて席についた。
いただきます、と祈りを捧げて、ふたりで食べ始める。
「ギルバート、収穫はどうだった」
「上級司祭たちの会議を聞いた。……まあ、仲良くはなさそうだったな」
議題とそれぞれの立ち位置をざっと説明した。
「へえ、平民にも図書館を、か。実現すればいいな」
「いいな、というより、するべきじゃないか。エルマだって使えるんだ」
「そりゃそうだけど……。正直、ベルトラム司祭の言い分もわからんでもないんだ。平民の民度がよくないのは、俺もよくわかってるから」
自嘲気味に眉を下げるエルマを見て、胸がずきりと痛くなった。
「……全員じゃない。それをいうなら、貴族だってダメな人間はいる」
「そう、だよな。……うん」
「セオドア司祭の案が現実的な気がするんだが、どこまで譲歩できるかだな」
「ま、どちらにせよ。俺たちが口出せるもんじゃないだろ」
ふと、自分が熱くなっていたことに気づいて口を閉じた。
平民を馬鹿にされたのが、エルマを傷つけられたようでつい熱くなってしまった。
たしかに、ここで議論しても仕方ないことだ。
「で、セオドア司祭はアインホルン司祭が怪しいと」
エルマが確認するように繰り返した。
俺は小さく頷く。
「俺も今日は雑用しててさ。人事関連の書類を見てたんだけど。やっぱり、俺もあのひとは何かあると思う」
エルマが今日仕入れた情報を教えてくれた。それぞれの上級司祭の来歴など。
……たしかに、アインホルン司祭の出世は、群を抜いて怪しい。
「アインホルン司祭の魔力量が分かればな」
「記載はなかったのか」
「なかった。健康診断で調べるところはあるけど。ここはどうだろう。別に義務じゃないからなぁ」
俺たちは騎士団の健康診断で調べるが、一般的な仕事では調べない。
トラオム聖教会はどうだろうか。
いくつか情報交換をして、アインホルン司祭の周辺を主に調べることにした。
「ギルバート、あの……」
寝支度を終えたところ、エルマが話しかけてきた。
俺は心臓が跳ねそうになるのを必死で隠す。
エルマから話しかけてくれることはあんまりない。あったとして、怒りながらの文句だから、こうしてしおらしく視線を下げているのは珍しい。
「どうした」
「……”緊急避難の魔素供給”なんだけど」
「ああ」
キスのことか、と言いそうになって口を閉じる。
エルマは俺と”キス”するのが嫌なんだろう。
エルマとキスできるんなら俺はどんな呼び方でもかまわないが。
「今日は、ちょっと、多めにしてほしくて」
やや顔を赤らめて呟く姿は、劣情を誘った。
エルマは伏せがちだった瞳を上げて上目遣いをする。目は潤んでいる。
……胸の鼓動が、勢いよく弾ける。
ああ、と掠れた声で返す。
必死に感情を抑えながら。
だって、こんな、ただの医療行為で興奮してると知られたら、引かれるどころじゃない。
緩みそうになる口元に力を込めて、エルマの手を引く。顎を上げて、口づけた。
舌を絡ませて、交わるように。
粘性の水音が薄暗い部屋に響く。
エルマのうわずる声がかすかに漏れて、手に力が入る。
魔素を与える以上のことを、してしまいそうになる。
身体が軋むくらい抱きしめたくなる衝動とか。
いますぐ押し倒してすべてを暴きたくなる欲望とか。
全部押し込んで、ただ、舌先に意識を集中させていた。
もし今、俺が欲望に負けたら。
二度とエルマに触れさせてもらえなくなるかもしれない。
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