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第36話 陽一サイド<精神科医・光永蓮>
19時から精神科医の面接だ。会長室に加護さんと並んで待った。
やがて現われた男性は、長身で色白。
清々しい清潔感のある整った顔立ちで、率直に言って素敵な人だった。
一瞬見惚れてしまった……いかんいかん。
「初めまして、精神科専門医の光永蓮と申します。どうぞよろしくお願いします」
彼は丁寧にお辞儀をした。
「ミツワの医療顧問の立花陽一です。
未来財団の理事代理とクリニックの院長を兼任しています」
続いて、加護さんに自己紹介をしてもらった。
ふと見ると、加護さんも一瞬見惚れていたな。
視線ですぐに分かった。
そのせいか、部屋の空気がどこか嬉しそうな和やかなムードに変わる。
まずは基本的な質問から始めた。
「今は33歳で、大学病院にお勤めなんですね?」
「はい、そうです。ネットでこちらの財団を知り、思わず飛びついてしまいました」
彼は照れたようにクスリと笑う。
その笑顔がとてもきれいだ。
「どういうところが気に入ったんですか?」
質問に対し、彼は笑顔のまま視線を下へ向け、どう言葉にしようかと少し迷っている様子だった。
わずかな間が流れる。
「まず、財団の趣旨が素晴らしいと思いましたし、大学病院のようなしがらみもなさそうだなと。何より、理想に向かってまっすぐに立ち向かっている姿勢に惹かれました」
俺は加護さんと顔を見合わせ、今度はこっちが照れ笑いをしてしまう。
「もしかしたら、入ってみたら期待はずれかもしれないですよ。それでもいいんですか?」と俺は少しからかうように尋ねた。
しかし彼は、からかい返すこともなく、まっすぐにこちらを見据えて答えてくれた。
「一般の病院とここを比べたら、根本からレベルが違うと思います。
比較できる世界ではありませんし、設立の動機からしてそもそも違います。
その上で何か難しい壁にぶつかったとしても、それは自分たちが超えていくべき壁だと思っています」
思わず、加護さんと再び目を合わせた。
なんてありがたい言葉だろう――本当に素敵な医師だ。
ここで加護さんが口を開いた。
「よくぞここを見つけてくださいました。本当にありがとうございます」
加護さんも文句なしに気に入ったようだ。
もちろん俺も同じ気持ちで、もう言うことない。
あとは、夜間のオンライン診療という形態を快く受け入れてもらえるかどうかだけだった。
「では、ぜひ一緒に仕事をしましょう。
ただ、財団のビルの完成は1年ほど先になりそうですが、それでもよろしいですか?」
「はい、その辺りは事前に承知しております」
「クリニックでは、精神科医の勤務時間をまだ細かく設定していません。あなたの自由で構いません。
クリニックで診療してもいいし、オンラインなら自宅からでもいい。
極端な話、診療予約が入っていなければ、自宅で寝ていてもかまいませんよ」
そう告げると、光永先生は「え?」と目を丸くして驚いていた。
「18時までは保険診療です。
ただ、メインは18時以降のオンライン診療であって、保険外の自由診療なんです。
例えば21時までですね。時間は先生の自由にしてください。
それで、先ほど1年後と申し上げたのですが、実はガーデン内のホテルはすでに完成しているので、オンライン診療だけになりますが、すぐに就職していただくこともできますよ」
光永先生は「うわ~」とにんまりしながらも、両手で顔をゴシゴシとこすりながら考え込んでいる。
2、3分ほど熟考したのち、
「あ~どうしよう……うーん、では思い切って、すぐに就職させてもらってもいいですか?」
「はい、いいですよ。1年もオンライン診療だけで大丈夫ですか?
予約がなければ寝ていてもいいし、散歩をしていても構いませんよ」
それを聞いた彼は、もう耐えきれなくなったように笑い出した。
開いた口がふさがらないといった風情だ。
「もう、そんなにいいことばかり言われると、ホントに困っちゃいますよ。
逆に、予約が空いている時間には、他の業務もぜひ手伝わせていただきたいです」
彼の顔から笑顔が止まらない。
「はい、それは大助かりです。ではご都合の良い時に、ガーデン内のホテルに引っ越してください。あとの生活のフォローなどは、加護部長にお願いしようかな?」
加護さんから、ふわっと温かい雰囲気が漂ってきた。
「はい、承知しました。精神科のオンライン診療を始めるにあたっては、クリニック全体の案内サイトを作って、その中で精神科部門に繋がる導線を整備することが先決ですね。
それと医療事務ですね。保険診療などの事務部門も必要になるので、山本眼科の事務スタッフを一人こちらに回してもらいましょうか?」
「そうだった。それが先でしたね」
さすがは加護さん、実に頼もしい。
彼女の提案はさらに続く。
「それに、ミツワの会議室に防音ブースを設置していただいて、そこで診療を行ってはどうかと思います。せっかく空いている時間があるのはもったいないですし、他の業務も適宜手伝ってもらうといいですね」
「よし、そうしよう。光永先生、そのやり方でもいいですか?
一人でホテルにこもっていても退屈でしょう?」
それを聞いた彼の目がキラリと輝いた。
「はい、ぜひお願いします! それと……もしよろしければ、そのサイト作りをお手伝いしてもよろしいでしょうか? パソコン作業は得意なもので」
その遠慮がちな申し出に、俺は加護さんに視線を合わせ、小さく頷いた。
「ぜひお願いします。詳細はすべて加護部長に一任します。よろしいですか?」
「はい。それと院長、もう職種ごとの制服の選定を始めないといけませんね。
Zoomで画面に映ってしまいますから」
「あ、そうだった。もう準備を始めないといけないね。制服は加護さんにお任せします。
みんなの分もよろしく頼むよ」
「はい、承知いたしました」
その後、加護さんを青山の自宅まで送り届けてから、俺は生家へと帰宅した。
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