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第21話 陽一サイド<颯太のヒート>

 アニメプラスの理事、夏さんからメールをもらった。 内容は、颯太に内緒で相談があるので事務所に来て欲しいとのことだった。 はあん、昨日の件だな。 俺もそれは聞きたかった。 すぐアニメプラスの社長室に行くと、理事や社長も表情が曇っているようだった。 「実はですね。昨日、颯太さんにそろそろコンサートをやりませんか?と聞いたんですよ。 でも頑としてやると言ってくれないんです。 それはしょうがない事なんですが、理由の一つにヒートの問題を言われたんです。 彼のヒートは不規則なんですか? それを怖がってコンサートができないのでしょうか?」と夏さん。 内心ドキッとした。 それは俺と颯太の間でもあまり触れたくない問題だった。 「ああ……そうですねえ。正直に言うと、本当に不規則なんです。 1年前に久しぶりにヒートになったのは、夏さんもご存じだと思うんですけど、その後はこの1年の間に2回しかなかったんです。 普通は3~4回はあってもいいのです。 ホルモン値がまだ安定してないんでしょうね。 本人は急にダンスのレッスンをやる気になって始めたのですが、その時、子供はしばらく要らないと颯太が言うので、ホルモン治療はストップしているんです。 この治療を進めれば、確実にヒートになるのですが、本人が嫌がっているのでできません」 「ああ、そうなんですね。仕事にやる気がないというわけではないんですね?」と社長。 「はい、ただ今は不安が強いんだと思いますよ。そういう時に無理強いはできないです」 颯太に無理強いだけはさせたくない。 「なにかいい方法はありますか?あまりにも才能がもったいないんですよねえ。ファンが多くて問い合わせも多いんですよ」と桐生社長。 「やはり、本人が急にやる気になるような動機がないと、無理じゃないですか?」と俺。 「動機と言うと?」 「例えばライバルが出現して悔しい思いをしたとか? あとは、どうしてもやらなければならない必然性ができた場合ですね。 他には、やりたいのに足かせがあってできない状態が続くとかね」 「足かせと言いますと?」 「例えば子育てが忙しくて歌を忘れそうだとか、ファンがだんだんいなくなってきたとか、忘れられて焦るとかですね。しかし今はネットがありますからねえ」 「はあ、なるほどねえ」 夏さんと社長が顔を見合わせていた。 「ホルモン療法を再開するとどうなるんですか?定期的にヒートが来るようにならないのでしょうか?」 夏さんが真剣な表情で尋ねた。 「さあ、どうかな?一か八かですしね。なにより本人が嫌がっているので、無理にはできません。ホルモン療法はヒートに近い状態を人工的に作るので、颯太にとっても負担が大きいんですよ」 「はい、分かりました。今日はご足労いただいて、すみませんでした」 理事も社長も恐縮していた。 俺はそのまま失礼することにした。 なるほどね。そういうことか……。 しかし、颯太にとっては泣くほど嫌なことなんだ。 不安が強いことが、恥ずかしかったのだろうか? 今は楽な毎日で、緊張することがないから慣れちゃったのかな。 夕方になって颯太が帰宅した。 「颯太、そろそろ病院に行こうか?定期的に行くってことだったでしょう?ホルモン値を調べた方がいいよ」 「……なんで今頃そんなことを言うの?」もう眉を寄せていた。 「今年はヒートが2回しか来てないから、気になってたんだよ。ホルモンが少ないまま放置すると将来困ることがあるからさ」 「何?困ることって」今度は不安そうな表情になった。 「例えば、身体が成熟しないままにずっと放置すると、子供ができにくくなることがあるんだよ」 「……」うつむいたまま動かなくなった。 しょうがない、抱きしめた。 「何が不安なの?俺がこんなに一緒にいるでしょう? オメガがヒートになるのは可愛がってもらうためにあるんだよ。だから怖くないでしょう?」 「だって……」 もうウルウルしている。 ああ――また泣きそうだ。 「少しの治療でもいいから、定期的にヒートが来るように維持した方がいいんだよ」 「だって、それってダンスの邪魔になるんだもん」 もう泣きそうな感じで颯太が訴えた。 手を取って抱き寄せた。 「分かった。ごめんね。もう言わないよ」 打つ手がないってこのことだな。もう完全に諦めた。

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