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第24話 きみには年上があってるよ

無理やりキスされて、今朝はギルバートとちょっとギクシャクしてしまった。 「昨日はすまなかった」とぼそぼそ呟かれて、「気にしてない」とは言ったけど。 あんなに乱暴で機嫌が悪いギルバートは初めてだった。 やっぱり俺が任務より余暇を優先してたってのが嫌だったのかな。 ……まあ、確かに。ギルバートはいつも俺より遅く帰ってくるし。同じ部屋で相方が遊んでたら、そりゃあ、腹立つよな。 (……ギルバートの負担をちょっとでも無くさないと) 「クヴァールさん。小説、ありがとうございました」 翌日、俺はまた医務室に来ていた。 借りたばかりの小説を手渡すと、クヴァールは「読むの早いね」と驚いていた。 「読みやすくって。一瞬でした」 「そっか、よかった。初の恋愛小説はどうだった?」 「自分でもびっくりするくらい泣きましたよ」 あはは、と笑いながら言うと、クヴァールは目を丸くしていた。「泣いたの?」と聞かれ、若干恥ずかしくなる。 ギルバートにも驚かれたから、やっぱり俺のキャラじゃないんだろうな、恋愛小説って。 「……なんとなく、自分と重なるところもあって」 それだけ言うと、クヴァールはじっと俺を見つめていた。 あれ。もっと笑われるかと思ったのに。 微妙な沈黙が生まれると、クヴァールは「どんなとこが?」と聞いてきた。 「あー……なんだろ。身分差の恋、みたいなのが、なんか。ほら、俺、平民だから」 改めて言葉にすると、ギルバートへの気持ちが浮き彫りになったようで恥ずかしくなった。 そうなんだ、とクヴァールは眉を下げて笑った。 「僕は、恋愛に身分差は関係ないと思うけど」 「うーん、でも。叶えられないなら諦めるしかないじゃないですか」 「そっか」 クヴァールがぽつんと呟く。心なしか落ち込んでいるように見えた。 もしかしてクヴァールはいま、身分差のある恋をしているのだろうか。なんだか悪いことを言ってしまった気がする。 「別に、この国にこだわらなくてもいいんじゃない?」 クヴァールが言った言葉がうまく飲み込めず、「え?」と首を傾げる。 「平民とか貴族とかって、この国の制度なだけじゃん。例えば隣の国……ヴァルトラ共和国では、身分制は廃止されてる」 「へえ、そうなんですね」 「僕は若い頃ヴァルトラに留学したことあるけど、すごくいい国だよ。みんな先進的で差別なんかない。エルマもきっと気に入るよ」 「そうですか」と気の抜けた返事をするも、クヴァールの瞳はなんだか熱がこもっていた。 「エルマはこの国の平民で終わるような人間じゃないよ」 「いや、そんな。俺なんか」 「”なんか”っていうの、禁止。きみは立派だ」 クヴァールはきっぱりとした口調で遮る。 「……きみみたいな子には、年上で、優しい、包容力があるタイプが合ってると思うよ」 柔らかい微笑みを向けられて、なんだか心がむず痒くなった。 俺は「そうですかね」と愛想笑いを浮かべた。 なんともいえない沈黙が落ちる。 クヴァールは優しい瞳で俺を見つめるだけだった。 「あ、そうだ。セオドア司祭から書類を持ってこいって言われてたんです」 気まずい空気を破るように、俺はぱっと明るい声を出した。 クヴァールは「なに?」と優しく首を傾げる。 「司祭たちの健康診断の書類です。結果が出た頃だろうって言われて」 「あー、なるほど。これ。ちょうど持ってこうと思ってたんだ」 クヴァールは乱雑な机から書類の束を手渡した。俺はお礼を言って、ざっと確認する。 七月にトラオム聖教会で行われた健康診断の結果だ。各司祭の最新の魔力量が記載されている。 よし、と気づかれないようにガッツポーズすると、机から一枚の紙がぱらりと落ちた。 「……死亡報告書?」 咄嗟に拾い上げると、予期していなかった単語に驚いてしまった。 「ごめん、ありがとう」 クヴァールがさっと俺の手からその紙を奪い取る。チラリと見えた表情は、一瞬、強ばっていた気がした。 俺は「いえ」とだけ返した。 「どなたか亡くなったのですか?」 「ああ、七月に観光客の子が」 「……それは、ご愁傷さま、ですね」 「そうだね」とクヴァールは視線を下げる。 眉根を寄せて、心を痛めているようだった。 ……今、この場で詳しく聞くと、怪しまれるかもしれない。 「書類、ありがとうございました。また来ますね」 クヴァールはぱっと顔を明るくして、「うん」と答えた。

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