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第16話 医師の慧眼

「こんにちはー。あの、クヴァールさん、いますか?」 昼休み、俺は三階の医務室へ向かった。 表向きは飴のお礼を渡しに。 裏の目的は、健康診断で魔力量調査をしているかの確認に。 はーい、と明るい声が奥から聞こえて、足を進めた。 クヴァールは小さな椅子に腰掛けて書類を整理していた。前と変わらず白衣を着ている。 「あ、きみはこの前の! 体調は大丈夫?」 「おかげさまで。あの、これ、飴のお礼です」 おずおずと差し出す。用意したのは市販のクッキー。先輩たちに聞いて、トラオムのオススメのお菓子を聞いたのだ。 「えー! ありがとう! こんな立派なのもらっちゃって。わざわざ、いいのに」 「いえ、魔素供給の飴は高価ですし……申し訳なくて」 「じゃあ一緒に食べよう。お昼はこれから?」 クヴァールは俺に椅子を勧める。 そこまで居座るつもりはなかったけれど、せっかくなのでご一緒することにした。 中庭で食べようと思っていたサンドイッチを開く。クヴァールもカバンからお昼ご飯を取り出した。 机の上は、書類でごちゃごちゃしていた。 アイボリーのカーテンの奥にはいくつかベッドもあるだろう。 騎士団にも医務室はあるが、ここは手狭な印象だ。 「きみは新人?」 「あ、はい。エルマ・クラインです。このたび新しく修道士になりまして」 「そっか、大変だね。新人はしごきも多いから」 あはは、と乾いた笑いを返すしかできなかった。思い当たる節しかない。 「じゃあストレスかな。環境が変わると魔素も不安定になるから」 「……そうかも、しれないです」 クヴァールはやや砕けた言い方になっていた。おかげで肩の力が抜ける。 トラオムのひとはみんな圧が強いから、こうして気軽に接してくれるのはありがたい。 「ここって、魔力量の検査ってするんですか?」 俺は本題を切り出した。 クヴァールは目を丸くする。 「一応、健康診断の必須項目に入ってるよ」 「そうなんですね」 「気になる? 今からでも調べてあげよっか」 「あ、いえいえ、別に。ただ、あるのかな~って思っただけで」 手をぶんぶんと振る。もし今調べられたらちょっとめんどくさい。 クヴァールは「わかった」とだけ言って笑った。 「ここは魔法使う人が多いからね。司祭の方々とか、魔法技術士の方々とか。分けるのがめんどくさくて一昨年から必須項目にしたんだ」 「そうなんですか」 「まあ、僕たちみたいな一般人は調べてもあんま意味ないよね。僕も調べてみたけどさ。平均より低かったよ」 からからとクヴァールは笑う。 そうこう話していると、休憩時間はもうすぐ終わりそうになった。 「また一緒に食べよう、エルマ」 「あ、はい、ぜひ」 「……社交辞令じゃないよ。エルマと話してて楽しかったし、それに」 クヴァールは俺の目をしっかりと見て続けた。 「まだ魔素が安定してないよね。こうして話すだけでもストレス発散になるから。治療行為だと思ってよ」 思わず息を呑んだ。 ……やはり、医者だ。俺の魔素がほとんどないことを見抜いてる。 「……じゃあ、また、来ます」 俺は愛想笑いを浮かべて、医務室を後にした。 修道士用の詰め所までの長い廊下を歩きながら考える。 クヴァールを頼れば、この魔素不足の原因も分かるかもしれないのか。 昨日、俺が体調を崩したのは、ギルバートからもらった魔素の量が少なかったからだろう。 いつまでもギルバートに頼りっきりじゃダメだ。迷惑かけてはいけない。 ……というのは、頭では理解しているけど。 もうキスすることもなくなるのかと思うと、ちょっと胸がざわついた。 ちくりとした痛みを振り切るように、ぶんぶんと頭を振る。 いざって時に魔法が使えないほうが困る。早く治さなければ。 俺は強く拳を握り締めた。

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