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第9話 陽一サイド<父に相談>
自宅の整理も大体できたし、あとは仕事の時間の確保だな。
これには大きな問題がある。
佐久間総合病院の院長職を、なんとしても弟の淳一に譲りたい。
でも、理事である父は反対だ。
淳一が若すぎるからと言うけれど、俺の時だって最初は結構若かったじゃないか。
今日は父に時間を作ってもらったから、直接会いに行こうと思う。
病院に行くと、業務推進室の加護室長が真っ先に院長室へやって来た。
情報が早いな。受付の誰かが知らせたに違いない。
「院長、おはようございます。お久しぶりですねえ」
加護さんが嬉しそうに声をかけてくる。
「それ嫌味なの?」
「‥‥‥お話ししたいことがいっぱいあるんですよ。もう話が溜まっちゃって、何から言えばいいのか……」
「あ、悪いねえ。今日は理事と大事な話があるんだよ。ごめんね、終わったらこっちから連絡するからさ。いいかな?」
「そうなんですねえ。はい、わかりました」
加護さんはちょっと恨めしそうな表情で部屋を出て行った。
本当は菜の花病院みたいに、権限を加護さんに渡して、院長職そのものを女性に任せたいんだよね。
技師や医者の人事権だけは理事が持っていればいい。
結局のところ、院長なんて雑用のほうが圧倒的に多いんだからさ。
菜の花病院の北原院長はそれをしっかりやっているんだから、本当に偉いよ。
気持ちを切り替え、理事長室へと向かった。
「おお、来たか。なんだ、また嫌な話しか?」と父。
ぷっと笑ってしまった。分かってんじゃん。
「父さん、実は今日は大事な話が2つあって相談に来たんだよ」
「どうせ、院長職を淳一に譲るって言うんだろ?」と父。
「分かってるじゃない? その通りだよ。
もう俺はミツワもあるし、財団の仕事がどんどん増えていて、とても病院の仕事まで手が回らないんだよ。
向こうだってクリニックも抱えるんだしさ。時間が足りなさすぎるんだよ」
「ふ~ん、そうか。いいよ、院長職は今だって俺が一緒にやってるんだからさ」
「いや、そういう問題じゃないんだよ。少しは淳一のことも考えてやってよ。
俺が院長になった時も、淳一の今の年齢と大して変わらなかったでしょう?
だから、父さんが淳一に院長の仕事を直接教えてあげてほしいんだよ。
俺はほとんど現場にいないのに、よその仕事ばかりしてるでしょう?
おまけにそっちからも給料をもらっていたら、淳一だって絶対に面白くないと思うよ。
万が一の失敗があっても、父さんがいればカバーできるんだから、今のうちに鍛えてやってほしいんだよね」
「どうしても無理か?」
父は明らかに嫌そうな顔をした。
「はい、申し訳ないのですが…、淳一も早めに経験を積まないといけないから、どうかやらせてあげてほしいんです」
ようやく父はペンを置き、「ふう……」と大きく息をついた。
「俺としては結構、長男の陽一を頼りにしてるんだけどねえ」と父がこぼす。
「それはありがたいんだけどさ。ほら、食堂の改善もできたし、ソフトクリームもよく売れているでしょう? お掃除の人が辞めるのも少なくなってきたって、加護さんも言ってたしね。少しは病院の下地を作ったつもりだよ。あとは父さんが淳一を鍛えてやってよ。早めがいいと思うんだよね」
「そうか、分かったよ。淳一には俺から話す。で、日付はいつにするんだ?」
「今すぐだよ。だって俺は、ここに来る時間を作るだけでも大変なんだからさ」
「何も引き継ぎしないで放り出すつもりか?」
「ごめんなさい。父さんなら何でもできるんだから、そこは勘弁してください」
「そうか。分かったよ。じゃあ、内科医を一人採用しないといけないな。
しかしだ、病院としてのステータスというものがあるんだ。
陽一は今後は顧問として名前だけでも残りなさい。それは絶対だ。いいな。
第一、加護室長はどうするんだ?淳一じゃあ、相手にならんだろう?」
「‥‥‥ああ、痛いところを突きますね。分かりました。
では顧問でお願いします。時には加護さんの話でも聞きますよ」
「ああ、そうしてくれ。加護さんは多分、淳一相手では話す気にもならんと思うけどね」
ちょっと頭を抱えた。
そうかもしれない。どうしよう……。
後で直接話しておこう。
そこで、俺はここで最後の重大な問題を切り出すべきか、わずかに躊躇した。
――言いにくい……。
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