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第30話 陽一サイド<引き抜き疑惑>
加護さんがまだニヤリとしていた。
なんか嫌な感じ。
「まだあるんだろう?早く言ってよ」
「へへへ、言っちゃいますね。佐久間病院の検査技師が1名とレントゲン技師も1名。この二人は夫婦なんですよね。それで家が近いからお願いしたいって言ってますよ」
「ああ~やめてくれよ……」俺の悲鳴に広報のスタッフがみんなこっちを見た。
「ついでに言うとね、ナースが一人、菜の花病院から来ていますよ。菜の花はすごくいい所だったんだけど、家が財団に近いんですって。それで住宅手当を3万貰ってるんだけど、それくらい出ますか?って聞かれてますよ」
笑いを堪えて加護さんが尋ねた。
「3万なんて出せないよ。北原院長になんて言ったらいいんだよ。もう~顔向けできない」
両手で顔を覆った。
「先生、頑張って」と颯太がさらに背中に顔をくっつけて、手でさすってくれた。
まさかここで密着しているの? どさくさに紛れて……。
「じゃあ、今日の分のカードを並べちゃいますね」と加護さん。
今からトランプを並べますよ~♬とでもいうようなワクワク気分のようだった。
結局、近所に住んでいるからという理由が多かった。
確かにこの町に住んでいるなら、菜の花への通勤は大変だろうと察しはつく。
乗り換えもしないといけないし、渋谷を経由するしな。
「ねえ、何で佐久間病院の人が多いんだろう?」
「多分、理事が院内で発表したからじゃないですか?
院長がミツワ未来財団に専念するって書いたそうですよ。
おまけにクリニックも出来るそうだから、佐久間病院からも応援を派遣する予定って書いたそうですよ。
看護部長が言ってました」
「あっ、そうなのか! それでちょっと移動する気分なのかな?」
「かもしれませんね。割と軽い感じじゃないですか? ミツワなら安定していますしね。
もう社会貢献兼仕事の感覚ですよ」
「はあ、そうか……社内移動ねえ……」
「他からも来てるの?」
「はい、大学病院からもナースが来てますよ。近いですもん」
「精神科医や心療内科医の応募は来てない?」
「ないです」
とにかく、今夜は父に電話するのはやめた。
まだ初日だもんな。
「そっちはなかなか大変そうですな」
小林さんが笑いを押さえた感じで声を掛けてきた。
「そちらはどうですか?」
「オメガの方がやはり大変のようですね。仕事も安定しないようで、短期の仕事しか就けないのだそうです。
それでキャリアを積むに至らないと言っていますよ」
「それは本当に気の毒ですね。オメガの方はほとんど採用してあげたいですね」
「はい、それと寮を希望していますね。通勤や夜歩くのが怖いのだそうです」
「それは優先的に入れてあげたいのですが、やはり面接をしてからですね」
小林さんが静かに同調してくれた。
「ええ、その方がいいでしょう。寮に入れるのは、慎重にした方がいいですね。
オメガの証明書も出してもらわないとね。
共同生活だからだらしない人も困るし、皆と調和が保てる人でないと無理ですからねえ」と小林さん。
まさに同感だ。
加護さんが口を開いた。
「医療スタッフの方は、早めに締め切った方が良くないですか?
そんなに人数は必要ないですよね?」
「うん、そうなんだけど、眼科医の応募はあった?」
「ないです」
「眼科医が決まれば、もしかしたら付随した眼科検査関係のスタッフも一緒に来る可能性もあるんだよね。
なんせ手術ができる人でないと駄目だしね」
「院長、まだ初日ですから、最低でも1週間から10日は保留で良いんじゃないですか?」
「うん、そうだね。応募を受け付けましたのメールは送ってますよね?
そしたら医療スタッフの面接の日だけは決めておきましょうか?」
「はい、それがいいと思いますよ」
未来さんに明日電話しないといけないな。
念のために診察室を増やしておいてもらおう。
2階の眼科は手術室もあるし、検査のための別室も用意していて、広く場所を取っている。
1階か2階にもう一つ診察室を増やしてもらわないといけない。
1階は3室しかないし、ああ、北原先生の悩みが分かるな……。
医者だけ増えても患者が来るのかな? それだよ問題は。
楓はずっと来るつもりだろうけど、恐らく父なら全面的な移動は認めないだろう。
妊娠したのならともかく、病院に楓の名前を残したいだろう。
それに佐久間病院も抜けた多くのスタッフを募集しないといけない。
父も大変だろうし、本当に申し訳ない。
とりあえず楓に、父に言うのは保留にするとメールしておいた。
「やっぱり?」と返信が来た。
ふっ、なんだよ、分かってるじゃん。
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