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第4話 陽一サイド<楽しみなガーデン>
昨夜は洋服をクローゼットや引き出しに収めた。
翌日は台所の食器や浴室の洗剤など、大方の片づけが終わった。
二階を完全に独立した自宅にしたので、片づけの範囲も広くなるが、それでもピカピカの家電に囲まれているだけで、なんだか胸が弾む。
「ねえ、先生、バルコニーでお茶しようよ……」
甘えんぼうな声とともに、颯太がやって来た。
「颯太、そんなに庭を眺めたいの?」
「うん、庭はすごいよね。すっかりひっくり返っちゃってさ」
颯太は待ちきれない様子で、さっさとバルコニーの椅子に腰掛けた。
立花家の土地・財産はすべて、颯太の物なのに変えても怒らない。
颯太の無欲で執着心の無さが本当に助かる。
だから財団を作ることが出来た。
広大な庭の植木を全部取り、地面もひっくり返してガーデンを作らないといけないし、
他に7階建ての財団ビルやホテルまで敷地いっぱいに作る。
あれはダメだとか、これは残してなんて、普通は言いそうなことも一切言わない。
その美しいまでの清々しさね。
きっぷの良さが凄いとしか言いようがない。
これは俺が凡人だからの感想かもしれないが……。
「今、冷たい飲み物を淹れるから」
「ねえねえ、ここにゼラニウムの鉢植えを置くんでしょう?」
バルコニーの柵を指さして、瞳をキラキラと輝かせている。
「うん、そう言ってたね。いつ持って来てくれるのかな?」
「俺ね、自分で花を育ててみたかったんだよね」
「へえ、そうなんだ。実際にやってみると楽しいんじゃない?」
ガーデンテーブルには、アイスティーと由紀さんが冷凍にしておいてくれたレアチーズケーキを並べた。
「うわ、美味しそう! ブルーベリーが入ってるんだよね?」
「そう、マメだよね。こんなに忙しい毎日なのに、わざわざ作ってくれるんだからさ」
ひんやりとしたレアチーズケーキはさっぱりしていて、今の季節にぴったりのおいしさだ。
2階のバルコニーは、柵から頭一つ分だけ高く、庭の隅々まで見渡すことができる。
ガーデンを訪れるお客さんからも、こちらの視線が気にならない。
そんな絶妙な高さなんだ。
「颯太、レッスンは行かなくていいの?」
「うん、引っ越しがあるからって、1週間は特別に休みにしてもらったんだ」
思わずぷっと吹き出してしまった。
「あ……」
図星だったのか、颯太にじろりと睨まれる。
初日に自分の部屋だけ片づけて、あとは知らんぷりだったな。
期待した俺がバカだった。
まあいいか。
こういう時は、美しくなっていくガーデンを眺めるに限る。
「颯太、植栽は明日からまた本格的に再開するって言ってたよ。少し手伝ってみたら? きっと良い勉強になるよ」
「うーん……でも見てるだけでもいいかな?」
「ぷぷっ、さっき花を育てるんじゃなかったの?やっぱり、特等席から見学専門にするの?」
「うん、そうする」
悪びれもせず、さっさとケーキを平らげ、アイスティーをゴクリと飲み干してから、にっこりと微笑んでそう言った。
ふ……もう、このマイペースにつける薬はない。
それにしても、庭全体の進行状況はなかなかにいい感じだ。
移動した古い蔵は、一番奥の隅へ。
中の展示もすべて完了。
看板やPOP準備済。
今は鍵をかけてオープン待ちだ。
そばの深井戸は、上が風情ある江戸櫓(えどやぐら)に守られている。
四隅も囲われていて、見物コースにぴったりだ。
他に完成しているものは、
●庭の材料や道具を入れる小屋。
●庭スタッフ用休憩小屋(シャワー・ロッカー付)
●生ごみを有機肥料にする処理機4台の小屋
●カフェ横の位置に男女別のトイレ。
以上はすべておしゃれなデザインで庭の景色を邪魔しない。
そして大きなガーデンだ。
全体を深く掘り起こし、土を入れて栄養豊富な土壌造りが施されている。
今は緻密なデザインに沿って区画に分け、宿根草がどんどん植えられている。
一度は逃がした背の高い木々は、再び戻って植えられた。
仕切り代わりになる花木たちも美しく並んだ。
中でもうれしいのは、果樹を数本植えてもらったことだ。
俺の希望を叶えてもらい、ビワ、イチジク、桃、梨、レモン、キンカン、そしてジューンベリー。
レモンとキンカンは、いつかオープンするカフェの自家製メニューで使おうと今から企んでいる。
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