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第28話 陽一サイド<菜の花スタジオでダンスレッスン> 

 いよいよ今日の午後が、菜の花のダンススタジオでの初レッスンなんだけど、なんだか気後れしていた。 颯太は土日が休みで、ソファに座ってタブレットをいじっていた。 「颯太さ、この前のレッスンで見たけど、本当にうまくなったよね。 もうステラと変わらないくらい上手になっていて、本当に驚いたよ。頑張って練習したんだね。 確かにあれなら社長たちから、もったいないって言われるのは無理ないと思ったよ」 「……本当?でもいつ勿体ないって言われたの?」 ヤバイ。ちょっと疑いの眼差しだった。 「この前ちらっと夏さんとタワーの下ですれ違ったんだよ。 ここでウソを言うわけないでしょう?本当に素晴らしかったし、驚くほどカッコよかったよ」 「そう?――ありがとう」 それでもすっきりした表情にはならなかった。 「実はお願いがあるんだけど、今日は俺に付き添って欲しい。頼むよ。 だってさ、北原先生も莉子さんもダンスはうまいんだよ。 そんな中で俺が独りついていけなかったら、かわいそうだと思わない?」 視線が泳いでいた。 「……分かったよ、行けばいいんでしょう?」 まだちょっと不機嫌な表情をしていた。 「うん。ありがとうね。うれしい。颯太、大好きだよ」 「じゃあ、今から準備体操をやっとかないと駄目だよ」 早速颯太の指導が始まり、柔軟体操を教えてもらいながら準備完了だ。 14時前に菜の花のダンススタジオ3階に行った。 ここは2階と4階が音楽の練習場になっているらしい。 ドアを開けると、結構若い人が多い。土曜だからかな。 20人くらいが準備体操などをしていた。 颯太と一緒だったから、「えーー?」と驚きの声が上がって、皆の注目を浴びてしまった。 颯太はチラッと俺に”だから嫌だったの”という目で俺を見た。 そこへ北原先生や莉子さん、おまけに夏輝さんまでやって来た。 「ええ~すご~い!」 今度は小さな悲鳴があちこちから上がり、夏さんは皆の視線を浴びていた。 「お久しぶりです。お元気ですか?」と、北原先生や莉子さんに挨拶をした。 莉子さんはオレンジ色のかわいいダンスウェアを着ていた。 「なんでまたダンスを始めることにしたんですか?」 北原先生から少し笑みを浮かべて尋ねられた。 「颯太があまりにダンスに夢中になるので、その理由を知りたくなったんですよ」 「へえ~そうなんですか。颯太さんって愛されてるんですねえ」と北原先生。 ほら、聞こえたか? と颯太を見た。 彼は横を向いて知らん顔をしていた。 「あれ? 颯太さんも来ていたの?」と夏さん。 「はい、先生が一人では寂しいそうです」 微笑んで答える颯太……。くそー! クスクスと皆の笑いを誘っていたけれど、俺はちらっと横目で恨めし気に颯太を見てしまった。 しかし颯太はどこ吹く風といった様子で、携帯の画面を見ていた。 そこへトレーナーらしき男性が入って来て、颯太に声を掛けた。 「あれ、颯太さんじゃないですか。来てくれたんですか?」 「えへへへ。今日は夫の付き添いなんですよ」 颯太がまた付き添いを強調していた。 「今日はよろしくお願いします」と一応挨拶をしておいた。 「彼はステラビートのリーダーでゲンさんですよ」と夏さんが教えてくれた。 レッスンは早速始まった。 掛け声と共に、ゆるく足を動かすステップから始まった。 そのうちに手を合わせて、足と一緒に動かしていく。 これならついていける。 最初から颯太に合わせたのが間違いだった。 テンポの良い音楽がかかっていた。 チラチラと北原先生や莉子さんを見ると、音楽に乗っていて何の違和感もなく溶け込んでいる。 なんだか悔しい。 彼らも初回のはずなのに、みんな楽に身体が動いている。 やっぱりうまいじゃん。 夏さんも北原先生たちと一緒に踊っていた。 それでも夏さんをチラチラと見る生徒さんたちの視線が熱い! いいねえ~、モテるって。 この中で俺が一番劣等生だと思った。 俺だけがぎこちない。まだ2回目だからな。 一番後ろの端っこで踊っていたんだけど、 そばで颯太が座ったまま、俺をチェックしていた。 ちらっと颯太を見ると、 あごをしゃくって「もっと頑張ったら?」と合図を送ってきた。 くそー、そんなにダメか? 「はい、次は曲の振りをしましょうか? 何の曲にしようかな?」とゲンさん。 「あ、待って。今度の颯太さんの新曲の振りがカッコいいんですよ。 皆さんに見て貰ったらどうかな?」と夏さん。 「へえ~、いいですねえ! ぜひ拝見したいです。颯太さん、前へどうぞ!」 ゲンさんからお呼びがかかった。 「え、俺ですか?」 他に誰がいる? 颯太の全身からイヤイヤオーラが伝わってきた。ぷっ。 「ちょうど宣伝代わりになって良いじゃない?」と、颯太愛が伝わってくる夏さん。 夏さんが携帯の音源をオーディオ機器につないだ。 「颯太、皆に見せてあげたら? カッコいいんだからさ」 声を掛けた。これは本心だった。 俺もなんだか嬉しくて誇らしい。 颯太は恨めしそうに俺を振り返りながら前に出た。 生徒さんたちは喜んで、「うわ~、ラッキー!」と拍手喝采だ。 そして音楽が始まると、さっと颯太のダンスが始まった。 身体中を使ったダンスで、本当にスマートでカッコいい。 「ついでに歌も歌ったら?」と夏さん。 それを合図に歌い出した。 ちょっとテンポの良い曲だった。 やっぱり颯太は歌がうまいし、キレッキレのダンスで決まっていた! いいねえ~。うちの奥さんに見惚れた。

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