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第69話 決戦前夜

「んじゃあ、クヴァールってやつは三年前から色々やってたわけなんやな」 「はい。海外の裏ルートは調査中です」 拠点に戻り、四人で会議をする。 情報を共有すると、ダリウスとカイルは顔を合わせて「思ったよりヤベーヤツやな」と呟いた。 ギルバートは紅茶を飲みながら、険しい表情で告げる。 「クヴァール関連の書類に”グレゴール・ファルク”という名前が多数見受けられた。だが、トラオム聖教会にそんな人物はいない。教会内のあらゆる部署で、存在しない人物が作った書類が通っていたことになる」 「偽名やな。あらゆる部署で通ってたっちゅうんも……めちゃくちゃザル組織か、内部に複数の協力者がいるっちゅうことやな」 ダリウスが眉を顰める。 俺はパッと顔を上げて発言した。 「トラオム聖教会の事務手続きはかなり正確です。俺は修道士の仕事をしていたから分かりますが、偽名なんて使ったら即バレます。少なくとも監査部、経理部、管理部には、クヴァールの協力者がいるでしょう」 「ヴァルトラが絡んでんならでかい組織みたいやしな。どこに協力者がいてもおかしないわ」 ダリウスがうげぇ、と舌を出す。カイルも険しい顔で「めんどくさいッスね」と呟く。 ギルバートがふたりに目を向け、重い口調で続けた。 「トラオム聖教会全体に協力を募ろうとしたが、ヤツの協力者が複数いる状態では難しい。ここは変わらず、信頼できる人間だけで進めたほうがいいと思う」 「……ギルバートくんに賛成。告げ口されて逃げられるほうが困るもんなぁ」 「だとすると、この四人ッスか。人手足りないッスよ」 カイルが眉根を寄せる。 その言い分はもっともだ。残り数日で”神の御許”の在処を突き止めなければならない。 せめて捜査の手が増えればとは思うが、トラオム聖教会のほとんどの人間が怪しいのは変わらない。 「セオドア司祭に頼んだら、上級司祭の私兵を数人貸してくれることになった。ほかに比べればまだ信頼できるはずだ」 「お、ええんちゃう? ナイよりマシや」 ダリウスが笑うと、ギルバートが頷いた。 ナイよりマシ、というのは痛いほど実感している。 ある程度話の流れが決まって、カイルが言葉を引き継いだ。 「じゃあ、次は俺たちッスね。まず、エルマの魔力は回復するかもしれないッス」 俺は顔をパッとあげた。 「本当ですか」 「確証はないんスけど。エルマの魔素を奪った機械を解析してみたんス。構造としては、膜に触れると手のひらに読み取りコードみたいなのを埋め込まれる感じッスね。んで、そのコードが体内で生成される魔素を研究所に転送する。だからエルマは魔素が回復しなかったッス」 カイルの説明を聞いて、背筋が寒くなった。 膜に触れただけで、体内の機能を変えられるとか。 両手のひらを広げて”読み取りコード”を探してみるが、見当たらない。カイルによれば、目に見えないくらいの小さな文字の羅列らしい。 「……怖。そんなもん、入ってんの。俺の身体」 「気色悪いッスよね。でも、読み取りを停止すればすぐ回復するはずッス。最悪、その機械をぶっ壊せばいい」 可能性ッスけど、とカイルが付け足した。 俺はこくん、と頷く。 ただの可能性だとしてもありがたい。 魔術師のアイデンティティである魔力が戻ってくる。そう考えると、胸の奥が温かくなった。 「でも相変わらず”神の御許”の場所は分かんないッス。色々悪事を働いてるんでしょーね。見せてもらえない場所が多すぎッス」 「それなー。アイツ、警戒心強すぎやで。エルマくん、よく入り込んだなぁ」 ダリウスが、はぁー、とため息を吐きながらぼやく。俺は別に何もした覚えはないんだけどな。でも、そう言うとギルバートが遠い目をするから黙っておいた。 翌日も、翌々日も、同じような状況が続いた。 結局、”神の御許”の所在が分からないまま、十月十八日を迎えることになってしまった。 ーーー十月十八日、十九時。ノイヤール峠。 この時間の峠は暗い。月明かりしか光源がない。手元のランプは古く、今にも消えそうな火がおぼつかない様子でついていた。 俺はひとり、山道を登っていた。 あたりは木々に覆われている。 険しい山道の中間地点。辛うじて馬車が走れるくらいの悪路だ。歩くと小石が転がる。木々が風で揺れる音が妙に響いた。 知らない山道は怖い。暗いのもあって、先が見えない。登る度に息が切れる感覚がする。呼吸音が荒くなった。 「エルマ、待ってたよ」 視線を上げると、巨大な月を背に、クヴァールが笑顔で、立っていた。

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