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第48話 真相 

ーーロゼッタの遺体には”痕跡”が残っていない それが意図することは、よくわからなかった。 ただ、他の遺体には残っている”痕跡”がロゼッタにはないというのは、特筆すべきことだ。 アインホルン司祭の”ご実家の能力”でしか見分けることができないのだろう。 ネクロマンシーの技術か。 ……いや、そもそも 《《アインホルン司祭は》》、《《本当にネクロマンサーなのか?》》 だって、墓を掘り起こしても、遺体には優しい手つきで触れている。 ロゼッタの遺体を操ったというのはどうしても想像できなかった。 じゃあ、一体、誰が、どうやってーーーーー 長らく縋り付いていた推理が、ガラガラと音を立てて、崩れていく感覚がする。 冷たい土の底で背筋が凍った。 唇を噛んで、ロゼッタの遺体に目を向ける。 ロゼッタは聖体盗難とは関係ないのか? だとしたら、本当に偶然……? 頭の中がぐちゃぐちゃに混ざって、動かない。 もしロゼッタの死が聖体盗難と関係なかったら、貴重な時間を浪費してしまったことになる。 俺がネクロマンサーとか言ったから。……俺が、間違えたから。 呼吸が浅くなり、うまく息ができない。 必死に呼吸を整える。じっと黙り込んでいると、アインホルン司祭は「エルマくん?」と声をかけた。 「え、あ……す、すみません。驚いてしまって」 「まあ、そうですよね。遺体を掘り起こす経験なんてないでしょうし」 「はい……」 「驚かせてしまってすみません。捜査のご協力ができたら幸いです」 アインホルン司祭はにこりと笑って、棺の蓋を元に戻した。石の音が重く響いて、ロゼッタは見えなくなった。 手を引かれて、穴から出る。 ほんの数分、短い間だったのに、黄泉の国に行ったかのような感覚だった。 アインホルン司祭はまた魔法を使って墓を元に戻した。 ”夜な夜な墓地を掘り起こしている”という噂が立ってもおかしくはないし、むしろ事実だ。 でも、それは”ロゼッタに会いたいから”という、悲しい理由だった。 アインホルン司祭の嗚咽に混じった声が、まだ脳裏に焼き付いている。俺たちが勝手に抱いていた印象から、怪しいと怖がってしまっただけで。 うつむきながらぐっと唇を噛んでいると、アインホルン司祭が声をかけてきた。 「エルマくん、僕からも一つ気になってることがあるのですが」 「え、は、はい。なんでしょう」 「きみ………」 じっと藍色の瞳を向けられる。深く沈んだ底なし沼のような瞳だ。 不思議と引きずり込まれるような感覚になった。背筋が粟立つ。 「きみ、何か。”混ざって”いますが、どうかされましたか」 アインホルン司祭は意味深な言葉を投げかけたものの、「まあ気のせいですかね」とそのまま流してしまった。色々と情報が多くて処理しきれない。 「帰りましょうか」と言われるまで、俺は呆然とその場で立ち尽くしていた。 拠点に戻り、ギルバートに伝える。 ロゼッタの件、アインホルン司祭の件。 「……アインホルン司祭はネクロマンサーじゃないと思う」 そう告げるとき、俺はぎゅっと手を握っていた。 俺の的外れな推理のせいで、こんなにも時間を無駄にした。申し訳なさと焦燥感で心が押しつぶされそうだった。 ごめん、と呟くと、ギルバートは「謝るな」と短く返してきた。 「ひとつの可能性が消えただけでも成果だろ。ネクロマンサーが怪しいという推理を後押ししたのは俺だ。それに、有益な情報がたくさん手に入ったじゃないか」 顔を上げると、ギルバートは優しく微笑んでいた。 俺は喉の奥が詰まって、声が出なかった。 その暖かい瞳に涙が滲んでしまう。 「まだ時間はある。一緒に考えよう」 そっと手を握られて、小さく頷いた。 「アインホルン司祭の言っていた”痕跡”について考えていたのだが」 ギルバートがぽつりと呟く。 「その”痕跡”とは、”魔素”を指すんじゃないだろうか」 「……魔素」 「通常、遺体には魔素が残り、十年かけて土に還る。アインホルン司祭は、通常の葬儀では”痕跡”があると感じていた。遺体に魔素が残っているから。けれどロゼッタの遺体にはない。……誰かが魔素を奪った、から」 あ、と小さく呟いた。 確かに、魔素だけでも奪えれば、”白の間”を破ったトリックは使える。 「”ロゼッタの痕跡が教会中にある”。”ベルトラム司祭の扉に向かって感じるものがある”。犯人がロゼッタの魔素を使って鍵を開けたのなら、矛盾はない」 「そうだな。それに……」 ーーーきみ、何か。”混ざって”いますが、どうかされましたか 昨日、俺は魔素入りのドリンクを飲んだ。 それまでギルバートから魔素を補給していた俺に、別の魔素が混ざったと感じた。 それで、そう尋ねたのだとしたら。 「アインホルン司祭には”魔素”を感じ取る能力がある」 目の前がパッと明るくなった気がした。 完全に無駄な時間を過ごしてしまったと、後悔と自己嫌悪に溺れそうだったのだが。 真相は思ったより近いところにあったのかもしれない。 では、どうやってロゼッタの遺体から魔素を奪ったのか。 その話に行く前にギルバートが一枚の紙を俺に見せた。 「騎士団本部から手紙が届いた」 「手紙? なんの」 「トラオムに到着してすぐ、エルマの状況を伝えて増援を頼んだ。そしたら、こちらに向かっているとあった。軍医と魔法技術者だ。十月六日ごろ到着らしい」 「よかったな。あと一週間くらいだ」 ほっと胸を下ろす。味方が増えるのは助かる。それに、医師がいるのは安心だ。 魔術師なのに魔法が使えないという、もどかしい状況をなんとかできるんだから。 「もう少しで事件も解決するかもな」 明るい顔で笑いかけると、ギルバートは「ああ」と短く答えた。 けれど、どこか影の残る瞳だった。 どうしたと聞き返すと、ギルバートはわずかに口角を上げて、なんでもない、と首を振る。 紅茶を一口飲む。温かい液体が身体を通る。 ……あ、そっか。 もう、俺たちふたりの任務じゃなくなるのか。 俺たちふたりだけでこうして話している時間も、もうすぐ終わるのか。 任務が終わったら、きっと。 俺たちはこうして顔を合わせることはなくなる。 騎士と魔術師。貴族と平民。 俺たちの間には厚い身分差があるのだから。 ギルバートと肩を並べて歩けるのは今だけなのだ。

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