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第63話 任務じゃないキス
それぞれの明日からの行動を確認する。
ダリウスとカイルはクヴァール研究所に潜入、俺とギルバートはトラオム聖教会でアインホルン司祭に会う。
ある程度話がまとまって、解散というころ。
俺はハッとした。
もしかして、これから四人で同じ部屋に滞在することになるのか……?
若干、いや、かなり、嫌だな~、とは思った。
けど、任務だし。ギルバートと二人がいいとか言えないよな、と口をつぐむ。
「じゃ、うちらは部屋に戻るんで」
「え?」
「聞いてへん? 隣の部屋がうちらの拠点だから」
ダリウスが右隣を指して軽く告げる。
「だから、ま。あとはお熱いふたりで、どうぞ」
「うるさくしないでくださいね。ここ、壁薄そうだし」
カイルが顔をしかめながら言う。
俺は羞恥で頬が赤くなった。
そうだ、今朝、キスシーンを見られたのだ。しかも俺もノリノリだったヤツ。
「カイル、念のため防音の魔法かけてくれへん? 一晩中うっさいかもしれへんし」
「りょーかいッス」
「やりませんよっ! こんな非常時にっ!」
わいわいといじってくる二人を追い出して、俺はため息を吐いた。
うるさい二人がいなくなると、急に静かになる。振り返ると、ギルバートは椅子に座ってじっと俺を見つめていた。
「……やんないのか」
「…………やりたいのかよ」
「まあ、やりたくないと言えば嘘になるが。任務中だし、隣に仲間がいるしな」
ちらりと隣の部屋に目を向けて、ギルバートはぼそっと呟く。その横顔は少し残念そうだった。
……まあ、俺もちょっと残念だけど。
無駄にうるさいふたりがいなくなったからか、静寂が浮き彫りになる。そわそわした緊張が走った。
でも、せっかくふたりきりだから。
俺は自分のベッドに腰掛け、隣をぽんぽんと叩いた。
「ん」
「ん?」
「魔素供給、してよ。キスでいいからさ」
ギルバートは「え」と顔を赤くして固まった。
そして、おずおずとした様子で俺のベッドに近づき、隣に腰掛ける。俺の頬に手を添えて、顔を傾けた。
唇に柔らかいものが触れる。ついばむようなキスが落とされた。温かい舌がぬるりと入ってくる。
ふたりっきり。
昨日、エッチなことをして、思いを伝え合ったばかりなのだ。
何度かしているキスも、なんだか緊張してしまって。無意識にギルバートの服を掴んでいた。
唇が離れる。照れちゃう。どうしよう。
改めてどんな顔をすればいいかは、ちょっとわからない。甘えたら甘えたで、俺のキャラじゃないって思われそうだし。
ギルバートは顔を赤くしていた。
瞳は揺れて、どうしたらいいか手をこまねいているみたいで。その顔に、ふふっと笑ってしまった。
ギルバートも一緒なんだ。長年の幼なじみから距離感が変わったことに、困惑してるのが伝わってくる。
「なんか、慣れないよな。こういう空気」
「……ああ。実感が湧かない。その……まだ夢なんじゃないかって気がしてる」
「わかるわ」
俺たちのペースでいいか、と、俺は厚い胸板にもたれかかった。ギルバートは肩をびくりとしたけど、そのまま俺を優しく抱きしめた。
ギルバートの心臓がうるさく脈打っている。
しれっとした顔をしようとしているのがまた可愛らしかった。
「エルマ」
「なに?」
「……あの日、クヴァールの寝室に行ったのか」
ギルバートが躊躇いがちに尋ねた。ずっと気になってたんだろうか。確かに、あの日は落ち込んで帰ってきたから、気になるのは当然か。
「寝室っていうか、書斎に用があっただけだよ。本を読んだだけ。ホントになんもないから」
「……海外に誘われた、んだよな。それは、断った、のか」
「当たり前だろ! 任務だってあるし」
大声で否定すると、ギルバートは「そうか」とだけ小さく返した。ぎこちない沈黙が落ちる。
「もし、任務がなかったら。エルマは行っていたのか」
俺を抱きしめる手に力が入る。ぎゅっと強く。
その手はギルバートの言葉よりも雄弁だった。
”離さない”、”行かせない”と、力強く物語っている。
それが愛おしくて、緩やかに口角を上げた。
「行くわけないだろ」
「クヴァールのことは……、どう、……いや、その………、えっと…」
「どう思ってたかって?」
ギルバートはこくん、と子どものように頷く。
こんなに所在なさげな様子は初めてだ。
もしかしたら、俺が思っているより、ギルバートは寂しがり屋なのかもしれない。
「親切な人だなって思ってたよ。魔素不足で倒れてるときに助けてくれたり、話を聞いてくれたり」
「……そうか」
「ホントに俺はクヴァールさんの好意には気づいてなかった。恋愛感情とかも全くないよ」
安心して、と優しく笑いかける。ギルバートは微妙な表情をしていた。
「クヴァールの好意に気づいてないのはエルマくらいだったと思うぞ」と呟かれる。「まさか」と笑い飛ばすと、ギルバートは遠い目をした。
「どっちにしろ、俺がギルバート以外のひとを好きになることはないよ」
金色の瞳を見つめて、うっとりと微笑みかける。ギルバートは真っ赤になって固まった。
ちょっと意地悪したくなって、唇に、ちゅっと軽くキスをした。触れるだけの子どもみたいなやつ。
ギルバートは目を丸くする。
さっきも顔が赤かったけど、沸騰しそうなくらい赤くなっていた。
「え、な、なん、なんで、」
「だめ?」
「だめ、じゃない、が。魔素供給は、さっき……」
「魔素供給じゃなくて、キスしたかったんだけど」
ふふっと微笑むと、ギルバートは唇を口で押さえて、なんだかもだえている。「心臓が追いつかない」とか、ぼそぼそ呟いている。
ああ、もう。可愛い。
俺の一挙一動で動揺する姿なんて、愛おしくてたまらない。
こんなに可愛いひとを置いて、どこかに行くなんてできるわけないだろ。
「俺とキス、しない?」と言うと、ギルバートは勢いよく「する」と顔を上げた。
触れるだけのキスを繰り返した。
任務じゃない、魔素供給じゃない、したいからするだけのキス。
ずっとしたかった、気持ちの通ったキスだった。
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