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第68話 点が線になる
翌日から、俺とギルバートはトラオム聖教会でクヴァールの情報を集めていた。
上級司祭たちからヒアリングを行った。
セオドア司祭は、聖体盗難事件とは別件でクヴァールの調査をしていたらしい。
一週間ほど前に教会の使途不明金が問題になった。その際に名前が出たのがクヴァールだった。
俺たちは特別な権限をもらって、普通は入れない書庫や保管庫に入らせてもらった。
「ギルバート、これ」
過去の帳簿を探っていた時。
無数の書類の中、クヴァールの名前を見つけた。
「セオドア司祭が言っていた使途不明金か」
「ああ。金額も品目もおかしい」
「日付は今年の六月だな。ただの医師がこんな請求書、通せるのか」
「協力者がいるのかも。事務やってるヤツ……修道士か」
薄暗い部屋の中、パラパラと怪しい書類を精査する。
「エルマ。この名前、グレゴール・ファルクに聞き覚えがあるか」
「いや、……俺、一応修道士だったんだけど。知らねーな。誰だコレ」
「偽名かもしれない。もしくは直近で辞めたか」
「ここ数か月の退職届はクヴァールだけだ。偽名のほうが濃厚だな」
ちらりと視線を合わせて推理をしていく。ふたりだとサクサクと進んだ。
捜査を進めていくと、いくつかの事実が浮かび上がった。
クヴァールが研究所を立ち上げたのは三年前。
謎の人物、”グレゴール・ファルク”の偽造請求書が現れた時期と同時期だ。
……クヴァールは、三年前からトラオム聖教会の金を横領していた。
「クヴァールはなんで”神の御許”の存在を知ってたのかな」
”神の御許”は、限られた人物しか知らなかったはずだけど。
俺がぽつりと呟くと、ギルバートはある本を俺に手渡した。ヨレヨレで、かなり年季が入っている。表紙には『聖体の魔素循環についての研究』とあった。著者はアウグスト・ベルトラム。
「”神の御許”が最重要秘匿事項になったのは二十年前。ベルトラム司祭が研究をやめてからだ」
「……当時の論文は書庫の奥に残ってたってことか」
「ああ。おそらくクヴァールはこれを読んだのだろう。それで手当たり次第、倉庫や中級司祭たちの部屋を探って、地図を見つけたんじゃないか」
「なるほどな。ロゼッタの魔素が関係なさそうな部屋から見つかったのも、それか。あちこちで鍵開けてたんだな。中級司祭は”白の間”を管理してるから、地図目当てで狙われたってところか」
いままで点として浮いていた謎が、線になっていく。ギルバートはぱらぱらと書類をめくりながら話を続けた。
「”白の間”とベルトラム司祭の部屋だけ扉が開いていたのも頷ける。”神の御許”を盗むとき、歴史書を盗むとき。両方とも扉の他に、大量の魔素が必要な鍵があった」
「……クヴァールの魔力は低いもんな。開けることはできたけど、閉じる分の魔素が足りなかったって感じか」
「ああ。扉の分しかもってこなかったんだろう」
ザルだな、と吐き捨てると、ギルバートは隣で声を出して笑った。
なんだよ、と視線を向ける。
「いや。エルマらしいなって」
「どゆこと」
「毒舌で、厳しい。クヴァールが聞いたら泣くんじゃないか」
「泣けよ勝手に……。はぁ。なんか腹立ってきたな。コイツ、行き当たりばったりなんだもん」
「そうだな。”神の御許”の保管も信頼できない」
ぱたり、と書類を閉じる。
一日中書庫にこもっていたからか、全身が強ばっている。目が痛い。んー、と伸びをすると、ギルバートが呟いた。
「エルマと教会で捜査するの、久しぶりだな」
「確かに。ここじゃ地位も違うし。なんか変な感じ」
「……ちょっとだけ、抱きしめていいか」
「いま? ここで?」
「すぐ終わる」
ギルバートは立ち上がって、椅子に座ったままの俺を後ろから抱きしめる。首元に顔を埋めて、すう、と深呼吸をしていた。髪がうなじにかかってむず痒い。
「汗かいてるからやめてよ」
「エルマの匂いがする。いい匂い」
「いいわけないだろ……」
「疲れが飛ぶ。もっと吸ってたい」
ぎゅ、と背後から回る手に力が込められる。
「この修道服ももうすぐ見納めか」
「え、コレ気に入ってんの? ペラペラじゃん」
「エルマの格好は何でも可愛い。けど、この修道服は特に可愛い。……他の奴らに見せてると思うと腹が立つ」
誰も見てねーよ、と笑うと、ギルバートは背後で深いため息を吐いていた。
「……ギルバートの聖騎士のほうが格好いいと思うけど」
ぽつりと呟いて、そのあとすぐ恥ずかしくなった。多分顔は赤いし、耳も赤いと思う。
ギルバートはぴしりと固まる。
それから、「……アリガトウ」と、片言の声が返ってきた。
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