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第29話 陽一サイド<財団の告知と宣伝>
財団の骨子が決まったことで、広報スタッフが仕事募集の広告を出した。
そして採用条件に、
<18の各部署ごとに経験豊富なリーダー、およびスタッフ数名。
キャリアが豊富な方。または身体の都合で仕事が安定しない方。
家庭の事情で家を出て独立したい方、相談に乗ります>
医療部門も加護さんと相談して募集内容を決めた。
この反響は大きかった。
特に”身体の都合で”と、
”家庭の事情で家を出て独立したい”という部分に問い合わせが集中した。
問い合わせはすべてメールに限定したから、まだ助かった。
このメールは宛先を4つに分けた。
●相談をしたい人=広報A
●キャリアのある就職希望者=広報B
●スタッフとしての就職希望者=広報C
●医療スタッフ希望者=加護部長
こちらの条件は、決定したら就職の確約書にサインすること。
●就職は施設が出来るまで待つ。(例外あり)
●一次審査合格者は二次審査の面接がある。
●就職して1か月~2か月は研修期間。
●財団ビルの入寮者は、フルタイムで月額10万の給料
そこから税金保険料が引かれるが、住まいと光熱費、Wi-Fiは無料、食事付きで1食400円。
場所は社長にお願いして、財団の事務所として、30人程度の会議室を使わせてもらえることになった。
室内には透明のパネルで仕切った小さなブースを3つ作り、ここで広報のスタッフが応対する。そしてひたすらリスト化をしてもらう。
そして執事の小林さんも当分の間は、広報達に付き添ってもらう。
医療スタッフの希望者は、加護さんが受けてせっせとリスト化した。
今回は思うところがあって、颯太に理事としての責任の一部を担ってもらいたい。
それで毎日の音楽活動を4時まで終えてミツワに来るように頼んだ。
これを最初に頼んだ時は、やはり颯太が反発した。
「なんで俺がやるの? 先生が代わりにやってくれるんじゃないの?」
「そうだよ。ずっとやってるよ。でも颯太は財団の理事だ。俺はその代行に過ぎない。
スタッフの採用はすごく大変なんだよ。その人の一生を左右するんだ。
颯太も大学を出たんだから理事としての仕事を、一部でもいいから担ってほしい。
名誉会長としての責任もあるでしょう?
それに世の中は良い人ばかりじゃない。
問題のある人が一人いるだけで、他の人たちが犠牲になることもある。
颯太はすごく勘が良いと思う。
その人の空気感というか、匂いというか、オーラを感じるところがある。
だからスタッフを採用するのに、協力してほしいんだ」
「俺にそんなことを期待してるの?自信ないよ……」
うつむいて唇を一文字に結び、手を握り締めていた。
「颯太は絶対出来るよ。もし颯太が失敗したら、それは俺の責任だ。
俺が最後の決定をするから、安心してくれない?それと颯太の意見を聞きたいんだ」
「‥‥‥分かったよ、何をすればいいの?」
ようやく顔を上げてくれた。
「今日から募集の受付を開始しているから、広報スタッフがどんどんリスト化している。
リスト化した情報がカードになって印刷されるから、そのカードをまず部署別の箱に入れる。
ホテルや、ガーデンの箱だよ。
その箱の中でもリーダー候補か、それ以外のスタッフかで分けるんだよ。
部署別の一覧表はもちろんパソコンの中にもあるけどね。
でもカードにするメリットがあるんだよ。あとで説明するね」
「うん、わかった」
なんとなく表情は冴えなかったが、それでも承知してくれた。
俺は颯太に社会人として成長してもらいたかった。
16時になると今日の分は締め切る。
「院長、病院スタッフの応募が凄いですよ。一体どうしたんでしょうか?」
加護さんがちょっと興奮して声を掛けてきた。
その声に颯太も明るい表情になった。
「え、そうなの? そんなに応募があったの?」と颯太。
「でもねえ。一つ大問題があるんですよ。驚かないでください。
佐久間病院の内科医から応募がありましたよ。
どうしますか? 知ってる人ですけど……」
ちょっと加護さんが口ごもった。
「知ってる人って、誰?」
「院長だって知ってますよ。代謝内科の宇津木涼介先生ですよ」
「はーっ、なんで? もしかしてその話は父も知らないんじゃないの?」
くすっと加護さんが笑っていた。
「多分ご存じないと思いますよ。だって院長に理事からまだ電話が来ていないですよね?」
「うん、まだ来てないね。じゃあ知らないんだな……まいったねえ」
加護さんは更に面白そうに言ってきた。
「それだけじゃないですよ。佐久間病院のナースからも3人くらい応募が来ていますよ。
怒られちゃいますよね? まるで引き抜いたみたいじゃないですか?」
「ああ、もう止めてくれよ。困ったな。他の応募のナースはいないの?」
「いや、いますけどね。それよりドクターの方が先じゃないですか?」
「そうだけど、もしかしてまだ他にいるの?」
嫌な予感――。
「それがね……楓先生が希望されてますよ」
「はあ? なんで楓が? それは困るよ」
楽しそうな笑顔の加護さん。
「えへへへ、そうですよね? でも理由がね、家から徒歩3分だから最高だそうです。
将来子供ができたら、パート勤務もできそうだからですって。それが理由だそうですよ」
「ああ――信じられない……父になんて言ったらいいんだよ」
頭を抱えた。
颯太が俺の背中をさすってくれた。
「先生、大丈夫?」
「ううん、大丈夫じゃない」
父の反応が恐ろしい。
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