12 / 19

第12話 陽一サイド<ミツワで告白>

 加護さんをスカウトした後は、ミツワに向かう車の中から、すぐ父に電話を入れた。 「お、何だ? まだ話があったのか?」 「うん、追加でお願いがあるんだけどさ。加護さんを財団に引き抜いちゃダメかな? すごく助かるんだ」 「そうか、彼女ならしょうがないだろう。淳一も業務推進まで頭が回らないさ。 おまけに下手すると加護さんの方が鋭いもんな。ククク……」 父は電話の向こうで楽しそうに笑っていた。 「加護さんとさっき話をしたんだけどさ。 淳一も自分のペースが壊されると思って、仕事がやりにくいだろうって心配しててさ」 「よし、分かった。でも、財団に住むところはあるのか?」 「それなんだよ。今ホテル棟が内装段階だから、せめてあと1か月今のところに住んでくれると助かるんだよね。正式な職員寮は完成までまだ1年近くかかるしさ」 「うん、そうだな。そしたら出来る限り有休を使って、ぎりぎりまで伸ばせば今のマンションに住めるよ。それでどうだ?」 「はい、その方向でお願いします。それで、しばらく業務推進室の方は休止だね」 「まあ、いいさ。色々業績は上がったから、十分価値はあったよ」と父は鷹揚に頷いた。 「ありがとう、また今度連絡するよ」 ミツワの院長室に着くと、颯太が広報のスタッフ達と熱心に打ち合わせをしていた。 「あ、お疲れ様。今ちょっといいかな?」と俺が声をかけると、 「うん、いいよ、なあに?」と、愛らしい笑顔が返ってくる。 その瞳を見ると急に抱きしめたくなった。 ダメだ__気持ちを引き締めなければ……。 そして、上川秘書と山川弁護士にも声を掛けて、集まってもらった。 「どうされましたか?」と、上川秘書がきりっとした表情で尋ねる。 「内輪の話で申し訳ないんだけど、皆さんにお願いがあるんだ。 立花家の財産管理をしている会社に、ちょっと打診をしてもらいたいことがあってさ」 言葉を区切り、俺はまっすぐに皆を見た。 「実は、青山の実家の土地、四百坪を買い取ってマンションを建てて欲しいんだ。そこに、両親や兄弟がそれぞれ一軒ずつ所有権を持てるようにしたい。それが実現できるかどうか、管理会社に聞いてもらえないかな?」 「はい、かしこまりました。颯太名誉会長はそれでよろしいのですか?」と、上川秘書がすかさず確認する。 「あ、うん、今聞いたばかりだけどさ。それが先生の希望なら、ぜひ叶えてあげてほしいな。 あ、待って、ちょっと小林さんにも電話しようか?」と、颯太が自分のスマホを取り出した。 その場で小林さんへコールを鳴らし、手際よくスピーカーにしてくれる。 「小林さん? あのね、先生が実家の青山の土地四百坪を財産管理会社にお願いして、買い取ってもらってマンションを建てたいんだって。今からそちらに相談させてもらえないかなと思ってさ」 颯太が柔らかい口調で事情を説明すると、電話の向こうで小林さんが快く応じてくれた。 電話を切った颯太は、ふわりと微笑んで優しい眼差しを向けてくれた。 「あのね、小林さんが会社に聞いてくれるそうだから、折り返し連絡するって」 「うん、ありがとうね、颯太」 胸の奥がじんわりと温かくなる。 「一体なぜ、急にそんな大規模な売買の話になったのですか?」 現実的な疑問を口にしたのは、山川弁護士だった。 「実は、前から父が亡くなった後の対策を考えていたんですよ。 父は相続税対策を考えて、あらかじめ土地を細かく分散して登記してくれています」 俺は少し言葉を選びながら続けた。 「でも、それが何十年先になるか分からない。 歳をとってから『さあ、みんなでマンションを建てよう』となっても、それぞれの意見がまとまらなくなっているかもしれないですよね」 「ははあ、確かにそうですね」と山川弁護士。 「だからこそ、父が元気なうちに形にして欲しかったんですよ。兄弟がそれぞれ区分マンションを持てば、気軽に顔を出せるし、泊まりにも行けますからね。 今のままでは、三人の兄弟が子連れで泊まるには部屋数が足りないんです。 それに、弟の淳一が家督を継ぐのですが、母親と同居するかどうかは未定なんです。 お嫁さんの意向や御実家のお義母さんの意見もあるでしょうしね」 「あ~それは確かに微妙ですね。 お嫁さんのお義母様も関係してくるんですね?」と上川秘書。 「はい。それならいっそ、最初から『同居か別居か』なんて選択をさせないで、各自が自分の部屋を持てばいい。それなら余計な揉め事は起きないですよね? でしたら、一歳でも若いうちに動いてしまったほうがいいと思ったんです」と俺。 「はあ……なるほどねえ。そこまで先々の家族の空気感まで読まれているとは、さすがですね」と、山川弁護士は感心したように深く考え込んでいる。 「先生は、本当に優しいですね。相手につらい決断を迫るよりは、不安の芽をつみ取っておこうというわけですね」と、上川秘書が穏やかに微笑んだ。 すると、隣で聞いていた颯太が、くすくすと楽しそうに笑い出した。 「ふふ、なんだか想像できるな。先生のマンションも、向こうのお義母さんが全部リフォームしちゃったしね」 「……って、颯太、少しは察してくれてんの?」と俺はクスリと笑った。 「えへへへ」颯太は笑ってごまかしてるな。 広報のスタッフ達は、理解できないようでぽかーんとしている。 ――まあ、みんなまだ若い独身だし、こういう家族の事情はピンとこないよな。

ともだちにシェアしよう!