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第27話 そのひとが好きなんだね

「アリュール教育学会? なんでまた」 医務室でいつものように昼食をとり、クヴァールに尋ねてみた。 彼はきょとんとした顔で首を傾げる。 「色々考えてみたんですけど。やっぱり、平民の俺ができるのって、勉強しかない気がして」 捜査のためとは言えないから、うまく誤魔化す。 「それで調べてたら、クヴァールさんが講師をしていた記事を見つけて」 「あー。なるほどね。ちょっと恥ずかしいかも」 「そんな。かっこよかったですよ。みんなの前で講師をするなんて」 あはは、とクヴァールは照れたように頬をかいた。 「そうだね。何回かやってるよ。僕は医者だし……ヴァルトラ共和国への留学経験とかも話したかな」 「へえ、すごいです」 「興味ある? よかったら、エルマも紹介してあげるけど」 思いも寄らない申し出に、「いいんですか!?」と顔を輝かせてしまった。 クヴァールの推薦があれば関係者に話を聞けるかもしれない。 一気に捜査が楽になる。俺は彼の手をとってお礼を言った。 「メンバーに言っておくね」 「ありがとうございます! 嬉しいです」 「よかった。あ、じゃあ………」 クヴァールはごちゃごちゃした机の上から一枚のはがきを取り出した。 大分下に埋もれていたようだが、まあまあ新しい。 「今度、アリュール教育学会の会員がパーティーを開くんだって」 「パーティー……」 「エルマも来る? 会員じゃなくても入れるオープンな会だから」 はがきを見せてもらうと、日付は九月二十日、今週末だった。結構すぐだな。 これは色々調べるチャンスだ。 「行きたいです、ぜひ」 熱心な瞳で見つめると、クヴァールははにかんだ。 「よかった。じゃあ主催者に伝えるね」 「ありがとうございます!」 「そうだ。パーティーって正装だけど大丈夫? あと、基本的には貴族が多いから、社交ダンスとかもあるけど」 俺は「あー」と言葉を濁す。どうしようかな。 俺のことを普通の平民と思ってるなら、ここは知らないテイでいたほうがいいんだろうけど。多分パーティーでバレるからな。 「昔、貴族のひととちょっとした付き合いがあって」 「……え」 「そこで一通りのマナーは覚えたので、多分大丈夫です」 昔って言っても、すっごい小さい頃だが。 ルフトシュタット家で開かれるパーティーに何回か招待された。 マナーやダンスはそれなりに身に付けている。王都の貴族ほど洗練されてはいないだろうけど。 クヴァールは目線を下げて、指先で無意識に紙をいじる。先ほどまでの覇気はなく、なぜか気落ちしているようだった。「そうなんだ」と呟く声は、さっきよりもずっと小さかった。 「お気遣いいただきありがとうございます」 「その貴族とは、いまは、どう、なの」 俺はその「どう」の意味があまり掴めず、首を傾げた。クヴァールは唇をきゅっと結んだ後に、掠れた声で続けた。 「付き合いはあるの」 「あ………まあ、それなりに」 「どんなひと」 え、と唇を引きつらせた。 どんなひとって……。ギルバートのことだよな。 俺は一生懸命言葉を探して口を開いた。 「めんどくさいヤツですよ。細かいし、うっさいし。まあ、俺が雑ってのもあるんですけど」 「へえ」 ーーーでも、と俺は区切った。 俺にとってのギルバートって、どんなヤツかって。 考えたら、きっと、一番に当てはまるのは。 「……憧れ、ですかね」 そう呟いて、ハッとする。 なんか、めちゃくちゃ恥ずかしいことを言った気がする。顔が燃えるように熱くなった。ついポロッと零れた言葉が、これだ。 「あっ! すみません、気にしないでください! まあ、変なヤツです」 「……そう、なんだ」 クヴァールは眉を下げて笑った。 「エルマは、その人が好きなんだね」 その言葉が、心臓に突き刺さった。 好きだなんて、そんな言葉で片付けられない。 好きで、ムカついて、申し訳なくて、そばにいたくて、そばにいたくなくて。 けれど、そんなこと、うまく説明できないから。 「……昔の話ですよ」 どうせ過去の話だ。諦めなければならない恋だ。 俺たちの間にあった、くだらない遊びやもどかしいキスや、込み上げてくる衝動や。 忘れられない、事故だって。 ぜんぶ”昔”のひとことに押し込めて、俺は愛想笑いを浮かべた。

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