33 / 65

第33話 ロゼッタを知るひと

後日。 俺たちはグレース・ハートフィールドが住む家を訪れた。ロアシー邸ほどではないが、ここもまあまあ立派な家だ。 「いらっしゃい。わざわざお越しいただいて、ありがとうございます」 グレースが迎え、豪華な客間に通される。 ふかふかのソファと大理石のローテーブル。置物と絵画が目を引いた。 芸術一家なのだろうか。扱っている家具も、細かな装飾が施されていてセンスがいい。 菓子折を手渡して改めて謝罪をすると、グレースはころころと笑いながら受け取った。 「そんなに気にしなくていいのに。まさか、本当に来るとは思いませんでしたわ」 「いえ、俺たちの気が休まりませんから。ぜひ皆様でお召し上がりください」 「ふふ、”俺たち”ね」 グレースが意味深に笑った。少し引っかかる。 愛想笑いの下で訝しんでいると、グレースは俺たちをソファに案内した。 「ギルバートさんはパーティーでお話ししましたわね。あなたは?」 「ご挨拶が遅くなってしまいすみません。俺はエルマ・クラインといいまして、トラオム聖教会の修道士です」 「あら、そうなんですか。聖騎士さまと修道士さまなんですね」 執事が紅茶を用意した。いい香りが漂ってくる。クッキーなどのお菓子も出されて、謝罪に来たのにこちらがもてなされているみたいだった。 「それで、本当のところは、どういったご用件で?」 グレースが笑みを浮かべる。 背筋に冷や汗が一筋垂れた。 何か、怪しまれることをしてしまっただろうか。 乾いた唇を動かそうとすると、ギルバートが代わりに会話を紡いだ。 「グレース嬢。俺たちはロゼッタ・ヴァン・エクスナーさんの死について調査しています」 グレースの眉が、ぴくりと動く。 そして、ゆっくりと目を伏せて「そうですか」と呟いた。 「わかりました。私にお話しできることであればなんでもお聞きくださいませ」 「ありがとうございます」 ええ、とグレースが相槌を打つ。 視線はここではない、どこか遠くを見つめていた。 「……やっぱり。ロゼッタは、病死じゃなかったのね」 ぽつりと零された言葉は、軽いようで、重かった。 ギルバートに促され、グレースはゆっくりと、噛み締めるように、ロゼッタの話を始めた。 グレース・ハートフィールドとロゼッタ・ヴァン・エクスナーは、エラドールという辺境に生まれた令嬢だった。 同じ学校へ行き、同じ公園で遊び、家族ぐるみで旅行にも行った。 活発でみんなを引っ張るロゼッタと、引っ込み思案で大人しいグレース。 ふたりは姉妹のように仲良く育った。 転機が訪れたのは、十五歳の頃。ふたりは異なる学校へ進んだ。 グレースは優秀な成績を認められ、トラオムで神学について学ぶことに。 ロゼッタはずば抜けて高い魔力が認められ、王都で魔法学を学ぶことに。 距離が離れてもふたりは仲が良かった。 手紙を送り合って、年に一回はアリュール教育学会の活動で顔を合わせていた。 今年の七月、ロゼッタはトラオムを訪れた。 到着したその日に、心臓発作で亡くなった。 グレースが対面したのは、すでに冷たくなったロゼッタだった。 「今でも、信じられないんです。だって、すごく美しい顔で眠ってたんですよ」 グレースはぽつりと零した。 もう泣き疲れたのか、現実が重すぎたのか。その表情は、疲れ切っていた。 「確かに、ロゼッタは身体が弱いところもあった。けど、亡くなるような病気はもってなかった。それなのに……」 グレースは手を強く握り締める。小刻みに震えて、耐えている。俺は重い空気に唇を噛んだ。 ロゼッタは七月三日にトラオム中央広場で倒れて、亡くなった。 新聞記事で読んだその文字の羅列が、いま、現実の出来事として身に染みる。 しんとした空気の中、ギルバートが尋ねた。 「ロゼッタがトラオムに来たのは、どういった理由で」 「詳しい理由は聞いてません。あの子……フットワークが軽いところがあって。ふらっと旅行に行くこともよくあるのです」 「そうですか」 「………あ、でも」 グレースはぱっと顔を上げた。 「アインホルン司祭に会いにきたんだと思います」 俺たちは息を呑んだ。 ここで彼と繋がるのか。震える手を強く握り締めながら、グレースの続きを待った。

ともだちにシェアしよう!