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第8話 香菜サイド<お母さん>

 颯太兄さん達の家を出る時に、紗奈が小さな声で私に言った。 「お母さんには財団の話は内緒にしよう。またうるさいからさ」 「うん、そうだよね。なんか……でも、すぐバレそうじゃん?」 いや~な予感がする。今までだってそうだもん。 「その時はその時だよ。まだ卒業もしてないんだし、多分仕事よりもお見合いをしろって言うと思うよ」 「やっぱり?」 あー、ブルブル。心のバリアを張ってないと、やってられないよ。 結局、この件の詳しい話は外ですることにした。 スマホのメッセージでも迂闊に書けない。 お母さんにいつ見られるか分からないから。 ちょっと帰りに10分ほどお茶しようということになった。 夜だから長居はできないけど、10分~20分くらいならSPもついているから、お母さんもそこまではうるさく言わない。 帰り道のファミレスに寄り、ドリンクだけ頼んだ。 「ねえ、お母さんになんて言う?」と、私は紗奈に聞いた。 「オープンがまだ1年半か2年くらいは先らしいよ。だから、私だったら卒業してるし、すぐに仕事をさせてもらうよ。ミツワの仕事だと言えば、絶対お母さんも機嫌がよくなると思う」と紗奈。 「なるほどねえ。私はまだ学生だけど、でも夏休みや大学が休みの時は、もうスタッフとして混ぜてもらいたいな。だってさ、最初の顔合わせの時に揃ってないと、新人扱いになるでしょう? 不利だもん」と私。 「ふ~ん、それは言えてる。でも事業の最初の時は、やはりリーダーになるキャリアのある人を据えるのが普通だよ。碧人君は最初から教師だからさ、多分リーダーの候補なんだと思う」 「じゃあ、紗奈はどうなるの?」 「資格を取るまでは施設に実習に行くけど、だからと言ってそれがそのままキャリアになるわけじゃないもん。 どこかの施設で実績を作った人ならリーダーになるかもしれないけどさ」と紗奈。 「そうなんだ。じゃあ、しょうがないから、卒業したら私も財団に就職するよ。ヒートがあるから普通の企業なんて無理だもんね」と私。 「そうなんだよ。だから陽一兄さんもオメガのことを考えて財団を作ったんだと思うよ」 「うん、良かったね。陽一兄さん達がいてさ。私達も普通に就職できるよ」 「だからさ、ぎりぎりまではお母さんに言わなくていいよ。お見合いをしろって言われたら、『ミツワで仕事をするから』って言えばいいんだからさ」と紗奈。 そこで話はまとまり、私たちは帰宅した。 「お帰り。遅かったねえ~」と、美しい格好をしたお母さんが声をかけてきた。 お母さんはもっぱら美容の手入れやお芝居の観劇など、毎日のように外へ遊びに行っている。 「うん、陽一兄さんや颯太兄さんの新しい家を見て来たよ」 「へえ~、そうなんだ。今までだって大きかったんじゃないの? 信じられない。更に建て直したの?」と母。 「うん、家を小さくしたんだって」 「へっ、なんで? 建て直すならもっと大きくするんじゃないの?」と母。 「陽一兄さんが、前の家は大きすぎるからって言ってたよ」と紗奈。 「そうなんだ。よく小林さんが小さくすることを承諾したよねえ?」と母。 「うん、その辺の事情はよく知らないけどさ。さあ、お風呂に入ろうかな? 香菜、一緒に入る?」 「やだ。一人で入る」 「じゃあ、2階に行こう」と紗奈。 二人で母の追及をうまくかわし、さっさと2階へと逃げ込んだ。 この家も相当大きい。 お母さんの希望でお父さんが建てたから、内装も全部お母さんの好みだ。 派手で、やたらと目立つ。 それに比べて、陽一兄さん達の家は外観からして、シックで可愛らしかった。 派手な感じは全然なくて、むしろ控えめな感じがした。 2階も独立していたし、庭が見渡せるバルコニーがすごくうらやましかった。 イタリアのホテル風にしたという部屋も、すごくきれいだったな。 いいなあ……毎日きれいなお花を見ながら暮らせるんだ。 うちの庭だっていろいろ植物はあるけど、ただ芝生が広いだけだもん。 花は契約しているガーデンの人が植えに来てくれるけど、お母さんは自分で庭仕事をしようなんて発想がハナから無い。 なんか、世界が違いすぎる。 お金をただ使うだけの人と、お金で弱者を助けようとする兄さん達。 両方にお金はあるのに、使い方が全然違う。 それに、碧人君達もみんな楽しそうだったな。 あの合宿みたいな暮らしが、ちょっとうらやましい。 お母さんも、あっちの方にお金を使えばいいのにね。 ――あ、でもそれは禁句。絶対言っちゃダメだ。 また兄さん達の計画に口を出して、邪魔しにきちゃうからさ。

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