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第49話 手掛かり
洗面所で、顔を洗いながらぼーっと考えていた。
ロゼッタの遺体から魔素を奪い取る方法。
いつ、誰が、どうやって。
これが分かれば一気に事件が解決しそうだけれど。
ロゼッタはお昼頃トラオムに到着し、観光して、十三時過ぎに亡くなっている。
十六時にアインホルン司祭がロゼッタの遺体と対面したときには、”痕跡”はなかった。
犯人は七月三日の十六時までにロゼッタから魔素を奪った。亡くなる前なのか、後なのか。
「………もしかして」
俺の声は流れる水にかき消された。
「エルマ! どうしたの? 今日もまた何か捜査かな」
翌日の昼休み、俺は医務室を訪れた。例のごとく昼食のサンドイッチを持参して。
クヴァールは嬉しそうに俺を迎え入れた。椅子に座り、並んで昼食をとる。
「体調はどう? ちょっと疲れてるかな」
「うーん。そうですね、まあ、大丈夫です」
適当な雑談を重ねていく。
午前中はあまり患者が来なかったのか、比較的いつもより机が片付いていた。
「そういえば、魔素入りのドリンク、ありがとうございました」
「あ、よかった。どうだった?」
「そうですね。味はちょっと……」
「あんまり美味しくないよね」
クヴァールは苦笑いをする。
アレは見た目にも味にも抵抗感が強かった。薬としてならギリギリ飲める範囲。
だけど、ここは興味を持っている体裁のほうがいいだろう。
「でも、おかげさまで任務に集中できました」
「……そうなんだ! よかった。やっぱり、薬で解決できるといいよねぇ」
「ええ。それで、もう少しもらえないかなって思いまして」
「いいよ。あげるあげる。とりあえず一週間分くらいでいい?」
「ありがとうございます」
クヴァールは奥の箱から例の小瓶をわらわらと取り出す。七本。ものものしい見た目にちょっと引いてしまう。
「これってすごい技術ですよね。魔素をドリンクにいれるって」
「すごいよね。ヴァルトラ共和国の技術者が魔素を圧縮する技術を開発したんだって」
「魔素って圧縮すると液体になるんですか?」
「そうそう。まだこっちではあんまり知られてないんだけど。アリュール教育学会のひとたちに紹介したら驚いてたよ。いずれこの技術も広がってくかもね」
「そしたら魔素不足で悩んでる人たちが救われますね」
にっこりと微笑みかける。
この国は基本的に魔法に頼った技術革新をしてきたためか、”魔素”という、魔法を構成する物質そのものに対する理解は乏しい。魔術師は多いけど、”魔素”を研究する人間は希少だ。
ロゼッタから”魔素”を抜き取る方法を調べるには、この魔素入りのドリンクの技術は参考になる。
「大っきい機械なんですか?」
「うん、まあまあ。ひとつの機械でやるんじゃなくて、いろんなのを組み合わせるから、結果的に大きくなる」
「……あんまり想像つかないな。どんな形なんだろ」
漠然としたイメージしか浮かばない。俺は機械には疎かった。ぽつりとした呟きに、クヴァールは顔をほころばせる。
「じゃあ、今度うちに来なよ。見せてあげる」
「いいんですか?」
「うん! そうだ。ケーキを食べさせてあげるっていう約束もまだだったよね」
「ありがとうございます!」
前のめりでお礼を言うと、クヴァールは照れたようにはにかむ。
向こうから提案してくれるとはラッキーだな。
それから日程をすり合わせて、明後日に訪れることにした。
「これって何かの捜査?」
「いえ。単純な俺の興味ですよ。理解できるか分からないけど……そういう、機械みたいなの、昔から興味あって」
この国では、貴族は学校で技術の授業があるけど平民にはない。興味はあったけど触れる機会はほとんどなかった。
知らないことを知れるのは、単純に楽しみでもあった。
「楽しみにしてますね」
微笑みかけると、クヴァールは顔を赤らめて頷いた。
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