28 / 59
第28話 陽一サイド<菜の花スタジオでダンスレッスン>
いよいよ今日の午後が、菜の花のダンススタジオでの初レッスンなんだけど、なんだか気後れしていた。
颯太は土日が休みで、ソファに座ってタブレットをいじっていた。
「颯太さ、この前のレッスンで見たけど、本当にうまくなったよね。
もうステラと変わらないくらい上手になっていて、本当に驚いたよ。頑張って練習したんだね。
確かにあれなら社長たちから、もったいないって言われるのは無理ないと思ったよ」
「……本当?でもいつ勿体ないって言われたの?」
ヤバイ。ちょっと疑いの眼差しだった。
「この前ちらっと夏さんとタワーの下ですれ違ったんだよ。
ここでウソを言うわけないでしょう?本当に素晴らしかったし、驚くほどカッコよかったよ」
「そう?――ありがとう」
それでもすっきりした表情にはならなかった。
「実はお願いがあるんだけど、今日は俺に付き添って欲しい。頼むよ。
だってさ、北原先生も莉子さんもダンスはうまいんだよ。
そんな中で俺が独りついていけなかったら、かわいそうだと思わない?」
視線が泳いでいた。
「……分かったよ、行けばいいんでしょう?」
まだちょっと不機嫌な表情をしていた。
「うん。ありがとうね。うれしい。颯太、大好きだよ」
「じゃあ、今から準備体操をやっとかないと駄目だよ」
早速颯太の指導が始まり、柔軟体操を教えてもらいながら準備完了だ。
14時前に菜の花のダンススタジオ3階に行った。
ここは2階と4階が音楽の練習場になっているらしい。
ドアを開けると、結構若い人が多い。土曜だからかな。
20人くらいが準備体操などをしていた。
颯太と一緒だったから、「えーー?」と驚きの声が上がって、皆の注目を浴びてしまった。
颯太はチラッと俺に”だから嫌だったの”という目で俺を見た。
そこへ北原先生や莉子さん、おまけに夏輝さんまでやって来た。
「ええ~すご~い!」
今度は小さな悲鳴があちこちから上がり、夏さんは皆の視線を浴びていた。
「お久しぶりです。お元気ですか?」と、北原先生や莉子さんに挨拶をした。
莉子さんはオレンジ色のかわいいダンスウェアを着ていた。
「なんでまたダンスを始めることにしたんですか?」
北原先生から少し笑みを浮かべて尋ねられた。
「颯太があまりにダンスに夢中になるので、その理由を知りたくなったんですよ」
「へえ~そうなんですか。颯太さんって愛されてるんですねえ」と北原先生。
ほら、聞こえたか? と颯太を見た。
彼は横を向いて知らん顔をしていた。
「あれ? 颯太さんも来ていたの?」と夏さん。
「はい、先生が一人では寂しいそうです」
微笑んで答える颯太……。くそー!
クスクスと皆の笑いを誘っていたけれど、俺はちらっと横目で恨めし気に颯太を見てしまった。
しかし颯太はどこ吹く風といった様子で、携帯の画面を見ていた。
そこへトレーナーらしき男性が入って来て、颯太に声を掛けた。
「あれ、颯太さんじゃないですか。来てくれたんですか?」
「えへへへ。今日は夫の付き添いなんですよ」
颯太がまた付き添いを強調していた。
「今日はよろしくお願いします」と一応挨拶をしておいた。
「彼はステラビートのリーダーでゲンさんですよ」と夏さんが教えてくれた。
レッスンは早速始まった。
掛け声と共に、ゆるく足を動かすステップから始まった。
そのうちに手を合わせて、足と一緒に動かしていく。
これならついていける。
最初から颯太に合わせたのが間違いだった。
テンポの良い音楽がかかっていた。
チラチラと北原先生や莉子さんを見ると、音楽に乗っていて何の違和感もなく溶け込んでいる。
なんだか悔しい。
彼らも初回のはずなのに、みんな楽に身体が動いている。
やっぱりうまいじゃん。
夏さんも北原先生たちと一緒に踊っていた。
それでも夏さんをチラチラと見る生徒さんたちの視線が熱い!
いいねえ~、モテるって。
この中で俺が一番劣等生だと思った。
俺だけがぎこちない。まだ2回目だからな。
一番後ろの端っこで踊っていたんだけど、
そばで颯太が座ったまま、俺をチェックしていた。
ちらっと颯太を見ると、
あごをしゃくって「もっと頑張ったら?」と合図を送ってきた。
くそー、そんなにダメか?
「はい、次は曲の振りをしましょうか? 何の曲にしようかな?」とゲンさん。
「あ、待って。今度の颯太さんの新曲の振りがカッコいいんですよ。
皆さんに見て貰ったらどうかな?」と夏さん。
「へえ~、いいですねえ! ぜひ拝見したいです。颯太さん、前へどうぞ!」
ゲンさんからお呼びがかかった。
「え、俺ですか?」
他に誰がいる?
颯太の全身からイヤイヤオーラが伝わってきた。ぷっ。
「ちょうど宣伝代わりになって良いじゃない?」と、颯太愛が伝わってくる夏さん。
夏さんが携帯の音源をオーディオ機器につないだ。
「颯太、皆に見せてあげたら? カッコいいんだからさ」
声を掛けた。これは本心だった。
俺もなんだか嬉しくて誇らしい。
颯太は恨めしそうに俺を振り返りながら前に出た。
生徒さんたちは喜んで、「うわ~、ラッキー!」と拍手喝采だ。
そして音楽が始まると、さっと颯太のダンスが始まった。
身体中を使ったダンスで、本当にスマートでカッコいい。
「ついでに歌も歌ったら?」と夏さん。
それを合図に歌い出した。
ちょっとテンポの良い曲だった。
やっぱり颯太は歌がうまいし、キレッキレのダンスで決まっていた!
いいねえ~。うちの奥さんに見惚れた。
ともだちにシェアしよう!

