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第22話 陽一サイド<ダンスの邪魔>
夕べはベッドで、颯太を抱き寄せようとしてもそっと離れた。
ダメだ、このままでは気持ちが離れてしまう。
俺は小さい頃から愛情に恵まれて育った。
だから母親を亡くして、4歳から独りぼっちで育った颯太の気持ちを、完全に思いやることが出来ないかもしれない。
決定的だったのは、その時点で父親が出て行ってしまったことだ。
4歳で両親がいなくなった颯太の孤独。
精神科の専門医だから頭では分かっていて、心底颯太を思いやれるのか?分かるのか?と言われたら、ノーなんだと思う。
少なくとも現状ではそうだ。どうすればいいのだろうか?
颯太は朝からレッスンに行った。
ボーカルは9時半から60分。ダンスは11時から90分だ。
何だかもどかしくて桐生社長に朝一で電話した。
「はい、どうしましたか?」
「お願いがあるのですが、颯太のダンスレッスンに付き添わせていただけませんか?
ついでに颯太のダンスの真似をしてもいいでしょうか?
俺にレッスンは要りません。空気だと思っていただければいいです」
「え?」クスクス笑っているのが聞こえて来た。
「ふ、一体どうしたんですか?」
完全に面白がってるな。
「昨日、颯太にホルモン治療をした方がいいと言ったら、ダンスの邪魔になると言って完全に拒否されました。
そんなにダンスが大事なら、俺も同じことをしてみようと思ったんです。
颯太のダンスはそばで見ないと分かりませんからね」
「はい、分かりました。トレーナーに言っておきます。動きやすい服装とシューズでいらしてください」
レッスンの場所は浅田タワー5階のイベント小スペースだった。
11時前に着替えて室内に入った。
もうトレーナーがいた。
「あ、立花先生ですか?社長から聞いていますよ。トレーナーの花音と申します。よろしくお願いします」
「はい、立花陽一です。よろしくお願いします。颯太の夫です。お邪魔だとは承知していますが、すみませんが無視してください」
うわっははは!と爆笑された。
「……え?」
「面白~い!良いですよ、お好きになさってください。ただダンスが初めてなんですよね?」
「はい、そうです、やったことないです」
「そしたら来る前に足の筋を伸ばして、ラジオ体操を済ませてからいらしていただけますか?
アキレス腱でも切ったら半年は治りませんよね?」
向こうも笑っていたが、俺もたまらずクスクスと笑ってしまった。
「はい、その通りですね。ではとりあえず、足の筋を伸ばしますね」
そこへ颯太がマネージャーと一緒に部屋に入って来た。
「え?先生どうしたの?なんかあったの?」と颯太が心配してそばに来た。
「どうもね、颯太のダンス熱が移ったみたいなんだ。しばらく一緒に踊ることにした。よろしくね」
ええ……?と眉が寄ったままの表情で見つめられた。
心なしか、ちょっと恨めし気な目に見えた。
昨日、”ダンスの邪魔になる”って宣言されたばかりだもんな。
こうなったら俺だって意地だよ。
湿布だらけになってもいいから、なんとか形になるまでやり抜こう。
「さあ、始めますよ。良いですか?」と花音先生。
「はーい」と颯太は準備OKだ。
すぐ音楽がかかった。
颯太はトレーナーと二人で踊っていた。
ああ、この曲にはもう振付が出来ているんだな。
その間に俺は必死で足の筋を伸ばした。
そしてちらちらと颯太を見ながら、身体のストレッチをした。
颯太の後ろにいるんだけど、前が鏡だから俺が丸見えだ。
時々チラッと俺を目の端に入れてるようだが、いつの間にか、颯太はステラビート並みにうまくなっていた。
知らなかったー!!
なるほど、これなら勿体ないと言われるはずだよ。
体操をなんとなく終えたら、今度は颯太の真似をすることにした。
しかし、手と足が一緒に動かない問題発生……。
さて__どっちかにしないと無理だな。
しょうがない、足だけ先にやることにした。
そうやって、いきなり90分やった。
終わったら座り込んでしまい、もう身体が動かなかった。
「大丈夫?」と颯太が声を掛けて来た。
「心配しなくていいから、先に行っていいよ」
「じゃあ、颯太さん、次行きましょう」とマネージャーに促され、
「じゃあね」と颯太はバイバイと手を振って部屋を出て行った。
「立花さん、いきなりじゃ無理じゃないですか?2、3日は筋肉痛で動けないと思いますよ。
2日ほど休んでから、またいらしたらどうですか?無理すると本当にアキレス腱を切りますよ」
「はい、分かりました。踊れなくても颯太の様子は見に行きますね」
花音さんがふふふと笑っていた。
身体を引きずるようにして帰宅した。
小林さんにはあらかじめ、ダンスを始めることを伝えておいた。
彼の俺を見る目が……哀れなものを見るような、そんな感じがした。
「今日はもうお休みされたらどうですか?皆に言っておきますよ。
あ、昼食はどうしますか?2階に運びましょうか?」
「あ、いえ、要らないです。食べる時は降りますよ」
ハッキリ言って食べるどころではなかった。
早く風呂で筋肉を温めないと、歩けないぞ。
冷や汗をかいていた。
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