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第64話 痕跡を辿る
翌日。
俺とギルバートは、アインホルン司祭の自室を訪ねた。軽くノックすると扉が開き、アインホルン司祭が顔を出した。
「あら、ギルバートくんにエルマくん。珍しいですね」
「お忙しいところ失礼します。お力を借りたいことがありまして」
「構いませんが……。どういった用件でしょう?」
アインホルン司祭は小首を傾げる。
「俺たちと一緒に来てください。そして……ロゼッタの“痕跡”があれば、教えてください」
その名を聞いた瞬間、アインホルン司祭はわずかに息を呑んだ。ギルバートが補足する。
「俺たちはある事件を調査しています。その中で、ロゼッタが利用された可能性があると考えています」
「……ある事件」
「詳しくはまだお話しできません。ですが、犯人が確定次第、必ずご説明します」
視線を落としたアインホルン司祭は、やがて顔を上げた。
「わかりました。協力しましょう」
その瞳は、決意の色を帯びていた。
アインホルン司祭は多忙だったはずだが、予定を全てキャンセルして同行を申し出てくれた。「どうだっていい用事ばかりですから」と笑うその声は、どこか軽やかだった。
「それにしても」
アインホルン司祭が話しかける。
「きみたちは付き合ってると思っていたのですが。バディだったのですね」
「あ、えー、はい。……」
「ん? ああ、もしかしてホントに付き合い始めたとか?」
「え……んー、ハイ」
バカ正直に答えてしまった俺の横で、ギルバートは視線を逸らし、耳まで赤くしている。
「へえ、よかったですね。きみたちが両思いなのは最初からわかっていたのですが」
「え!? な、なんで、」
「僕は”痕跡”が見えますからね。エルマくんを包む”痕跡”が、ギルバートくんのだとは知っていたので。あとは大人の勘です」
アインホルン司祭がくすくすと笑う。
ギルバートと視線を合わせて真っ赤になった。
俺たちは他人から見てバカップルだったんじゃないだろうか。
「だから、ロゼッタの墓参りでエルマくんを見たときは驚きましたよ。たくさんの”痕跡”が混ざっていたので」
浮気したのかな~とか考えてたんですけど、と面白がるアインホルン司祭の言葉に、俺はごくりと唾を飲み込んだ。
ーーーたくさんの”痕跡”が混ざっていた
あの魔素入りのドリンクは、本当に土からできていたのだろうか。
嫌な想像に背筋が凍った。
最初の目的地はベルトラム司祭の部屋だ。
「アインホルン司祭。あなたは”痕跡”とおっしゃっていますが、俺たちは、あなたが”魔素”を感じ取る能力があるのではないかと考えています」
ギルバートの言葉に、アインホルン司祭の瞳が一瞬揺らぐ。思い当たる節があるのか、顎に手を当ててじっと考え込んでいた。
「そうかもしれません。僕の一族はひとには理解できない、何かの”痕跡”を感じ取る能力があります。土や水、花、人間の”痕跡”も。忌避され、長く隠してきましたが……それが魔素だとすれば辻褄が合う」
アインホルン司祭の瞳がきらりと輝いた。
そして「なるほどね」と続ける。
「ロゼッタは、魔素を奪われて亡くなった可能性がある、と」
この説明だけですぐここまで察するなんて。
ギルバートが小さく頷き、続ける。
「数日前の盗難事件にも関連があると考えています。ロゼッタの”痕跡”はありますか」
アインホルン司祭はじっと扉に目を向け、すう、と深呼吸をする。意識を集中しているようだ。
「……はい。鍵のあたりが最も濃いです」
俺はギルバートと目を合わせた。
それから三人で教会内を巡った。
アインホルン司祭は意図しない場所でも「”痕跡”があります」と告げた。
俺は地図に印をつける。
機密文書保管室、備品庫、五人の中級司祭の部屋……。被害が表になっていないだけで、盗まれたものは他にもあるかもしれない。
痕跡が残っていた場所には共通点があった。
すべて“白の間”と同じ鍵。
犯人がトラオム聖教会全員分の魔素情報を持っているなら、出入りできる。
クヴァールなら可能だ。
健康診断の魔力量検査で、全員の魔素をスキャンできる。必須になったのは一昨年から。
……偶然とは思えない。
「あと、どこか行きたいところはありますか」
アインホルン司祭が俺たちに向き直る。
”白の間”へ、と言おうとした瞬間、「アインホルン」と、低い声が背後から聞こえた。
振り返ると、セオドア司祭とベルトラム司祭が立っていた。
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