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第10話 陽一サイド<実家の売却>
俺はなんだか言いにくくて、もじもじしてしまった。
「何だ? まだあるんだろう? 早く言えよ」と父。
「あのね。怒ったらごめんね。言ってもいいかなあ?」
「何だ? 俺を殺したいのか?」
頬杖をついて呆れたように言われた。
「またそういう事を言う……」おなかでククと笑ってしまった。
「あと言うとしたら、それしかないだろう?」と父。
「父さんのその洞察力は天才的だよ。俺だってこれは相当考え抜いたことなんだよ」
「早く言えよ」落ち着き払ってそう言えるのが父だ。
「あのね。実家の土地を颯太の財産管理会社に売って、マンションを建ててもらいたいんだよ。
そして、土地を売ったお金で、みんながそれぞれの区分所有権(自分たちの家)を買うんだ。
そうすれば、もし万が一お母さんが一人になった時も、淳一が同居しないまでも同じ建物にいるなら安心でしょう?
みんな自分の家があれば、気兼ねなく子供を連れていつでも行けるしさ。
やっぱりさ、嫁さんのお義母さんが一筋縄ではいかないと思うんだよね。
娘が姑と同居するのは困るって言いそうじゃない?
そんな選択をさせて、淳一夫婦の仲にひびが入ったら取り返しがつかないよ。
嫁さんはオメガだから、離婚するわけにはいかないしさ。
だから父さんが元気なうちにマンションを建ててくれれば、淳一はペントハウスにでも住めばいいじゃない?
父さんたちは1階と2階のメゾネットにして、庭付きにすればいいんだよ。
そうすれば淳一も紀子さんも、あっちのお母さんも文句はないはずだよ。
俺と楓も1軒ずつ買うからさ。
子供が出来ても部屋の狭さを気にしないで泊まりに行けるしね。
それに、俺と颯太だけだったら実家に泊まってもいいんだよ。
だから、本当にどうかお願いします」
俺は頭を深く下げた。
「ふっ、とうとう来たか。俺も同じことを考えていたさ。
淳一の嫁さんに同居は無理そうだなと、最初から思ってたよ。
しかもあっちのお母さんは、陽一のマンションの内装を全部変えたもんな。あれは驚いたよ。まだ築5年しか経ってないピカピカのマンションだったのにさ。十分に拒否するのはあり得るね。
良し、決めた! 淳一を傷つけたら将来恨まれそうだよ。
『病院を捨ててやる』とか言いそうだからな」
ふふふ、とふたりで小さく笑った。
「じゃあ、淳一には院長の件は俺から言うよ。マンションの方は誰に言えばいいんだ?」と父。
「電話で今日中に内容を伝えておくよ。
それで次にミツワに行った時に、颯太、上川秘書と小林さんと山川弁護士が揃った席で話すよ。
あとは財産管理会社の人にも来てもらって聞いてもらう。それからだね。
多分管理会社も担当者が決まると思うからさ。
そしたら実家の土地を担当者や弁護士に見てもらわないといけないもんね。
父さんはすみませんが、土地の権利書や図面を用意してもらえますか?
日曜日には淳一や楓達も呼ばないといけないしさ」
「そうだな。それとお前の家はどうするんだ?」
「多分ね。全体のデザインを考えると邪魔だと思うけど、建設途中は工事関係者の休憩場所にしてもらってもいいしね。2階は設計関係の仕事をやってもらうのに必要だろう?
最後まで使えると思うからさ。最後は壊してもいいしね。
それとSPの待機所も必要なんだけど、マンションの中に作ってもらえばいいかな」
「全くなあ~。陽一は本当に欲がないよな。俺の息子ながら感心するよ」
ちょっと笑った。
「そう? 欲がないのは颯太の方だよ」
「それで、マンションが出来るまでどこに住もうかなあ?」と父。
「それなんだけどさ。財団の土地が増えたんだよ。近所の人が譲ってくれてさ。
その中の1軒を借りるか、青山で物件を探すかだよね。
もしかしたら、財産管理会社の物件で何かあるかもよ。それは聞いてみるよ。
お母さんがあっちが不便で嫌だと言えば、青山で探すよ」
「うん、そうだな。それは任せるよ。母さんに聞いてみないといけないしさ。
家政婦の美代さんの部屋まであるかどうかわからないもんな」と父。
「ああ、そうだね。それは心配しなくていいよ。何とでもなるからさ」
「うん、わかった。じゃあ、次の締め日の翌日付だな。淳一の院長を発表するよ」
「はい、お願いします。夜、また電話します」なんだかホッとした。
それで、俺は病院を出ようとして受付を見たら思い出した!
「あっ!加護さん」忘れてた。ヤバイ。
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