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第25話 新たなピース
クヴァールにもらった書類を手に、長い廊下を歩いていた。
(具体的な魔力量が分かれば、どうやって”白の間”を開けたのかの手がかりになる)
柱の陰に隠れて、ざっと上級司祭の分だけでも先に目を通した。
(セオドア司祭、650ルナ。ベルトラム司祭、560ルナ)
そして紙をめくって、息を呑んだ。
(……アインホルン司祭、1020ルナ)
文字通り、桁が違う。
平均的な人間の魔力量が60~70ルナ。魔術師でも200~300ルナ。
500ルナ以上ある人間は全体の1パーセントにも満たない、のに。
ごくりと唾を飲み込む。
2000ルナ必要な”白の間”を開けることは、さすがにひとりでは不可能だ。
だが、”魔力が高い存在”を呼び起こせば、必要な魔力量に足りる量。
1020ルナあるアインホルン司祭が操れる死体の数は、おそらくかなり、多い。
2000ルナそろえるのは難しくないだろう。
(そして、クヴァールさんが持っていた”死亡報告書”……)
ちらりと目にしたところ、死亡した日付は七月三日だった。
盗難が発覚したのが七月六日。フレッシュな死体という意味ではタイミングがいい。
繋がっていく事実の線に、心臓が早鐘を打った。
「あれ? きみ、こんなところで何をしてるんです?」
突然背後から声をかけられて、ヒュッと息を呑んだ。
振り返ると、アインホルン司祭が立っていた。
「あ、いえ……」
「迷子ですか? 教会は広いですからね」
「だ、大丈夫です」
アインホルン司祭は読めない表情で佇んでいた。
その後ろには、顔を強ばらせたギルバートが立っている。今日はアインホルン司祭の護衛なのか。
声をかけられるとは思わなかった。全身に冷や汗が伝う。
書類を握り締めると紙がぐしゃりと潰れた。
その書類に目を向けて、アインホルン司祭は「お仕事中でしたか」と微笑む。
……いや。これは、もしかすると、チャンスかもしれない。
「ええ。最近、トラオムの魔素が安定してないんじゃないかって懸念が上がってきまして」
俺は表面上の笑顔を取り繕って話しかけた。
「あら、そうなんですか。こっちには報告が来てないですけど」
「そんなに大事じゃないと思うんですけどね。それでみなさまの魔素は安定しているかと、チェックするように申しつけられまして」
「まあ、お疲れ様ですね」
アインホルン司祭がころころと笑いながら俺をねぎらう。
俺は、気づかれないように、そっと息を吸う。
表情は変えないように、意識して。
「"ロゼッタ・ヴァン・エクスナー"さんをご存じでしょうか?」
途端に、アインホルン司祭の表情が、すっと消えた。
「……なぜ?」
「七月に亡くなった観光客です。死因に若干の疑問が残るようで。追加の捜査をするように申しつけられたのです」
「…………そうですか」
心臓がバクバクとうるさい。恐怖で頭が真っ白になりそうだった。
今言っているのは、全部はったりだ。
アインホルン司祭の反応を見たかっただけ。
ロゼッタ・ヴァン・エクスナーというのは、さきほど見た死亡報告書に記載があった名前だ。
死因は心臓発作。トラオム中央広場で倒れたらしい。
もし、アインホルン司祭が彼女の死体を利用して”白の間”を開けたなら、何かしら表情を変えるかもしれない。
……咄嗟の思いつきだったが、ビンゴだ。
「ロゼッタの死因、ね」
アインホルン司祭は笑顔がすべて消えて、感情が読み取れなくなった。
藍色の瞳はがらんとしている。空虚で、何も映していない。背筋がゾッと凍った。
「……彼女は天才でしたからね。神に魅入られてしまったのかもしれない」
小さな声だった。
「え」と聞き返そうとすると、途端にアインホルン司祭はわざとらしい笑顔を向けた。
「詳しいことは何も。すみません、お力になれなくて」
「あ、いえ」
「僕は予定が詰まっているので。失礼します」
アインホルン司祭は白いカソックを翻して、早足に去っていった。
ちらりと背後のギルバートと視線を合わせる。
小さく頷かれて、俺はほっと胸をなで下ろす。
”ロゼッタ・ヴァン・エクスナー”について調べるように、という意図がうまく伝わったようだ。
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